2025年04月18日

アメリカZ世代の女性たちが「ブッククラブ(読書会)」に関心高まる

ブッククラブの組織を支援するBookclubsのデータは、自分たちのブッククラブを立ち上げる若い女性が増えていることを示している。

このトレンドの背景には、人とのつながりに対する根強い憧れがある。

歴史的に男性優位のスポーツだったF1は正式に女子たちのアドレナリン全開の趣味となった。ブッククラブが脚光を浴びている。 


今をときめく女性有名人たちは、自分のブッククラブを持っている。

TikTokには「イケてる女子のためのお薦め本」があふれ、若い女性たちはブッククラブを立ち上げたり、ブッククラブに参加するためにアプリへ殺到している。


人々がかつてないほど孤独で、慢性的にインターネットに接続している時代に、ブッククラブは特別な意味を持つようになった。それは女子のための、女子によるアクティビティとして、社会的な孤独を癒す。

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2025年04月17日

「カフカ俳句」[著]フランツ・カフカ

 フランツ・カフカ(18831924)は未完小説や断片を多く遺した。そこからさらに短文を抜粋し、自由律俳句としてより深く味わおう。

 見開きの右頁には大きな活字で、手紙や日記、小説、創作ノートなどから選ばれた「カフカ俳句」。多くは1行、長くて3行。

 左頁にはカフカの状況、編者の解釈、連想される他者の文章などが自由な分量で綴られる。
 選出された「80句」からは人間関係や日常に悩むカフカの「生への不安」が感じられるが、背景から分離されているためかネガティブな気分にはならない。読者の想像力次第で世界が果てしなく広がってゆく感覚はまさに俳句。カフカに感化された作曲家が多いのは、凝縮された言葉から様々な想像を醸成する言外の余地ゆえかと頷ける。
 俳人九堂夜想との巻末対談で言及されるが、連想の拡がりから気付かされるのは古今東西を超えた「カフカ性」の遍在だ。「生への不安」の普遍こそがカフカ不朽の所以なのか。

https://search.app/5eXcdwuEfkfAZqvt6


カフカといえば不条理とか不安な世界をイメージする人が多いけれども、鈴木清順さんはユーモアな世界だと、学生に薦めていましたね。ぼくも同じく角川文庫でフランツ・カフカは、ライトノベルのように面白がってました。安部公房を読んでたので、カフカは難解なイメージは皆無。

カフカ俳句は、なるほどと。

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2025年04月15日

『草のつるぎ』野呂邦暢

「小銃をかかえて草原を這いまわれば、草はナイフのように少年たちを刺し、時には優しく肌を愛撫する。無名の民衆である自衛隊員の生活をいきいきと描いた芥川賞受賞作」丸山健二


1937年に長崎市に生まれ、1980年に42年の生を諫早市で終えた作家の、1974年作品。

野呂邦暢は高校卒業時に京都大学文学部を受験して合格せず、上京してガソリンスタンドで働いたりした。その就業時に想を得た短篇に「冬の皇帝」という作品がある。

本作「草のつるぎ」には、東京から帰省した20歳の年に陸上自衛隊に入隊して、前期訓練を受けた佐世保市での、苛烈な2か月間の出来事が描かれている。

作家によれば「草のつるぎ」とは、「営庭にしげっていた萱科の硬い葉身」でもあれば、「九州各地から集まった少年達の肉体」でもあるという。訓練の衝撃的な描写を縫って、少年たちの思いがけない友情が発露したりする。高度経済成長の波に乗り切る以前の、若者たちの状況と生き様がある。


〈壕から這い出すときは両肘で小銃をかかえこむ。膝と肘で体を支えてのたくる。草がぼくの皮膚を刺す。厚い木綿地の作業衣を通して肌をいためつける。研ぎたての刃さながら鋭い葉身が顔に襲いかかり、目を刺そうとし、むきだしの腕を切る。熱い地面から突き出たひややかな草。草の中でぼくは爽やかになる。上気した頬が草に触れる。しびれるほど冷たい草に触れる。七月の日にあぶられても水のようにひえきった草が僕を活気づける。
硬く鋭く弾力のある緑色の物質がぼくの行く手に立ちふさがり、ぼくを拒み、ぼくを受け入れ、ぼくに抗い意気沮喪させ、ぼくを元気づける。重い石のごときものが背中にのしかかっている。自分の体がこんなにも重くなろうとは。〉


軍事訓練に接して作家の心身が起こす化学反応はときに官能的で、読み手の五感に突き刺さる。塩や教練が全身の細胞から塩分を奪い去る。「ぼく」は待ちかねた休日、佐世保の街へと出かけてゆく。


池内 紀の解説

「死が身近に、そっとしのび寄ったとき、彼はあきらかに死のことを考えていなかった。むしろ生の引き潮といったことを思っていた。つましい諦念と、小さな日常の冒険、それをつたえる切りつめられた表現と、抑制のきいた調和。この地上に許されていた時は、あとわずか三年である。またしても分岐点に石を積むようにして、一つ、また一つと書いていった。」

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野呂邦暢の随筆『歯形』と『アリバイ』について

野呂邦暢の随筆に『歯形』という、奇妙なミステリー風の文章がある。

江戸川乱歩の長編小説に、ヨウカンをかじって歯形のあとが残された作品があると、美しい女性が主人公だったと書いている。

その作品のタイトルが思い出せなくて、乱歩全集から調べるでもなく取り止めないエッセイだ。そのヨーカンの歯形は形状から、いたずら盛りの餓鬼んちょらしい。乱歩全集は学生の頃に全巻読んでるが、そのような描写のある長編小説はとんと記憶にない。

「ちゃんと調べてから、書かんかい!」

そのように多くての読者は言いたいなる。


(「文學界」19746月号掲載された『歯形』は、「野呂邦暢ミステリ集成」にも収録されてます)


『アリバイ』

〈せんだって私の町で小さな火事があった。〉

そんな一行から、事実とも空想ともつかぬ出来事が書かれている。タクシーの運転手が、乗車記録からアリバイを設置して、推理劇への扉を広げていく。

考案中のミステリとごちゃ混ぜになって、エッセイは突き進む。そして推理小説は完成させたいという。たいした内容ではないけど、文章の描きっぷりに惹かれてしまった。

作家は文体であるとは、かねてからいわれてきたが、この作家の文章は最後まで読ませてしまうのは、果たして文体なのだろうか?


