2021年06月03日

【太陽の東 月の西』(East o' the Sun and West o' the Moon)

ノルウェーの民話『太陽の東 月の西』はペテル・クリスティン・アスビョルンセンとヨルゲン・モーによって収集されて、著作『ノルウェー民話集』に収録された。

物語はアールネ・トンプソンのタイプ・インデックスの425A、「失われた夫の捜索」に該当する。英訳は、アンドルー・ラングによって『あおいろの童話集』にも収録される。


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【あらすじ】Wikipedia より

貧しい百姓に白熊が近づき、お返しに金持ちにするから彼の一番若い娘をもらいたいと言った。百姓は白熊を帰し、しぶる娘を説得した。白熊は豪奢で魔法をかけられた宮殿に娘を連れ去った。夜に、白熊の姿を取り去った男性が彼女のベッドに来たが、明かりがなく、娘は彼の姿を決して見ることができなかった。


彼女がホームシックになったとき、彼女を一時家に帰すことを白熊は承知したが、他の人が周囲にいる時はよいが彼女の母と二人だけでは決して話をしないことに同意することを条件とした。自宅では家族が娘を歓迎した。しかし娘の母は二人きりで娘と話そうとして根気強く試みた。そしてついにその機会をとらえ、すべて話すように娘を説得した。娘の話を聞いた母は、白熊は本当はトロールであるに違いないと主張し、娘に数本のロウソクを与え、何者が彼女と寝所を共にしているかを見るために夜にこれらに点火するよう娘に話した。


暗い寝室に点った明かりによって、娘は、彼がとても魅力的な王子であることを知った。一目で恋をし、彼にキスをしてしまうが、その際誤って彼の上に3滴の溶けた獣脂をこぼし、彼を目覚めさせてしまった。王子は、娘が1年待ってくれたならば魔法から解放されただろうと話した。しかし今や、白熊の姿になるように彼に魔法をかけた、太陽の東、月の西の城に住んでいる邪悪な継母(en)の元に行かなければならなくなり、彼女の恐ろしい娘(en)と結婚しなければならなくなった、と。娘は太陽の東、月の西の城に一緒に行きたいと訴えたが、それは許されることではなく、娘がそこへ行く道筋もないと王子は言った。


朝になり、娘は、宮殿が消えているのに気付いた。娘は王子を捜すべく出発した。大きな山に来ると、娘は、金色のリンゴを弄んでいる老女と出会った。太陽の東、月の西の城への行き方を尋ねたが、老女は答えることができなかった。しかし老女は、知っているかもしれない隣人を訪ねられるように娘に馬を貸し、リンゴも与えた。隣人の老女は別の山にいて、金色の梳毛くしを持って外に座っていた。彼女もまた太陽の東、月の西の城への生き方を知らなかったが、知っているかもしれない隣人を訪ねられるように娘に馬を貸し、くしも与えた。3人目の隣人は金色の紡ぎ車を持っていた。彼女もまた、太陽の東、月の西の城への行き方を知らないため、東風に会えるように娘に馬を貸し、紡ぎ車も与えた。


東風は太陽の東、月の西の城へはこれまで行ったことがなかったが、彼の兄弟の西風なら行けるかも知れなかったので、彼は娘を西風の元へ連れて行った。しかし西風も同様であり、娘を南風の元へ連れて行った。しかし南風も同様であり、娘を北風の元へ連れて行った。北風は、かつてポプラの葉をそこに吹き飛ばして疲れ果てたことを娘に話した。しかし本当に行きたいならば連れて行くと言ったため、娘は同意し、北風は1日がかりで娘を城へ運んだ。


翌朝、城の窓の下で娘が金色のリンゴを取り出すと、3アレンの長い鼻をした少女がそれを見つけた。彼女こそ、王子と結婚することになっている姫であった。姫はリンゴを買いたいと申し出た。娘は、王子と夜を過ごすことができることを条件に同意した。姫はその条件を飲んだものの、王子に就眠時に眠り薬の入った飲物を与えた。そのため娘は王子を目覚めさせることができなかった。その翌晩も娘は王子と過ごさせてもらい、対価として姫に梳毛くしを渡した。しかし、王子を目覚めさせようとしたがかなわず、娘は泣き、王子に呼びかけた。


翌朝、城の一角に監禁されていて娘の訪問に気付いた人が、王子に娘のことを話した。3度目の夜、娘から金色の紡ぎ車を受け取った姫はまたも王子に飲物を与えたが、王子はそれを飲まず、眠らないで娘を待っていた。王子は、明日には鼻の長い姫と望まない結婚をしなければならないが、娘が自分を救うことができると話した。例えばシャツに落ちた3滴の獣脂を洗い落とすことは、彼の継母と彼女の娘といったトロールにはできないことなので、そうしたことができないような人物とは結婚しないと断言する。その代わり、王子が娘を呼び、娘はシャツを洗ってきれいにすることができるので、娘は王子と結婚する。


彼の計画はうまくいき、そして継母や鼻の長い姫、居合わせたトロール達は怒りで体が破裂した。こうして王子と彼の花嫁は、監禁されていた囚人達を自由にすると、金と銀を持って太陽の東、月の西の城を去った。



【類話】

スウェーデンでのバージョンは『Prince Hat under the Ground』と呼ばれている。

アールネ・トンプソンのタイプ・インデックスの「425A 失われた夫の捜索」の説話タイプに属する他の物語には、『ノロウェイの黒牛(英語版)』、『The King of Love』、『ノルウェーの茶色いクマ(英語版)』、『The Daughter of the Skies』、『ブタと結婚した王女(英語版)』、『ズキンガラスと妻(英語版)』、『Master Semolina』、『ローズマリーの小枝(英語版)』、『魔法をかけられたヘビ(英語版)』そして『白クマ王ヴァレモン(英語版)』が含まれる。

Wikipedia


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2021年05月31日

六甲のふもと 百年の詩人

「うつくしいもの」八木重吉

わたしみずからのなかでもいい
わたしの外の せかいでもいい
どこにか「ほんとうに 美しいもの」は ないのか
それが 敵であっても かまわない
及びがたくでも よい
ただ  在る

、、

ということが 分かりさえすれば
ああ ひさしくも これを追うに つかれたこころ

(八木重吉詩集より)


早世の詩人、八木重吉(18981927)は英語教師の傍ら、多くの作品を残した。神戸市東灘区で暮らしたこともあった重吉の詩が名前の由来になった河村梢さん(39)=灘区=は子どもの愛らしさを詠んだ重吉の詩を冊子にまとめた。表紙の挿絵を版画で作り、年表や解説もつけた。

 20206月「六甲のふもと 百年の詩人」刊行。215月には育児の詩を集めた「赤ちゃんと百年の詩人」も計250部を刷り、元町通の書店「1003(センサン)」などで、1500円で販売する。(https://1003books.stores.jp/

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2021年05月29日

俳優の松重豊さんが、 初の著書となる小説&エッセイ集『空洞 のなかみ』(毎日新聞出版)を刊行

昨夜のラジオ深夜便でゲスト出演した松重豊さんが、コロナ状況で書いた著作。かなかな読み応えある体験が元になった内容。

軽妙洒脱な筆致で描かれる演者の心象風景。 連作短編小説12+エッセイ25編を収録 


『孤独のグルメ』『ヒキタさんご懐妊ですよ』『きょうの猫村さん』などさまざまな映画、ドラマで注目を集める著者の初の書籍。書き下ろし連作短編小説「愚者譫言(ぐしゃのうわごと)」と週刊誌「サンデー毎日」の連載エッセイ「演者戯言(えんじゃのざれごと)」の2種を収録。演者だからこそ描くことができた心象風景を、独自の軽妙洒脱な筆致で表現。「サンデー毎日」連載時から人気を呼んだ旭川在住のイラストレーターあべみちこによるイラストが彩りを添える。 


「あ、そや、空っぽとな、無、ちゅうのは違うもんなんやで」 

そう言って老人は烏丸御池のバス停で降りて行った。 

二つの言葉がぐるぐる回る。 

あの日からか、自分の仕事が分からなくなった。 

(『愚者譫言』プロローグ 「バスの中」より


目次 

愚者譫言 

バスの中 「プロローグ」 

取調室 「第一話」 

ガベル 「第二話」 

酒場 「第三話」 

伴走 「第四話」 

土の中 「第五話」 

かさぶた 「第六話」 

オペ室 「第七話」 

仇討ち 「第八話」 

日当 「第九話」 

独房 「最終話」 

鯖煮 「エピローグ」 


演者戯言 

設定を変えてしまうほど自白に影響を与える食べ物の存在 

昨日ニンニクさんざ食った奴の臨終に立ち会う気分は如何 

脳に詰まった起訴状がカレーに追い出され睡魔が襲う午後 

異国で異教徒になった日の寿司と浴槽その冷たさについて 

沈黙するポテチ片手の羊たちその記念写真が手許に無い件 

背が伸びる秘訣をと問われたらとりあえず牛乳と答えるよ 

坊主頭の中学生はレゲエとパンクの間で揺れ動くのだった 

覚えられないのは茗荷の所為なのよと可愛い文字で書いた 

オムレツもエッグベネディクトも便座にしゃがんだあとで 

神に見守られた美しい雪隠で考えるのは今宵の夕飯の献立 

定食屋の奥に並ぶ宇宙人の眼差しにライス大盛りを完食す 

東京特許許可局なんて実際には存在しないものじゃぞ隆景 

けして孤独ではないチーム孤独は彼の下で円陣を組むのだ 

餃子耳にはなりたくない相撲好きの柔道家の下手な素振り 

大晦日紅白の真裏で独り年越す方々と共に食さんと欲する 

鬘をとって風呂上がり万願寺唐辛子の甘さを教わった夜に 

最初はグーだが皮膚はカタカナよりも漢字を求めたのだった 

言っとくけど演者はドットで出来てるわけじゃ無いからね 

アンドロイドは博多やわやわうどんの夢を見ていたか否か 

折角結婚祝にすき焼き鍋を贈ったんだから別れないでくれ 

待ち時間にはカメラに向かって無意味な下ネタを連呼する 

師曰く汝が隣人即ち友と限らず写真は撮られる側と限らず 

組事務所で咄嗟に噓をつく心のブレに補正は可能だろうか 

根気良く注射を打ち続け魔の手から逃れる方法を信じるか 

星空にたき火を囲んで人生を語る場を僕が作ってあげよう 


松重豊 まつしげゆたか

俳優。1963年生まれ。福岡県出身。蜷川スタジオを経て、映画、ドラマ、舞台と 幅広く活躍。2007年に映画『しゃべれども しゃべれども』で第62回毎日映画コ ンクール男優助演賞を受賞。2012年『孤独のグルメ』でドラマ初主演。2019 『ヒキタさんご懐妊ですよ』で映画初主演。2020年放送のミニドラマ『きょ うの猫村さん』で猫村ねこを演じて話題に。「深夜の音楽食堂」(FMヨコハマでは、ラジオ・パーソナリティーも務めている。

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「遠近法の詩」まど・みちお

「逆立ちしておまえがおれを眺めてた たった一度きりのあの夏のこと」河野裕子


「手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が」

河野裕子


日本はどこか楽観しているように見えるけど、これは世界全体の問題。大げさだと思われても、外出もなるべく控えるに越したことはない。


「遠近法の詩」まど・みちお

その薬品箱の絵の鍾馗が左右どちらかの手に持っていたのが、小さくはあっても紛れもなくその薬品箱だったからです。つまり鍾馗が手にもつその小さな薬品箱にも、小さな鍾馗が描かれていて、その小さな鍾馗がまた目に見えないくらいの薬品箱を手にしていたのです。

薬品箱を遠近法のゼロへ向かって無限に小さくなっていく鍾馗の列が、ありありと私には見えてくるのでした。それは見えていながら、ながく見ているに堪えないような、しかし見ていないではいられないような、世界中がしーんとしてくるような、胸が痛くなるような、不思議な光景でした。

(『ことば・詩・こども』世界思想社・1979 所収)