(『アリバイ』は「野呂邦暢ミステリ集成」に収録)



広告代理店に勤める隆一は、取材先の島で失踪後、溺死した友人のカメラマンの足跡をたどるが、島を歩きまわるうち、何者かに監禁される(「失踪者」)

https://search.app/bHR3Lc33m5HW6KBU6



野呂邦暢(のろ・くにのぶ)

1937年長崎市生まれ。長崎県立諫早高校卒。戦時中に諫早市に疎開、長崎被爆のため戦後も同市に住む。高校卒業後、上京し店員生活をおくるがほどなく帰郷、1957年陸上自衛隊に入隊する。翌年除隊し、諫早にもどって家庭教師をしながら文学をこころざす。1965年、「ある男の故郷」が第21回文学界新人賞佳作入選。翌年発表した「壁の絵」が芥川賞候補となる。1973年、第一創作集『十一月 水晶』刊行。1974年、自衛隊体験をベースにした「草のつるぎ」で第70回芥川賞受賞。1976年、初めての歴史小説「諫早菖蒲日記」発表。19805月に42歳で急逝するまで精力的に書き続けた。その他の著作に小説『海辺の広い庭』『鳥たちの河口』(1973)『一滴の夏』(1976)『落城記』『丘の火』(1980)、エッセイ集『王国そして地図』(1977)『小さな町にて』(1982)、評論に『失われた兵士たち戦争文学試論』(1977)、他多数。

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『諫早菖蒲日記』野呂邦暢

幕末の諫早に生きる少女の瑞々しい視線、

潰走の船路に幻出する不知火、

籠城の衆の鬨―


「語り手を一人に限定するのは、一点集中の語りであって、この技法はカメラのファインダーに似ている。一点の覗き穴が威力を発揮する一方で、見る世界が小さく限られる。……野呂邦暢はつねに試みの尺度をきびしく設定した。『初めての歴史小説』にとりわけはっきりと見てとれる。四百枚をこえる三部作が、みごとに一つの覗き穴の視点に合わされ、その遠近法でもって、きびしく構成されている。語られる人と語り手が、たえず相手を見つめ合い、それが一種緊迫した生理的リズムを生み出してくる」(池内紀 本書掲載エッセイより)


 

 まっさきにあらわれたのは黄色である。

 黄色の次に柿色が、その次に茶色が一定のへだたりをおいて続く。

 堤防の上に五つの点がならんだ。

 堤防は田圃のあぜにいる私の目と同じ高さである。点は羽を広げた蝶のかたちに似ている。河口から朝の満ち潮にのってさかのぼってくる漁船の帆が、その上半分を堤防のへりにのぞかせているのである。(第一章より)


「遠眼鏡」で観察しているのが十五歳の少女「志津」で、時代は嘉永から安政に成り代わった頃である。さらにのぼりふじの紋所の帆を揚げた諫早の藩船・韋駄天丸が映る。

佐賀からの注進船がしげくなって、何やらただならぬ気配を伝えている。時代が大きく動く前触れ、志津の父は諫早藩の砲術指南役であった。


子供から大人への過渡期にある志津には、ひそかに思う人、執行家の次男・直次郎がいた。

第一章で佐賀表諫早屋敷に、藤原作平太の娘・志津を奉公に差し出すようにとくるが「ゆくゆくは婿をとって藤原家を継ぐ身、そのこと申し上げて御免こうむる」とした。

志津は藤原家の一人娘だったのだ。

第二章では志津が「みずご」の意味を「流れ亡者」と思い違える会話がある。

「一人娘」そして「みずご」の伏線が、第三章に志津の亡き弟の存在へつながってくる。


第一章で「くちぞこ」という魚について語る彼女の利発なキャラクター。


(半開きにした分厚い唇、世の中はこんなものだとでもいいたげなどんよりとした眼がせまい眉間の下で今にもくっつきそうに寄っており、とがった頭はそりたての月代に似ている。まったく当地のお侍は、脳天をそり上げることだけにしか感心がないようだ。それ以外の、たとえば禄を削られること、外国船が我が国をおそうこと、その船には死人をもよみがえらせる術を心得た医師が乗っていることなどより、そりのこした月代の無駄毛一本の方が気がかりなのである。鍋島様からいじめられるのもこれでは当たり前だ。佐賀は諫早をあなどっている。」


そして第二章では、刃傷沙汰に及んだ諫早藩の家臣が切腹に至る経緯に、志津が父を問い詰める場面がある。

「父上、それはきこえませぬ、女子といえども家のもと、国のもとはいうに及ばず物事のぜひもわきまえておかねばと日ごろ、仰せられます、安城寺での刃傷は野村殿にわかの乱心でありましょうか、事のなりゆき、正邪の別を志津にもわかるようにおきかせ下さい。」


直次郎への密かなな思いと、きめ細やかな自然描写が美しくやさしく全体をおおっている。そんな言葉の数々が息づいて味わい深い。


三章を読み終えて「あとがき」に至ると、作者の関わりが記さられている。


「私がいま住んでいる家は、本書の主人公藤原作平太の娘志津がくらしていた家である。」

「この家の家主さんA夫人と私は同じ棟に住んでいる。ふとしたことで土蔵に御先祖の古文書がしまわれていることを知り、秘蔵の砲術書や免許皆伝の巻物などを見せていただいた。オランダ語から翻訳された砲術教程もあった。数十冊の古文書のうちには専門家の鑑定によれば、わが国に二、三冊しかない貴重な史料もまざっているとのことである。百二十年前、諫早藩鉄砲組方の侍たちが砲術を学び、その術を口外しないこと、また奉公に懈怠なきことを誓って署名血判した誓紙もあった。血の痕は色褪せ、薄い茶色になっていた。藩士たちの名前は諫早で親しい姓名である。私の親戚知人の先祖と思われる姓も見られた。三年前のことであった。奉書紙にしるされた薄い血の痕に鮮やかさを甦らせることが私の念願であったのだが、それが本書によってかなえられたかどうか。」