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2021年05月28日

「言葉のダシのとりかた」長田 弘 

☆ 料理と映像制作は似ている。

時として言葉を超えた感慨を、俎板から神懸かりで浮かび上がらせる。

ポエジー世界から伺うと長田弘さんは、食べ物の詩を優しい視点で書いていた。まずは材料を爪弾く仕草から。


「言葉のダシのとりかた」長田 弘           

かつおぶしじゃない。

まず言葉をえらぶ。

太くてよく乾いた言葉をえらぶ。 

はじめに言葉の表面の

カビをたわしでさっぱりと落とす。

血合いの黒い部分から、

言葉を正しく削ってゆく。

言葉が透きとおってくるまで削る。

つぎに意味をえらぶ。

厚みのある意味をえらぶ。

鍋に水を入れて強火にかけて、

意味をゆっくりと沈める。

意味を浮きあがらせないようにして

沸騰寸前サッと掬いとる。

それから削った言葉を入れる。

言葉が鍋のなかで踊りだし、 

言葉のアクがぶくぶく浮いてきたら

掬ってすくって捨てる。

鍋が言葉もろともワッと沸きあがってきたら

火を止めて、あとは

黙って言葉を漉しとるのだ。

言葉の澄んだ奥行きだけがのこるだろう。

それが言葉の一番ダシだ。

言葉の本当の味だ。

だが、まちがえてはいけない。

他人の言葉はダシにはつかえない。

いつでも自分の言葉をつかわねばならない。

(『長田弘詩集』ハルキ文庫より)


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<青年期>

『長田弘詩集』(「われら新鮮な旅人」所収・現代詩文庫・思潮社)

『続長田弘詩集』(「メランコリックな怪物」「言葉殺人事件」所収・現代詩文庫・思潮社)

<往年期>

『長田弘詩集』(2003年ハルキ文庫『深呼吸の必要』『食卓一期一会』『心の中にもっている問題』『世界は一冊の本』『記憶のつくり方』『小道の収集』より自選)

『死者の贈り物』(2003年・みすず書房)

『人生の特別な一瞬』(2005年・晶文社)

〈歿後期〉

『長田弘詩集』(岩波文庫)Kindle

全詩集より選出された、初期より晩年にかけて代表的な詩作が年代順に編集されている。

 

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「ルクセンブルクのコーヒー茶碗」


ちがった街の一日のはじまりには、

朝の光と朝のコーヒーがあればいい。

 

知らない街の気もちのいい店で、

日射しにまだ翳りのある午前、

淹れたてのコーヒーをすする。

 

「人が生まれるときは柔らかで弱々しく、死ぬときは堅くてこわばっている。

草や木が生きているあいだは柔らかでしなやかであり、死んだときは、くだけやすくかわいている。

だから、堅くてこわばっているのは死の仲間であり、柔らかで弱々しいのが生の仲間だ」

 

『老子』のそんな言葉が、

つと生き生きと目の中に立ち上がってくれるのは、そうした日の朝だ。

 

堅くてこわばった日々のなかに、柔かでしなやかなこころを失うことの危うさを考える。

 

ちがった街では誰に会うこともない。

忘れていた一人の自分と出会うだけだ。

 

その街へゆくときは一人だった。

けれども、その街からは、

一人の自分と道づれでかえってくる。

 (『長田弘詩集』ハルキ文庫より)

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2021年05月23日

『怪奇骨董翻訳箱 ドイツ・オーストリア幻想短篇集』垂野創一郎・編纂翻訳(国書刊行会)

ドイツが生んだ怪奇・幻想・恐怖・耽美・諧謔・綺想文学の、いまだ知られざる傑作・怪作・奇作たち。ほとんど全編が本邦初訳・美麗函入。 


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『怪奇骨董翻訳箱 ドイツ・オーストリア幻想短篇集』垂野創一郎・編纂翻訳(国書刊行会) 

I 人形

 クワエウィース? フェルディナンド・ボルデヴェイク

 伯林白昼夢 フリードリヒ・フレクサ

 ホルネクの自動人形 カール・ハンス・シュトローブル


II 分身

 三本羽根 アレクサンダー・レルネット=ホレーニア

 ある肖像画の話 ヘルマン・ヴォルフガング・ツァーン

 コルベールの旅 ヘルマン・ウンガー


III 閉ざされた城にて

 トンブロウスカ城 ヨハネス・リヒャルト・ツアー・メーゲデ

 ある世界の終わり ヴォルフガング・ヒルデスハイマー

 アハスエルス ハンス・ヘニー・ヤーン


IV 悪魔の発明

 恋人 カール・フォルメラー

 迷路の庭 ラインハルト・レタウ

 蘇生株式会社 ヴァルター・ラーテナウ

  

天国への階段

 死後一時間目 マックス・ブロート

 変貌 アレクサンダー・モーリッツ・フライ

 美神の館・完結編 フランツ・ブライ


VI 妖人奇人館

 さまよえる幽霊船上の夜会(抄) フリッツ・フォン・ヘルツマノフスキ=オルランド

 人殺しのいない人殺し ヘルベルト・ローゼンドルファー

 ドン・ファブリツィオは齢二十四にして ペーター・マーギンター


「猫屋敷から北極星へ」あとがきにかえて 垂野創一郎


神田神保町の古書店にて未訳書物を数百円で物色する、編纂者・翻訳家のあとがきが骨董品愛好家としての熱気満々が伝わってくる。惜しみない徒労と好奇心の探究。本物の料理についてレシピは、味わい新たに創作するより古井戸など散策して見出すことが第一歩であった。

かつて『ナペルス枢機卿』を翻訳された種村季弘さんを彷彿とさせる、大業かもしれない本書。

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2021年05月20日

『族長の秋』ガルシア・マルケス

大統領は死んだのか? 大統領府にたかるハゲタカを見て不審に思い、勇気をふるい起こして正門から押し入った国民が見たものは、正体不明な男の死体だった。

複数の人物による独白と回想が、年齢232歳ともいわれる大統領の一生の盛衰と、そのグロテスクなまでの悪行とを次々に明らかにしていく。しかし、それらの語りが浮き彫りにするのは、孤独にくずおれそうなひとりの男の姿だった。