このあとがきには《昭和五十二年、春》としてある。昭和五十一年『文學界』に発表の後、翌年四月に文藝春秋から単行本とした刊行された。


諫早の地理に詳しい地図や画像検索して読むと一層楽しめると思います。


「諫早菖蒲日記」映像散歩、長崎テレビ紹介

https://youtu.be/qPgGd2uqSRM

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2025年04月07日

ウィルキー・コリンズ『白衣の女』

ウィルキー・コリンズ『白衣の女』

似た容貌の女性ふたりと家庭教師の画家は出逢った。

資産家のお嬢さんローラと、容姿が似すぎるアンは精神病院に入れられてしまう。

父の遺言から、ローラはパーシパルという出生記録を改竄した男と結婚する。

ローラの家で雇われていた美術家庭教師と両想いだが、父の遺言と叔父の言いつけからパーシパルと結婚する。

しかしパーシパルは遺産を手に入れる為に、ローラを殺す策略を巡らせる。

パーシパルはローラに似たアンを何年も前から目をつけていて、彼女を精神病院に入れてしまう。ローラと結婚したあと、アンを殺し、そしてローラと入れ替える。

アンにすり替えてローラは精神病院へ。アンの死体で妻ローラは亡くなったと計画。

ローラの姉に死体を確認されては困るので、姉を足止めし早々に埋葬する。

手掛かりが残されてないことから、ローラを助けるのは困難でローラの姉は、元美術家庭教師に助けを求める。



『白衣の女』〈登場人物〉

ウォルター・ハートライト

美術教師。家庭教師として屋敷を訪れる。

ペスカ

おぼれかかったところをハートライトに助けられるイタリア語教師。感激屋。ハートライトが事件に巻き込まれるきっかけを作る。

アン・キャサリック

白い衣服を身にまとった正体不明な謎の女。出番は少ないが、小説に独特の色調を与えている。

キャサリック夫人

アンの母親で、後半の解決では大活躍する。

ローラ・フェアリー

ハルコムの異母妹。ハートライトを愛するが、亡き父親との約束の相手クライドと結婚する。

マリアン・ハルコム

ローラの異母姉。知性的な女性。ローラを愛して止まない。肌は黒くスタイルが良い。


フォスコ伯爵

イタリア人貴族。肥満体の大男。目的の為なら擬態も虚偽も際限がない。

フォスコ夫人

フォスコ伯爵の妻で、ローラ・フェアリーのおばのエレノア。

パーシバル・クライド卿

ブラックウォーター・パークの所有者。フォスコ伯爵の相棒役。


〈あらすじ〉

画家ウォルター・ハートライトが、フェアリー家へ家庭教師としての仕事が決まった。

ロンドンに行く途中で、白衣の女に声を掛けられる。何かに怯える彼女に道を教えて、フェアリー家と関係があり不思議な縁を感じる。

その後、白衣の女を探しに来た者から、彼女は精神病院から脱走したと聞く。

そしてウォルターはフェアリー家で、住み込みで姉妹に絵を教えることになる。

美しく財産を受け継ぐローラ・フェアリーとローラと父親違いで、気高く知的な姉のマリアン・ハルカムの姉妹。

ウォルターはローラに恋してしまい、ローラもまたウォルターに好意を抱いてしまう。彼女には生前の父親が決めた、身分ある婚約者がいる。それを知って引き下がり、失恋を忘れるために中央アメリカの遺跡探索に行ってしまう。


そんなパーシィヴァル・クライド卿と結婚したローラであったが、金目当ての結婚であり、借金で切羽詰った卿はローラを殺害するに至る。

中央アメリカから生還したウォルターが、ローラの墓で出会ったのはマリアンとローラであった。

あの白衣の女とローラは瓜二つそっくりで、彼女は度々出没して結婚を阻止しようとする。

病で動けなくなる中で、クライド卿の友人のフォスコ伯爵が接触して、彼女が死ぬとローラが死んだことにして、白衣の女、アン・キャセリックとして精神病院に送り込んだのだ。

一時病で動けず、状況を許したマリアンだったが、ローラを精神病院から連れ出してウォルターと合流する。

三人でローラの社会的地位と、生存を証明するために活動をする。

アンが精神病院に入れられた経由から、クライド卿の身辺を洗うと、彼は結婚せずに生まれた私生児で財産を受け継ぐために証明書偽造をしていた。

これを突きつければローラが本人である証拠を手に入れられる。そう思ったのも束の間、嗅ぎまわってるのを察知され、証拠を処分しようとしたクライド卿は焼死する。

相棒のフォスコ伯爵しか情報を持ってない、イタリア人で親友の教授ペスカと会わせると、知っており恐怖していた。ペスカは秘密結社の構成員で、フォスコも同じだった。

結社に粛清されるという、ローラが死亡日時より生きていたという文書を入手して、ローラは地位をを回復する。

ウォルターはローラと結婚して、新婚旅行中に粛清されたフォスコの死を知る。

ふたりに子供が出来て、尽くしてくれるマリアンに祝福されるのだった。


 

推理小説の古典『白衣の女』あらすじ

単なる金銭目当ての結婚が、瓜二つの白衣の女の登場で、綻びが生まれ狂い出し、加速し、事件の解決の糸口となる。

展開としてはヒロインが悪党と結婚して死んだことにされて入れ替えられて主人公が救って結婚する。

これが日記や手紙、報告書などをまとめたもので構成されており、時系列的に複数視点で展開されていく。

ウォルター視点でローラへの愛と葛藤。マリアン視点でのローラへの心配。弁護士の状況がどんどん悪くなっていく空気。マリアンとローラしかいない心細さとフォスコが書き込んで来る恐怖。使用人の驚愕。医師の診断書。ウォルターの調査。フォスコの告白文。

 

これによりウォルターが去った後で、弁護士がウォルターが監視されていることを仄めかされ、マリアンがウォルターから貰う手紙に監視されていることが書かれおり、ウォルターが監視されていると感じている、といった同時展開が可能。