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《あれですよ、閣下、と言われて、タナグアレナの浜辺で眠っている純金の牛を眺めた。絃が一本しかないバイオリンで死神の誘いの手を払い、代わりに二レアルをいただくという、ラ・グアイラ生まれの千里眼的な盲人を眺めた。トリニダードの八月の灼熱地獄や、バックで走り抜ける自動車を眺めた。絹のワイシャツや、中国の大官を彫った丸ごと一本の象牙をあきなう店の前の通りで、大ぐそを垂れているインド人たちを眺めた。悪夢のようなハイチや、その青いのら犬たちや、夜明けに道端の死骸を集めてまわる牛車などを眺めた。》

『族長の秋』ガルシア・マルケス(著)鼓 直(訳)より

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『ガルシア・マルケス全短編』Kindle

「死」や「夢」など根源的な主題を実験的手法で描き、溢れんばかりの活力を小説に甦らせたコロンビアのノーベル賞作家ガルシア=マルケスの短篇全集。

「青犬の目」「ママ・グランデの葬儀」「純真なエレンディラと非情な祖母の信じ難くも悲惨な物語」と題されてまとめられた初期・中期・後期の3つの短篇集所収の26編を収録。巻末の詳細な「作品解題」とあいまって、この作家の誕生から円熟にいたるまでの足跡をつぶさにたどることができる。


<収録作品> 既刊データ

【青犬の目】 

第三のあきらめ 死の向こう側 エバは猫の中 三人の夢遊病者の苦悩 鏡との対話 青犬の目 六時の女 天使に待ち呆けをくわせた黒人、ナボ 誰かが薔薇にさわった 鴫の夜 イサベルの独白マコンドに降る雨を眺めながら


【ママ・グランデの葬儀】 

火曜日の昼寝 最近のある日 この村に泥棒はいない バルタサールの素敵な夕暮れ モンティエルの未亡人 土曜日の次の日 造花の薔薇 ママ・グランデの葬儀 


【純真なエレンディラと非情な祖母の信じ難くも悲惨な物語】 

大きな翼を持った老人 失われた時代の海 世界で最も美しい溺死体 愛のかなたの不変の死 幽霊船 最後の航海  善人ブラカマン、奇蹟の行商人    純真なエレンディラと非情な祖母の信じ難くも悲惨な物語  
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2021年05月16日

『イギリス民話集』岩波文庫

ジャックと豆のつる」や「三匹の子豚」といったおなじみの物語をはじめ,妖精や人魚の登場する幻想的な話,イギリス人好みの怪奇現象や幽霊にまつわる話,さらにユーモラスな一口噺など,一○○篇の民話を集めた.ヴァラエティに富んだこの一冊のうちに,読者はおのずからイギリス的なるものを感じとることだろう.

ここに集めた一〇〇編の物語をつうどくしてみると,確かに発想の奇抜さという点で驚かされる.あの謹厳実直,重厚で,一見むっつりとして天候の話しかしない(と思われている)取りつきにくいイギリス人に,これほど秀抜なユーモア感覚があったのか,とびっくりされる読者も多いに違いない.この民話集では,《むかし話》として,古くからよく知られている物語をジェイコブズの手になる再話を中心に収め,《ふしぎな話》と《こっけいな話》の項目には,従来ほとんど知られていなかった民話を,古いものから比較的新しいものまで選んでみた.……なお翻訳は,古い昔話は口から口へと伝えられたものであることを考え,できるかぎり「語られる文章」に近くなるように努力してみた.
(「解説」より)

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『イギリス民話集』岩波文庫【目次】
〈むかし話〉
ちょっぴりけ/白い家のおじいさん/黄金の腕/骨/梨の太鼓/フォックス氏/藺草ずきん/職人の貞節な妻/ロバとテーブルとこん棒/ノロウェイの黒い牛/魚と指輪/ゴボン・シーア/《この次》さん/ジャックと豆のツル/ジャックと金のかぎタバコ入れ/魔女の婆さん/スファムの行商人/脳味噌ちょっぴり/トム・ティット・トット/三つの願い/この世の果ての井戸/ウィッティントンと猫/赤い毛むくじゃらの男/白いペチコートの王女/こわいものなしの娘/ちっちゃな小鳥

〈ふしぎな話〉
妖精の麦打ち/小妖精(ピクシー)へのお礼/妖精の男やもめ/ウェイストネス島の男/ジョニー・クロイと人魚/人魚の恩返し/猫の王様/グレンデヴォンの笛吹き男/再婚/スタンホープの妖精たち/三頭の牛/イージントンの野うさぎ/うさぎの会議/ケンプのおっかあ/ナン・ハードウィック/証拠の剣/招かざる客/気がかりな旗手/バークベックの亡霊/クリスマス前夜の張り番/夢の家/エリザベスとヘフジバ/漁師の妻と毛糸玉/五個の白い小石/スリン湖の妖女/もう一人分の空き/ふしぎな訪問者/悪魔と修道士/半開きの戸/二つの光/魔の浅瀬/ファーネルの亡霊/フェン地方の幽霊/亡霊の仕返し/角灯(カンテラ)を持った女/霊を鎮める/ポートハングワーサの恋人たち/通夜の誓い/片目の継母/絹の肩掛け/サフォークの奇蹟

〈こっけいな話〉
送りびんた/わいろ/売り手と買い手/時計/夢を見た三人の男のこっけいな物語/夢のごちそう/あまんじゃく女房/嘘つき舌と物忘れ病の治療/猟犬と野うさぎ/口の利けない女房/農夫と女房と鏡/三人の子の運勢を占った修道士/亭主のタバコ/ジャック・ハナフォード/ナイフか鋏か/牧師さんの羊を盗んだ男/船につけたしるし(その一,その二)/亭主関白/ウェアとロンドンの間で財布を失くした商人/うれし悲し/行方不明の女房/ペンゲリー氏と悪魔/レスターの修道士――四たび殺され,一度吊された男/井戸の中の月/豚のしつけ/ビール樽に落ちたねずみ/嘘つきの賞品/女の特性/金持ちの遺産/大うそつき/よく眠る男/穴一つに三人

作品紹介
解説 河野一郎
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2021年05月13日

心は、身体と一緒なので(吉野弘詩集)

「身も心も」吉野弘

身体は
心と一緒なので
心のゆくところについてゆく。

心が 愛する人にゆくとき
身体も 愛する人にゆく。
身も心も。

清い心にはげまされ
身体が 初めての愛のしぐさに
みちびかれたとき
心が すべてをもはや知らないのを
身体は驚きをもってみた。

おずおずとした ためらいを脱ぎ
身体が強く強くなるのを
心は仰いだ しもべのように。

強い身体が 心をはげまし
愛のしぐさをくりかえすとき
心がおくれ ためらうのを
身体は驚きをもってみた。

心は
身体と一緒なので
身体のゆくところについてゆく。

身体が愛する人にゆくとき
心も 愛する人にゆく。

身も心も?

(『吉野 弘詩集』より)


『吉野弘詩集』岩波文庫
結婚式の祝辞としてよく引かれる「祝婚歌」,いのちの営みに静謐で温かい眼差しを投げかける「I was born」,現代における「受難」の意味を,心のやさしさに凝視める「夕焼け」――.穏やかな語り口の,深い愛情に満ちた,鮮やかな抒情の音をひびかせる,吉野弘(1926―2014)のエッセンス.(解説=小池昌代・谷川俊太郎)

目次

『消息』――(「谺」詩の会,一九五七)
  君も
  さよなら
  burst
  亡きKに
  挨拶
  記録
  日々を慰安が
  刃
  奈々子に
  ひとに
  身も心も
  雪の日に
  美貌と心と
  初めての児に
  父
  I was born
  かたつむり

『幻・方法』――(飯塚書店,一九五九)
  たそがれ
  星
  夕焼け
  夏の夜の子守唄
  岩が

『10ワットの太陽』――(思潮社,一九六四)
  火の子
  乳房に関する一章
  鎮魂歌
  素直な疑問符
  六月
  顔
  仕事
  離婚式に出会う
  ヒューマン・スペース論

『感傷旅行』――(葡萄社,一九七一)
  修辞的鋳掛屋
  伝道
  香水
  エド&ユキコ
  実業
  眼・空・恋
  妻に
  或る朝の
  三月
  早春のバスの中で
  みずすまし
  一年生
  海
  鎮魂歌
  湖
  釣り
  ざくろ
  石仏
  六体の石の御仏
  種子について
  初冬懐卵
  雪の日に
  室内
  二月三十日の詩
  新しい旅立ちの日

『北入曽』――(青土社,一九七七)
  韓国語で
  漢字喜遊曲
  過
  争う
  生命は
  茶の花おぼえがき
  台風
  虹の足
  秋の傷
  鏡による相聞歌
  ほぐす
  二月の小舟
  小さな出来事
  忘れられて
  自分自身に
  樹
  豊かに
  オネスト・ジョン
  挿話

『風が吹くと』――(サンリオ,一九七七)
  魚を釣りながら思ったこと
  船は魚になりたがる
  運動会
  立ち話
  祝婚歌

『叙景』(青土社,一九七九)
  叙景
  林中叙景
  母
  創世記
  白い表紙
  脚
  日向で
  カヌー
  夜遅く
  十三日の金曜日
  声の大人たち


『陽を浴びて』――(花神社,一九八三)
  陽を浴びて
  夕方かけて
  円覚寺
  乗換駅のホームで
  或る声・或る音
  樹木
  四つ葉のクローバー
  過ぎ去ってしまってからでないと
  漢字喜遊曲――王と正と武
  池の平
  車窓から
  ある高さ
  草

『自然渋滞』――(花神社,一九八九)
  紹介
  酒痴
  雨飾山
  短日
  つくし
  「止」戯歌
  (覆された宝石)考
  貝のヒント
  冷蔵庫に
  モジリアニの眼
  人間の言葉を借りて
  明るい方へ
  最も鈍い者が

『夢焼け』――(花神社,一九九二)
  夢焼け
  某日
  食口
  ぬけぬけと自分を励ますまじめ歌

『吉野弘全詩集増補新版』――(青土社,二〇一四)
 ●「未刊行詩篇選」より
  飛ぶ
  滝
  秋闌けて
  おとこ教室

単行詩集未収録詩篇から
  雪
  埴輪族
  原っぱで
  錆びたがっている鉄の歌
  食べない
  生長
  果実と種子
  青い記憶
  姉妹
  フルート
  雪の拳
  揉む
  夕陽を見つめながら
  動詞「ぶつかる」


《解説》
  還流する生命(小池昌代)
  いないのに居る(谷川俊太郎)

吉野弘自筆年譜

(岩波文庫・Kindle)

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2021年05月04日

日本はなぜ、「基地」と 「原発」を止められないのか (講談社+α 文庫)

ベストセラーになった二冊。知ったほうがいいことが、書かれております。
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日本はなぜ、「基地」と 「原発」を止められないのか (講談社+α 文庫) 

なぜ、戦後70年たっても、米軍が首都圏上空を支配しているのか?なぜ、人類史上最悪の原発事故を起こした日本が、再稼働に踏みきろうとするのか?なぜ、被爆した子どもの健康被害が、見て見ぬふりをされてしまうのか?なぜ、日本の首相は絶対に公約を守れないのか?だれもがおかしいと思いながら、止められない。日本の戦後史に隠された「最大の秘密」とは?
【目次】
1 沖縄の謎―基地と憲法
2 福島の謎―日本はなぜ、原発を止められないのか
3 安保村の謎1―昭和天皇と日本国憲法
4 安保村の謎2―国連憲章と第2次大戦後の世界
5 最後の謎―自発的隷従とその歴史的起源
eBook: 矢部宏治: Kindleストア

矢部宏治[ヤベコウジ] 
1960年、兵庫県生まれ。慶応大学文学部卒。(株)博報堂マーケティング部をへて、1987年より書籍情報社代表。
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2021年05月02日