特にマリアンが犯罪計画を察知した後に風邪で倒れたら、フォスコの文章の不気味さ。

叔父さんの病気で辛いからどうでもから、面倒事を放置する悪趣味さ。

それから使用人の口述筆記でローラ退去後にマリアンがまだ屋敷に居る驚愕から医師の死亡証明書。


そして命辛々生きて戻ったウォルターが、ローラの死を知って墓参りに行った際にマリアンとの再会の劇的さ。

その後に、マリアンがローラを救出した経緯を知らされ、隠れて反撃を開始する様子まで一気にいける。

そしてマリアンがアンと遭遇しそうになった際にフォスコが裏で何をしていたのか。クレメンツ夫人を通してアンがどういう経緯で動いていたのか判明するなど、過不足ない。

アンの出生やらも判明し、全てのトリックは明らかになる。【幕】


 

古典時代から群像劇で視点別の時系列の引き戻しが行われている。

一番好きなシーンがウォルターが中央アメリカから命からがら戻ったら、恋焦がれた女性は死んでいるという悲しみを癒すために墓参りしたら、マリアンと再会しローラも生きているという劇的な展開になり、隠れ家で反撃の機会を窺いながらマリアンがどのようにローラを救い出しあの場面に至ったのかが描写される。

フォスコが日記を書いて、使用人の証言も出て、死亡診断書が出て、奴らの目論みは成功してしまう、ウォルターは打ちのめされるだろうなと思いきやの劇的な展開で。

畳み掛けてくれて、最終展開に向かうのが素晴らしかった。

 

グライド卿がドアが開かずに焼死してしまう死に様がしょぼいけど、目的はローラを救うことなので、むしろ死なせてしまったことで地位の回復が出来ない危機を迎えてしまい、ペスカが都合良く秘密結社の構成員で助かってしまうラストもちょっとどうかと思うけど、ペスカが良い奴だしね。

 

ローラは心理描写もないし、守られるだけなのでそう魅力的ではないのだが、ウォルターの恋心を感じながら紳士に振舞う姿勢やマリアンの全てを投げ打ってまで尽くす献身など、なかなかに良いものだった。

絵を教えているときの無邪気な姿に焦がれ、一緒に隠れ住んだ際にこのままじゃ愛されないと売れもしない下手な絵を描くが、それがウォルターの慰めになっているなど、ウォルターが彼女を好きなことは伝わるからね。

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2025年03月31日

NHKドラマ・ガイド『連続テレビ小説 あんぱん Part1』

快活な妻と遅咲きの夫。何者でもなかった二人が織りなす、愛と勇気の物語


戦後80年、放送開始100年の年に放送となる連続テレビ小説『あんぱん』。アンパンマンを生み出したやなせたかしと暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた二人の苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった二人の人生を描く。何者でもなかった二人があらゆる荒波を乗り越え、逆転しない正義を体現した『アンパンマン』にたどり着くまでの道のりは、生きる喜びが全身から湧いてくるような愛と勇気の物語である。

昭和初期の高知。ヒロインの朝田のぶ(あさだのぶ)は、「ハチキンおのぶ」と呼ばれる、活発で足の速い少女。一方、幼い時に父を病気で亡くした柳井嵩(やないたかし)は、東京から伯父の家に引き取られ、転校先の学校でのぶに出会う。成長したのぶは師範学校へ進学し、周りと同様、愛国的な教師に。一方の嵩は東京の芸術学校へ進学、絵描きとしての道を踏み出す。やがて戦争が始まり、嵩は出征。のぶは戦争で全ての価値観が変わり、「何が正しいかは自分で見極めなければならない」と高知の新聞社に戦後初の女性記者として就職する。復員した嵩もやがて同じ新聞社へ――。

本書では、ドラマの登場人物の魅力を伝える出演者へのインタビュー記事や、美術・セットの紹介、モデルとなったやなせたかし・小松暢夫妻の歩み、舞台地紹介など、ドラマを楽しむための記事を掲載。


ドラマ・ガイド掲載内容(予定)

巻頭撮り下ろし&スペシャル対談:主人公(ヒロイン)・今田美桜×北村匠海

登場人物関係図

出演者インタビュー 今田美桜 北村匠海 加瀬亮 江口のりこ 河合優実 原菜乃華 細田佳央太 高橋文哉中沢元紀 志田彩良 瀧内公美 二宮和也 戸田菜穂 浅田美代子 吉田鋼太郎 竹野内豊 阿部サダヲ 松嶋菜々子  

のぶと嵩を導く男たち/美術特集(セット、キャラクターデザイン、ポスター)/やなせたかし・暢夫妻の歩み/越尾正子さん(やなせスタジオ代表)インタビュー/ドラマの時代の日本パン史/ドラマの舞台地紹介

主題歌紹介/作・中園ミホインタビュー/音楽インタビュー/制作統括・チーフ演出特別寄稿

あらすじ ほか


"〈「あんぱん」放送開始〉「今田美桜さんのクリッとした目がドキンちゃんそっくり」中園ミホ・梯久美子が語るやなせたかしの意外な負の感情”" - 文春オンライン

https://l.smartnews.com/m-jXj4pVK/vPBy3g

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2025年03月24日

三島由紀夫のコミカルなエンタメ小説

『お嬢さん』三島由紀夫

周囲から良い意味でも悪い意味でも「お嬢さん」といわれるウブなヒロインが主人公です。

そんなお嬢さんが、恋愛と結婚を経て、芯の強い女性にわくわくと成長していく物語。

ドライなヒロインが、恋や嫉妬、疑心暗鬼といった波にもまれて、愛し方を学んでいく、三島由紀夫のなかでは珍しいコミカルに活躍する新鮮な少女世界です。

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『純白の夜』三島由紀夫

婦人公論に連載された小説で、昭和の既婚者同士の恋の話。軽い昼ドラのようでありながら、文章が洗練されて品格がある。

心理的なかけ引きを楽しみながら、どんな結末が待っているのかワクワクさせられる。

これほど女性に関して詳しく描写されるのは、作者の家族構成を調べたら納得できる。

木暮実千代さん主演で映画化されて、三島由紀夫がエキストラとして出演してます。

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『肉体の学校』三島由紀夫

裕福で自由な生活を謳歌している三人の離婚成金。

映画や服飾の批評家、レストランのオーナー、ブティックの経営者と、それぞれ仕事もこなしつつ、月に一回の例会年増園の話題はもっぱら男の品定め。そのうち一人元貴族の妙子がニヒルで美形のゲイ・ボーイに心底惚れこんだ

三島由紀夫の女性観、恋愛観そして恋のかけひきとは?