佐佐木信綱 短歌十三選

幼きは幼きどちのものがたり葡萄のかげに月かたぶきぬ


春の日の夕べさすがに風ありて芝生にゆらぐ鞦韆のかげ


誰と知らず何処と知らずつくづくと冷たき眼して我を眺むる


ぽつかりと月のぼる時森の家の寂しき顔は戸を閉ざしける


人の世はめでたし朝の日をうけてすきとほる葉の青きかがやき


いつまでか此のたそがれの鐘はひびく物皆うつりくだかるる世に


道の上に残らむ跡はありもあらずもわれ虔みてわが道ゆかむ


山の上にたてりて久し吾もまた一本の木の心地するかも


白雲は空に浮べり谷川の石みな石のおのづからなる


山にありて山の心となりけらしあしたの雲に心はじまる


春ここに生るる朝の日をうけて山河草木みな光あり


あまりにも白き月なりさきの世の誰が魂の遊ぶ月夜ぞ


花さきみのらむは知らずいつくしみ猶もちいつく夢の木実を


【佐佐木信綱】歌人、国文学者。国学者佐佐木弘綱の長男。明治21(1888)帝国大学卒業後、短歌革新運動に参加。31年から竹柏会を主宰し『心の花』を機関誌とする。歌集に『思草』(1903)、『新月』(1912)などがある。

万葉集や歌学を研究、37年以降26年間にわたり東京帝大で教鞭を執る。『日本歌学史』(1910)、『和歌史の研究』(1915)、『校本万葉集』(192425)等の編著がある。昭和12(1937)1回文化勲章受賞。文学博士。学士院・芸術院会員。

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2021年04月30日

北から攻め寄せて来たらいよいよのことぞ。

北から来るぞ。神は気(け)もない時から知らしておくから、よくこの神示(ふで)、心にしめておれよ。(上つ巻 第二十五帖)


北から攻め寄せて来たらいよいよのことぞ。(上つ巻 第二十五帖)


北から攻めて来るときが、この世の終り始めなり(富士の巻 十五帖)


世界の片端浜辺からいよいよが始まると知らしてあること近うなりたぞ。(極め之巻 第十六帖)


一日に十万、人死にだしたら神の世がいよいよ近づいたのざから、よく世界のことを見て皆に知らして呉れよ。この神は世界中のみか天地のことを委(まか)されてゐる神の一柱ざから、小さいこと言ふのではないぞ、小さいことも何でもせなならんが、小さい事と臣民思うてゐると間違ひが起るから、臣民はそれぞれ小さい事もせなならんお役もあるが、よく気をつけて呉れよ。北から来るぞ。神は気もない時から知らして置くから、よくこの神示、心にしめて居れよ。一日一握りの米に泣く時あるぞ、着る物も泣くことあるぞ、いくら買溜めしても神のゆるさんもの一つも身には附かんぞ


あらしの中の捨小舟ぞ、どこへ行くやら行かすやら、船頭さんにも分かるまい、メリカ、キリスは花道で、味方と思うた国々も、一つになりて攻めて来る、梶(かじ)も櫂(かい)さへ折れた舟、何うすることもなくなくに、苦しい時の神頼み、それでは神も手が出せぬ、腐りたものは腐らして肥料になりと思へども、肥料にさへもならぬもの、沢山出来て居らうがな、北から攻めて来るときが、この世の終り始めなり、


今度 捕へられる人民 沢山にあるが、今度こそはひどいのざぞ。牢獄で自殺するものも出来て来るぞ。女、子供の辛いことになるぞ。九分通りは一度出て来るぞ、それまでに一度盛り返すぞ、わからんことになったら愈々のことになるのざぞ。みたま磨けよ。


夜半に嵐のどっと吹く、どうすることもなくなくに、手足縛られ縄付けて、神の御子等を連れ去られ、後には老人(としより)不具者(かたわ)のみ、女子供もひと時は、神の御子たる人々は、悉々暗い臭い屋に、暮さなならん時来るぞ、宮は潰され御文(みふみ)皆、火にかけられて灰となる、この世の終り近づきぬ。


金で世を治めて、金で潰して、地固めして みろくの世と致すのぢゃ。三千世界のことであるから、ちと早し遅しはあるぞ。少し遅れると人民は、神示は嘘ぢゃと申すが、百年もつづけて嘘は云へんぞ。


1日10万人死に出したら神の世がいよいよ近づいてのざからよく世界のことを見て皆に知らせてくれよよく気つけてくれよ。北からくるぞ


日本が一度潰れたようになり 神も仏もない世界が来る東京も一時土に帰るからそのつもりでおれ


江戸と申すのは東京ばかりではないぞ。今のような都会みなエドであるぞ。江戸は何うしても火の海ぞ。8と18、5月、9月、10月に気をつけてくれよ


日の出の巻 第7帖

オロシヤに上がって降りた極悪の悪神、 いよいよ神の国に攻め寄せて来るぞ。

北に気をつけと、北がいよいよギリギリだと申して執念(くどく)気つけてあったこと近くなったぞ。


雨の巻 第10帖

オロシヤの悪神の仕組み 人民には一人もわかっていないのだぞ。

神にはようわかっての今度の仕組みであるから仕上げ見て下されよ、 この方に任せておきなされ、 一切心配なくこの方の申す様にしておって見なされ、 大舟に乗っていなされ、 光りの岸に見事つけて喜ばせてやるぞ、 どこにいても助けてやるぞ。


富士の山動くまではどんなことにも耐えねばならんぞ。飢えつらいぞ。どんなことあっても死に急ぐでないぞ


【神典研究家・岡本天明】

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2021年04月26日

『不合理ゆえに吾信ず』埴谷雄高

Credo, quia absurdum. 不合理ゆえに吾信ず」

−生と死と。Pfui !

魔の山の影を眺めよ。

 悪意と深淵の間に彷徨いつつ

 宇宙のごとく

 私語する死霊達

 すべて主張は偽りである。

或るものをその同一のものとしてなにか他のものから表白するのは正しいことではない。


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 −私が 《自同律の不快》と呼んでいたもの、それをいまは語るべきか。

 −さて、自然は自然に於いて衰頽することはあるまい。

 −凡てが許されるとしても、意識のみは許されることはあるまい。この悪徳め!