(「BOOK」データベースより)

鈴木清順さんの『肉体の門』という天然色エロ映画が、想い出されれるタイトル。

生物学的な性とは違う多義的な概念で、男女を描いてきた三島由紀夫の視点が、軽やかなタッチで、いろんな人間たちの都会的な生きることを問うた。

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『命売ります』三島由紀夫

これは大変な異色エンタメで自決の二年前週刊プレイボーイ」連続された、エンタメを楽しんでるような小説。普通の作家さんには、到底書けないだろう。

「命売ります。お好きな目的にお使い下さい。当方、二十七歳男子。秘密は一切守り、決して迷惑はおかけしません」

目覚めたのは病院だった、まだ生きていた。必要とも思えない命、これを売ろうと新聞広告に出したところ……。危険な目にあううちに、ふいに恐怖の念におそわれた。死にたくないーー。三島の考える命とは。

「案外、純文学作品ではない、したがって誰もそこに魂の告白を期待していない、『命売ります』のような小説のなかでこそ、こっそり本音を漏らしていたのではなかろうか。」(種村季弘「解説」より

けっこう死ぬことを憧れていたような言動は

、さまざまななメディアでも知られている。

これは爆発的に死に向かって娯楽もさえ、描いて楽しんでいるようにも思えるのだが、令和に文庫版がベストセラーになった。

単純に面白くてテレビドラマにもなった。

連続ドラマJ「命売ります」先の読めない究極の人間ドラマ。 

https://search.app/yqhbV3ubu68xm38r9

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2025年03月06日

菊池寛自身が吉川英治の名で解説した?


菊池寛の短編集が新潮文庫から出版されたが、解説は菊池寛が自分で書いた。

「この集には、菊池寛の初期の作品中、歴史物の佳作が悉く収められている。これらの作品を見ても、菊池氏が、リベラリストとして、その創作によって封建思想の打破に努めていたことがハッキリするであろう」「およそ大正から昭和の初めに当って、菊池氏の作品ほど、大衆の思想的、文化的啓蒙に貢献した作品は少ないと、いってもよい」と絶賛。

友人の吉川英治が解説した事にして、『藤十郎の恋』について「この作品は、作品の価値よりも鴈治郎によって上演されたために名を成したのだ」と冷静に裁断している。

「自分が書く。解説文は第三者でなければならないのなら、吉川英治の名で出す。吉川君にはぼくから話しておく」と言う。


新潮文庫『藤十郎の恋・恩讐の彼方に』(平成23年改版)には、巻末の解説について〈菊池寛自身が吉川英治の名を借りて書いた〉と丁寧に書かれている。


菊池 寛(18881226 - 194836日)日本の小説家、劇作家、ジャーナリスト。本日が命日でありました。

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2025年03月04日

安彦良和さんが、半田銀山を舞台に「銀色の路ー半田銀山異聞ー」を「週刊ヤングジャンプ」に短期集中連載

安彦良和さんが、桑折町の半田銀山を舞台にしたマンガ作品「銀色の路ー半田銀山異聞ー」を「週刊ヤングジャンプ」に短期集中連載する。

 安彦さんの曽祖父の兵太郎さんは、半田銀山で坑道などの図面を製作していた絵図面師だった。昨年11月に主催した「半田銀山シンポジウム」に参加して半田銀山を舞台にした新作執筆への意欲を明らかにしていた。

明治時代の実業家の五代友厚が軋轢や誤解、障壁を乗り越えて半田銀山復興への道を開く物語。3月6日発売14号から隔週で短期集中連載される。

町が安彦さんに制作を依頼した作品は、兵太郎さんの視点による半田銀山についての物語になるという。安彦さんの漫画と半田銀山の資料を合わせた、冊子を作製して数量限定で有償頒布する予定。


(福島民友新聞社)

https://search.app/TBNq87cQdsGx6u3e7

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幕末から明治初期に活躍した実業家、五代友厚が1874(明治7)年再開発したのが、桑折町にあった元江戸幕府直営鉱山の半田銀山だった。

https://search.app/kVsu23Jqvtf3acZf9


『五代友厚蒼海を越えた異端児』(潮出版)の著書である高橋直樹さんが史実をもとに解説してくれた。

 

「五代は1885925日、糖尿病で亡くなりました。50歳という若さです。『おいの体には筋金が入っちょる』というのが口癖で、頑丈さには自信を持っていたようで、実際に死ぬ間際まで精力的に仕事をしていたんですね。五代の死には、彼の酒豪ぶりも関係していると思います」

 

20代のとき、船員として外国船に潜り込み上海に渡った。

 

「外国人の屈強な船員と渡り合うには、腕っぷしの強さともう一つ、酌み交わす酒も強くなければなりません。五代が外国人と酒の飲み比べをしたエピソードもあります。シャンパンが好きで、ワイン、ビール、ブランデーと英国留学時代に洋酒の味を覚え、帰国後も毎日のように酒を飲んでいた。外国人を招いての晩餐会やパーティに出席する機会も多く、料亭通いも好んだようです。激務に加え、こうした長年の無理が死期を早めたのでしょう」

 

実は、ヒロインのモデルとなった広岡浅子と五代友厚の関係を示す資料はなく、出会いのシーンは創作のようだが、「あさ」にひそかに心を寄せ、何かあればさっと手を差し伸べるあの紳士なキャラは実在したのだろうか?


"安彦良和さん、福島の銀山舞台に新連載 五代友厚による再興に光" - 毎日新聞 

https://l.smartnews.com/m-jiRB9Yt/Zx63Dy


有名なプレイボーイで、遊郭にもよく出入りをしてたらしい。五代友厚を単なる悪人ではなく、安彦さんの視点から掘り下げるらしい。

長崎の丸山遊郭で偶然居合わせた大隈重信と激しい口論とか、大隈のお気に入りの女性を五代が横取したり、安彦良和さんのマンガで読んでみたい!

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2025年02月28日

『風の王国』五木寛之(新潮文庫)

『風の王国』五木寛之(新潮文庫)

闇にねむる仁徳陵へ密やかに寄りつどう異形の遍路たち。そして、霧にけむる二上山をはやてのように駆けぬける謎の女。脈々と世を忍びつづけた風の一族は、何ゆえに姿を現したのか?メルセデス300GDを駆って、出生にまつわる謎を追う速見卓の前に、暴かれていく現代国家の暗部。彼が行く手に視るものは異族の幻影か、禁断の神話か。現代の語り部が放つ戦慄のロマン。

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〈その女はお遍路のような格好をし、しかしお遍路とはどこか違う黒い衣装の背中に神の文字が染め抜かた法被を纏い、霧の中をまるで翔ぶように速水の前を駆け抜けていきます。歩くことには自信を持っている速水が必死になって追いかけても追いつけないんです。〉


「翔ぶ女」は「天武仁神講」「同行五十五人」という字の染めてある法被をはおり

「天武仁神講の講主代行」として挨拶を始めるのですが、それは射狩野総業が近年、事業拡大し、自然破壊をし、開発を押し進める事に対しての痛烈な批判でした。

女の名は葛城哀。天武仁神講の2代目講主、葛城天浪の娘。


「では、私が先に歩かせていただきます。同行でノルときには、二人が一人の心になって歩くわけですから、そのおつもりで」

「手加減しなくてもいいですよ。かなわない時には、遠慮なくギブアップしますから」

「これは行なんです。勝負ではありません」

「共にノルことで、一人の人間の力の二倍も三倍もの高い境地へ達することが出来なければ、同行の意味はないんです。私が速水さんをためすとすれば、それは人と共に助け合って歩く、自然と一体になって歩む、その心の広さや優しさを、あなたが待てるかどうか、それを知りたいだけです。速水さんが只のつよい体力と意思の持ち主に過ぎないとわかったら、わたしは同行をその時点でご辞退します。そして、あなたはわたしたちとハナれて、二度とお目にかかることは、ないでしょう」


先行する葛城哀に、休ませてくれと一言いえば、彼女はもちろん足をとめてくれただろう。だが、それだけはどんなことがあってもしたくはなかった。ルト砂漠を歩き、シラーズの砂礫の荒野を歩き、ラリーカーが150キロですっ飛んで来るサファリーラリーの道を歩き、ガンジスの源流を歩いた自分が、どうしてこんな遊園地のような島国の海岸でギブアップできるだろうか。

 だが、今度はこれまでのトレイルとはまるでスピードが違っていた。夜明け前に一度、公園の端で休んだだけで、あとはずっと歩き通しなのだ。しかも、彼女の歩速はおそらく分速160メートルを超えている。旧陸軍の約二倍の歩速だ。彼女の下半身は踊っているように奇妙な動きを続けていた。だが首から上は能役者のように静かに風の中をすべってゆく。速水卓は、すでに歩くのをやめて走っていた。心臓の鼓動も限界にちかく震えていた。

 だが、彼女は決して速水卓を無視して歩いてはいなかった。葛城哀の背中からは絶えず彼にはげましの無言の声が送られていた。

 がんばるのよ。さあ、いっしょにいきましょう、どこまでも。二人で手をとりあって

速水卓には、その声がはっきりと聞こえた。

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2025年02月20日

『わたしが正義について語るなら』やなせたかし(ポプラ新書)

『わたしが正義について語るなら』やなせたかし(ポプラ新書

<内容紹介>

正義とは何で、正義の味方とはどのような人なのか。

戦争を生き抜き、国民的ヒーロー「アンパンマン」を産みだしたやなせたかしが、その半生を通じて向き合った「正義」のあり方とは。

混迷の時代に生きる勇気をもらえる、やなせ流の人生哲学。


・正義はある日突然逆転する。

・正義とはかっこいいものではない

・正義とはあやふやなものである

・正義のための戦いなんてどこにもない

・正義はある日突然逆転する

・悪人の中にも正義感はある

・傷つく覚悟がないと正義は行えない

・正義でいばるやつは嘘くさい


【本書より】

仕事がこない時に、あの歌が浮かんできた。

〈それでもそういう時に限って、徹夜で仕事をしているんですね。・・・たいして仕事はないのに、何かやってるんだよね。

そうすると寂しいから手のひらを見たりして、手のひらに懐中電灯を当てて、子どもの時のレントゲンごっこを思い出して遊んでいたら、血の色がびっくりするほど赤いんですね。本当に桜色というかきれいで見惚れてしまいました。

自分は元気がなくても血は元気だな、と。だから手のひらを懐中電灯にすかしてみればというのがもともとなんだけれど、懐中電灯じゃ歌にならないから「手のひらを太陽に」になりました。あれは自分を励ます歌なんです。〉(『わたしが正義について語るなら』 76頁より) 


「ミミズだって オケラだってアメンボだってみんな みんな生きているんだ友だちなんだ」とは優しさが溢れている歌詞です。


(同書149頁より)

「人生なんて夢だけど、夢の中にも夢はある。」

これはアンパンマンの歌詞にも、つながる夢について語ってます。


「人生の楽しみの中で最大最高のものは、やはり人を喜ばせることでしょう。すべての芸術、文化は人を喜ばせたいということが原点で、喜ばせごっこをしながら、原則的には愛別離苦、さよならだけの寂しげな人生をごまかしながら生きている」

「ぼくは怒るよりも笑いたい」「愛と勇気だけが友達さ、とアンパンマンのマーチでいっている」と先生は語る。


やなせ先生の戦争体験から生まれたヒーロー、そのテーマソングが何よりも困った人々を救済しているのであった。


【アンパンマンのテーマソング】

♬そうだ うれしいんだ 生きるよろこび 
たとえ 胸の傷がいたんでも
なんのために生まれて なにをして生きるのか
こたえられないなんて そんなのは いやだ! 
今を生きることで
熱いこころ燃える
だから君はいくんだ
ほほえんで


そうだうれしいんだ 生きるよろこび
たとえ胸の傷がいたんでも 
ああ アンパンマン
やさしい君は
いけ!みんなの夢まもるため♬

(歌詞 やなせたかし)


<著者プロフィール>

1919(大正8)年高知県生れ。東京高等工芸学校工芸図案科(現千葉大学)卒業。1973年月刊「詩とメルヘン」をサンリオより創刊。1988年アニメ『それいけ!アンパンマン』が放映され爆発的な人気となる。作詞家としての代表作には「手のひらを太陽に」、アンパンマンの主題歌などがある。絵本には『チリンのすず』『やさしいライオン』など数多くの名作がある。

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2025年02月16日

『人類よさらば』筒井康隆(河出文庫)

人類復活をかけて金星に飛ぶ博士、社長秘書との忍法対決、信州信濃の怪異譚……往年のドタバタが炸裂! 