 −そこに曖昧なものなくして何らの断定も出来ないこと。

ここにもまた悪徳がある。

 −われわれがなんであれ、いずれにせよ、とにかくそれとは別のものなのだ。

 私は或る隠者の話を想い出そう。その隠者は自身を索めようとして先ず足を切った。更に索め得られる、そう呟きながら、次に手を切った。そして、次第に自身を切り刻んでいって、影も形もみとめられなくなったと云われる。《だが聞いてみろ。そこにはまだ呟きが聞こえるのだ。ほれ、聞こえる。非常にさだかならぬひそやかなところに−》まことそこに偽りなくしてなんらの論理もあり得ない。

『不合理ゆえに吾信ず』埴谷雄高(現代思潮社)より

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2021年04月25日

西東三鬼『神戸』『続・神戸』全話掲載

 それは奇妙なホテルであった。
 神戸の中央、山から海ヘー直線に下りるトーアロード(その頃の外国語排斥から東亜道路と呼ばれてゐた)の中途に、芝居の建物のやうに朱色に塗られたそのホテルがあった。
 私はその後、空襲が始まるまで、そのホテルの長期滞在であったが、同宿の人々も、根が生へたやうにそのホテルに居据わつてゐた。彼、或ひは彼女等の国籍は、日本が十二人、白系ロシヤ女一人、トルコタタール夫婦一組、エヂプト男一人、台湾男一人、朝鮮女一人であった。十二人の日本人の中、男は私の他に中年の病院長が一人で、あとの十人はバーのマダムか、そこに働いてゐる女であった。彼女等は、停泊中の、ドイツの潜水艦や貨物船の乗組員、か持ち込んで来る、耀詰や黒パソを食って生きてゐた。しかし、そのホテルに下宿してゐる女達は、ホテルの自分の部屋に男を連れ込む事は絶対にしなかった。さういふ事は「だらしがない」といぱれ、仲間の軽蔑を買ふからである。
 その頃の私は商人であった。しかし、同宿の人達は、外人までが(ドイツの水兵達も)私を「センセイ」と呼んでゐた。(何故、彼等がさういふ言葉で私を呼ぶやうになったかについては、この物語の第何話かで明らかになる。)

西東三鬼『神戸』全話掲載

《俳句・昭和31年6月号》連載終了

西東 三鬼(さいとう さんき、1900年(明治33年)5月15日 - 1962年(昭和37年)4月1 日)岡山県出身の俳人。
日本歯科医専卒。本名、斎藤敬直。新興俳句運動の中心となるが、京大俳句事件で検挙。戦後「天狼」「断崖」を創刊。句集「夜の桃」、随筆集「神戸」「続神戸」など。

『続神戸』西東三鬼 

 かつて私は綜合俳誌「俳句」に、「神戸」十話を連載した。
 それは昭和十七年から昭和二十一年まで、神戸で過した間の挿話である。
「神戸」に登場した人々は、内外人すべて善人ばかりで、同時に戦争中の「非常時態勢」に最も遠い人達である。
私も亦、彼等と共に、自由こそ最高の生甲斐と考えていたので、彼等の生き方に深い興味を持った。
「神戸」は意外に多くの愛読者を得た。映画化の話ももたらされた。さて、本誌編集長は、いまや「神戸」続編を強要してやまない。
しかし、「神戸十話」を書きしるした時と、現在とでは、私の住居、境遇にも大きな変化があり、加うるに老頻、ペンの泉も涸れ果てた。
再びの無頼文章が、読者の一顧を得られようとは思われないが、幸いにして「からきこの世」の一微笑ともなればと、恥多き愚談を綴るのである。
内容は前編と同じく全く虚構を避けた。さればゆめゆめ、誓子先生のごとく、眉に唾を附け給うことなかれ。

西東三鬼『続神戸』全話掲載

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2021年04月20日

ダンテ『神曲』より

美は魂を覚醒させ行動を起こさせる。

Beauty awakens the soul to act.


熱さと火は切り離すことができない。美しさと神も。

Heat cannot be separated from fire, or beauty from The Eternal.


他人のパンの味がいかに塩辛く、他人の家の階段の上がり下がりがいかにつらいことか、あなたにも分かるであろう。

You shall find out how salt is the taste of another man’s bread, and how hard is the way up and down another man’s stairs.


ダンテ『神曲』より

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2021年04月16日

BRUTUS(ブルータス) マンガが好きで好きで好きでたまらない

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BRUTUS(ブルータスマンガが好きで好きで好きでたまらない


世の中イマイチでも、マンガがあれば大丈夫。ページを夢中でめくり、想像力を自由に遊ばせる体験はただただ楽しく。

片桐仁、ゆうたろう、長濱ねる、水野敬也、松田青子ら、マンガがくれる特別な時間に魅了された熱い読み手たちが、今回も愛してやまない作品について語り倒します。

『ノラと雑草』の真造圭伍による新作描き下ろしも。

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2021年04月12日

狐が自ら歌った謡「トワトワト」

トワトワト

ある日に海辺へ食物を拾いに

出かけました.

石の中ちゃらちゃら

木片の中ちゃらちゃら

行きながら自分の行手を見たところが

海辺に鯨が寄り上って

人間たちがみんな盛装して

海幸をば喜び舞い海幸をば喜び躍り肉を切る者運ぶ者が

行き交かって重立った人たちは海幸をば謝し拝む者

刀をとぐ者など浜一ぱいに黒く見えます.

私はそれを見ると大層喜びました.

「ああ早くあそこへ着いて

少しでもいいから貰いたいものだ」と

思って「ばんざーい! ばんざーい」と

叫びながら

石の中ちゃらちゃら

木片の中ちゃらちゃら

行って行って近くへ行って見ましたら

ちっとも思いがけなかったのに

鯨が上ったのだとばかり思ったのは

浜辺に犬どもの便所があって

大きな糞の山があります,

それを鯨だと私は思ったので

ありました.

人間たちが海幸をば喜んで躍り海幸をば喜び舞い

肉を切ったりはこんだりしているのだと

私が思ったのはからすどもが

糞をつっつき糞を散らし散らし

その方へ飛びこの方へ飛びしているのでした.

私は腹が立ちました.