単行本未収録作も収めた、日下三蔵編でおくる筒井康隆ショートショート・短編集。


196070年代に雑誌に掲載された作品で、単行本や文庫本に収録されてこなかった短篇を集めている、とてもコアなコレクションとなる一冊。筒井愛好家向けの内容です。

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<収録作品>「傍観者」(NULL版)p9「傍観者」(毎日新聞大阪版版)p17「人類よさらば」p20「大怪獣ギョトス」p24「ひずみ」p27「悪魔の世界の最終作戦」(眉村卓との合作)p35「ほほにかかる涙」p48「女スパイの連絡」p61「EXPO2000」p65「マルクス・エンゲルスの中共珍道中」(未完稿)p72「岩見重太郎」p77「児雷也」p89「最後のCM」p100「差別」(一人称)p106「社長秘書忍法帖」p109「黄金の家」p136「タバコ」p141「訓練」p143「ブロークン・ハート」p145「ナイフとフォーク」p149「アメリカ便り」p152「香りが消えて」p154「タイム・マシン」p157「脱走」p160「レジャーアニマル」p163「睡魔の夏」p165 マッド社員シリーズ「更利萬吉の就職」p172「更利萬吉の通勤」p182「更利萬吉の秘書」p192「更利萬吉の会議」p202「更利萬吉の退職」p216 「佐藤栄作とノーベル賞」p228「クラリネット言語」画・つついやすたか 写真・中村誠 p238「信州信濃の名物は。」p277「本陣の怪異」p281「謹賀新年 寅年」p293「謹賀新年 卯年」p295/「編者解説」日下三蔵 p296  


【註】「信州信濃の名物は。」「本陣の怪異」「謹賀新年 寅年」「謹賀新年 卯年」は著作初収録。

 【註】「香りが消えて」は加筆あり。 

【註】「本陣の怪異」は「秋雄」「寿美子」「利吉」の順が「利吉」「秋雄」「寿美子」となっている。  

全集・コレクション収録の文庫未収録作・角川文庫再編集短篇集の初収録作に、著作初収録の四篇も加えた、オリジナル編集の一冊。


編集/日下三蔵 B6判 並製本 313

定価/本体 740円+税 

カバーデザイン/坂野公一+吉田友美(welle design)カバーイラスト/真鍋博(小笠原豊樹「宇宙の千夜一夜物語」校正原画) 

カバーフォーマット/佐々木暁 


筒井康隆1934年、大阪市生まれ。

1965年、第1作品集『東海道戦争』刊行。『虚人たち』で泉鏡花文学賞、『夢の木坂分岐点』で谷崎潤一郎賞、『朝のガスパール』で日本SF大賞、『わたしのグランパ』で読売文学賞を受賞。

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2025年02月13日

『ギリシア的抒情詩』西脇順三郎

『ギリシア的抒情詩』西脇順三郎


 「太陽」

カルモジインの田舎は大理石の産地で

其処で私は夏をすごしたことがあった

ヒバリもいないし 蛇も出ない。

ただ青いスモモの藪から太陽が出て

またスモモの藪へ沈む

少年は小川でドルフィンを捉えて笑った


「カプリの牧人」

春の朝でも

我がシシリヤのパイプは秋の音がする

幾千年の思ひをたどり


  「雨」

南風は柔い女神をもたらした

青銅をぬらした 噴水をぬらした

ツバメの羽と黄金の毛をぬらした

潮をぬらし 砂をぬらし 魚をぬらした

静かに寺院と風呂場と劇場をぬらした

この静かな柔い女神の行列が

私の舌をぬらした


 「眼」

白い波が頭へとびかかってくる七月に

南方の綺麗な町をすぎる

静かな庭が旅人のために眠っている

薔薇に砂に水

薔薇に霞む心

石に刻まれた髪

石に刻まれた音

石に刻まれた眼は永遠に開く


 「皿 

黄色い菫が咲く頃の昔

海豚は天にも海にも頭をもたげ

尖った船に花が飾られ

ディオニソスは夢見つつ航海する

模様のある皿の中で顔を洗って

宝石商人と一緒に地中海を渡った

その少年の名は忘れられた

麗な忘却の朝


 「天気」

《覆された宝石》のやうな朝

何人か戸口にて誰かとささやく

それは神の生誕の日


「カリマコスの頭とVoyage Pittoresque 

I  

海へ海へ、タナグラの土地 しかしつかれて 

宝石の盗賊のやうにひそかに 

不知の地へ上陸して休んだ。  

僕の煙りは立ちのぼり

 アマリリスの花が咲く庭にたなびいた。 

土人の犬が強烈に耳をふつた。  

千鳥が鳴き犬が鳴きさびしいところだ。 

宝石へ水がかゝり 追憶と砂が波うつ。  

テラコタの夢と知れ。    

II  

宝石の角度を走る

永遠の光りを追つたり 

神と英雄とを求めてアイスキュロスを 読み、年月の「めぐり」も忘れて 

笛もパイプも吹かず長い間 

なまぐさい教室で知識の樹にのぼつた。 

町へ出て、町を通りぬけて、 

むかし鶯の鳴いた森の中へ行く。 

重い心と足とは遠くさまよつた。 

葉はアマリリスの如くめざめて 指を肩にさゝやく如く、あてた。 

心は虎の如く滑らかに動いた。 

あゝ、秋か、カリマコスよ! 