「眼の曇ったつまらない奴

眼の曇った悪い奴

尻尾の下の臭い奴

尻尾の下の腐った奴

お尻からやにの出る奴

お尻から汚い水の出る奴

なんという物の見方をしたのだろう.」

それからまた

石の中ちゃらちゃら

木片の中ちゃらちゃら

海のそばから走りながら

見たところが私の行手に

舟があってその舟の中で

人間が二人互いにお悔みをのべています,

「おや,何の急変が

あるのでああいう事をしているのだろう,もしや

舟と一しょに引繰ひっくりかえった人でもあるのではないかしら,

おお早くずっと近くへ行って

人の話を聞きたいものだ.」

と思うのでフオホホーイと

高く叫んで

石の中ちゃらちゃら

木片の中ちゃらちゃら

飛ぶようにして行って見たら

舟だと思ったのは浜辺にある

岩であって,人だと思ったのは

二羽の大きな鵜であったのでした.

二羽の大きな鵜が長い首をのばしたり縮めたり

しているのを悔みを言い合っている様に

私は見たのでありました.

「眼の曇ったつまらない奴

眼の曇った悪い奴

尻尾の下の臭い奴

尻尾の下の腐った奴

お尻からやにの出る奴

お尻から汚い水の出る奴

なんという物の見方をしたのだろう.」

それからまた

石の中ちゃらちゃら

木片の中ちゃらちゃら

飛ぶ様にして川をのぼって行きましたところが

ずーっと川上に女が二人

浅瀬に立っていて泣き合っています.

私はそれを見てビックリして

「おや,なんの悪い事があって

なんの凶報が来てあんなに泣き合って

いるのだろう?

ああ早く着いて人の話を

聞きたいものだ.」

と思って

石の中ちゃらちゃら

木片の中ちゃらちゃら

飛ぶ様にして行って見たら

川の中程に二つの簗やながあって

二つの簗の杭くいが流れにあたってグラグラ動いているのを

二人の女がうつむいたり仰むいたりして

泣き合っているのだと私は思ったの

でありました.

「眼の曇ったつまらぬ奴

眼の曇った悪い奴

尻尾の下の臭い奴

尻尾の下の腐った奴

お尻からやにの出る奴

お尻から汚い水の出る奴

なんという物の見方をしたのだろう.」

それからまた,川をのぼって

石の中ちゃらちゃら

木片の中ちゃらちゃら

飛ぶようにして帰って来ました.

自分の行手を見ましたところが

どうしたのだか

私の家が燃えあがって

大空へ立ちのぼる煙は

立ちこめた雲の様です.それを見た私は

ビックリして気を失うほど

驚きました.女の声で叫びながら

飛び上りますと,むこうから誰かが

大きな声でホーイと叫びながら私のそばへ

飛んで来ました.見るとそれは私の妻で

ビックリした顔色で息せききって,

「旦那様どうしたのですか?」

と云うので,見ると

火事の様に見えたのに

私の家はもとのまま

たっています.火もなし,煙もありません.

それは,私の妻が搗物つきものをしていると

その時に風が強く吹いて簸ている粟の

糠ぬかが吹き飛ばされるさまを

煙の様に私は見たのでありました.

食物を探しに出かけても食物も見付からず,その上に

また,私が大声を上げたので私の妻が

それに驚いて簸ていた粟をも

簸と一しょに放り飛ばしてしまったので

今夜は食べる事も出来ません

私は腹立たしくて床の底へ

身を投げて寝てしまいました.

「眼の曇ったつまらぬ奴

眼の曇った悪い奴

尻尾の下の臭い奴

尻尾の下の腐った奴

お尻からやにの出る奴

お尻から汚い水の出る奴

なんという物の見方をしたのだろう.」

と狐の頭かしらが物語りました.


【青空文庫】知里幸恵『アイヌ神謡集』より

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2021年04月08日

【論語と算盤】渋沢栄一

私は日頃の経験を通じて、「論語と算盤とは一致すべきもの」という持論を持っている。講師が懸命に道徳を教えていた際、彼は経済についてもかなり注意を払っていたと思う。これは論語のあちこちに見られる。国を動かす政治家には政務費がいるのはもちろん、一般人も衣食住の費用はかかり、金銭と無関係ではいられない。また国を治めて国民の暮らしを安定させるには道徳が必要であるから、経済と道徳を調和させなくてはならないのである。


人は全て自主独立すべきものである。自立の精神は人への思いやりと共に人生の根本を成すものである。


たとえその事業が微々たるものであろうと、自分の利益は少額であろうと、国家必要の事業を合理的に経営すれば、心は常に楽しんで仕事にあたることができる。


道徳を論じている書物と商才とは何の関係もないようだが、商才というものはもともと道徳を基盤としているものだ。道徳から外れたり、嘘やうわべだけの軽薄な才覚は、いわゆる小才子や小利口ではあっても、決して本当の商才ではない。したがって、商才は道徳と一体であることが望ましい。


仕事を進めたい、事業を発展させたいという欲望は人間に常に持っておくべきだ。しかしそれは道理によって制御するようにしたい。ここで言う道理とは、仁・義・徳のことで、この三つを含むものだ。この道理と欲望とが表裏一体となっていなければ、中国の宋が衰退したようなことになりかねない。また、欲望もそれが道徳に反しているようなら、どんな展開になろうとも他人のものをすべて奪わないと気が済まなくなってしまう。結局、不幸に陥ってしまうだけだろう。


夢なき者は理想なし 理想なき者は信念なし 信念なき者は計画なし 計画なき者は実行なし 実行なき者は成果なし 成果なき者は幸福なし ゆえに幸福を求むる者は夢なかるべからず。

一人ひとりに天の使命があり、その天命を楽しんで生きることが、処世上の第一要件である。

(渋沢栄一『論語と算盤』より)


「日本資本主義の父」「近代日本経済の父」と称される渋沢栄一は、第一国立銀行(みずほ銀行)、東京瓦斯(東京ガス)など、500以上の企業の設立に関わった。


〈歴史的人物の中で、かの偉大な明治を築いた偉大な人物の一人である渋沢栄一の右に出るものを知らない。

彼は世界のだれよりも早く、経営の本質は『責任』にほかならないということを見抜いていたのである〉経営学者ピーター・ドラッカー

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2021年04月06日

季語「春の鳥」の俳句

春の鳥 あけぼの楠を はなれたり


おのがこゑに 溺れてのぼる 春の鳥

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百千鳥 映れる神の 鏡かな


鷲の巣の 樟の枯枝に 日は入ぬ

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