汝は蝋燭の女で、

その焔と香りで 

ハシバミの実と牧人の頬をふくらます。 

黄金の風が汝の石をゆする時 

僕を祝福せよ。   

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西脇順三郎

1894年1月20日〜1982年6月5日

詩人。英文学者。新潟県生まれ。

慶応義塾大学卒。画家を志し上京するも断念。1922年、渡英。英文詩集を出版後、帰国して慶大教授に就任。

「詩と詩論」に拠り、新詩運動の中心となるも、軍国主義の時代は詩筆を断つ。

戦後、47年に14年間の沈黙を破り『旅人かへらず』を発表。以後、詩、詩論、英文学研究に旺盛なる活動をなす。

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2025年02月05日

『いちばん近くて遠い』小手鞠るい

『いちばん近くて遠い』小手鞠るい

正直に生きれば生きるほど、堕ちていく――。

松下絵里子(28)。スポーツ用品メーカー勤務。結婚も決まり、公私ともに充実の日々が始まるも……「優等生の悪女」。

佐藤美鶴(34)。小さなサンドイッチ店で働く主婦。元デパートの店員。献身的な夫がいながら過去の男に……「懲りない悪女」。

加賀美さとみ(53)セレクトショップ「トップシークレット」社長。欲望にどこまでも忠実な女性起業家。多少の犠牲は……「華麗なる悪女」。

向井沙也香(21)。セレクトショップ「トップシークレット」社員。さとみの下で働く上昇志向の強い新入社員。職場には絵里子の婚約者がいて……「純情そうな悪女」。

――彼と同じ未来を見ていたはずなのに。

――彼女には僕の知らない別の顔がある。

人は星、人生は夜空。かかわり合う人々が点となり、ひとつの星座を形づくる。

ままならない男と女の関係を、それぞれの視点で描いためくるめく恋愛小説。


【小手鞠るい】小説家、詩人、児童文学作家。1956年岡山県生まれ。同志社大学法学部卒業。1981年「詩とメルヘン」賞、1993年「海燕」新人文学賞、2005年『欲しいのは、あなただけ』(新潮社)で島清恋愛文学賞、2009年絵本『ルウとリンデン 旅とおるすばん』(講談社)がボローニャ国際児童図書賞を受賞。2012年『心の森』(金の星社)が第五十八回全国青少年読書感想文コンクール小学校高学年課題図書に選定される。

その他の児童書に『きみの声を聞かせて』(偕成社)『いつも心の中に』(金の星社)『あんずの木の下で』(原書房)『お手紙ありがとう』(WAVE出版)『くろくまレストランのひみつ』(金の星社)『ねこの町のリリアのパン』(講談社)など多数。


★ 『いちばん近くて遠い』は絵本とはほど遠い、人間の愛憎が意図的に書かれております。一般的には感情移入は難しい話を書いてるのは、反逆精神からだと想います。

短編集だと読んだら、三つブロックになっておりました。恋愛を奔走する自由さと、責任について問われる物語。

不倫と裏切りの話なんですが、最後まで読ませる筆力は大変なもんです。

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2025年01月29日

エリアス・カネッティ『眩暈』(Die Blendung)

 ノーベル賞作家カネッティの長編小説。万葉の書に埋もれた一東洋学者が非人間的な群衆世界の渦に巻き込まれ、発狂して自己と書庫とを破壊するにいたる異常の物語。「群衆と権力」をテーマに錯綜する狂気と錯乱の風景を描き、解し難く浅薄な「現代」を深く烈しく抉り、トーマス・マンにその氾濫する想像力と構想筆致を驚嘆させた二十世紀ドイツ文学を代表する傑作。

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『眩暈』エリアス・カネッティ

第一部 世界なき頭脳

 散歩

 秘密

 仲人・孔子

 貝

 家具

 奥様

 総動員

 死

 病床

 初恋

 ユダと救世主

 遺産相続

 苔

 硬直


第二部 頭脳なき世界

 理想の天国

 瘤

 憐憫

 四人とその未来

 露顕

 飢餓

 実現

 窃盗

 財産

 小物


第三部 頭脳のなかの世界

 善父

 ズボン

 瘋癲院

 迂路

 老獪なオデュッセウス

 赤い鶏

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【あらすじ】

「第一部 世界なき頭脳」

著名な中国学者で書物収集家のペーター・キーンが主人公である。大量の書物と孤高の研究生活を送って、身近には8年前に雇った家政婦のテレーゼがいるだけ。

彼女を書物の管理のために雇っただけだが、ある日に蔵書の小説を彼女に貸した。その際彼女が自分以上に丁重に、書物を扱ったのに感銘を受けて、娶る決意をする。

しかし妻の地位となると、テレーゼの態度は変わって、妻の権利として書庫に宛てられていた部屋の半分を要求してきた。

家具を勝手に買い入れたりして、厚顔無恥になっていく。

そして愛想のいい家具商へ、妄念に取り付かれたテレーゼはキーンをないがしろにした。遺言書の作成を要求したあげく家から放逐してしまうのだった。


「第二部 頭脳なき世界」

家から追い出されたキーンは、通帳だけは守り通した。ホテルに滞在しながら書店を巡り、自分の頭の中に臨時の蔵書を仮構することに熱中する。

そうしてふと入った酒場でくる病のフィッシェルレと出会い、酒場の騒動から助けられたのに恩を感じて助手に任命する。

フィッシェルレに国営の質物取扱所テレジアヌムに案内された。ここで質草として持ち寄られてくる書物を救い出だすのに、使命を見出した。書物を持ち込む人から、所持金をはたいて書物を買い上げていく。これを儲けのチャンスと考えた、フィッシェルレは仲間を集めて偽者の客にしたて、キーンから次々と金を騙し取っていく。

しかしその詐欺計画の3日目に、テレジアヌムに書物を質入に来たテレーゼと玄関番を目にする。彼らは揉み合いをして守衛に引っ立てられる、結局キーンは混乱のなか身分も明かせぬまま、自宅の玄関番の住居に身を寄せることになる。


「第三部 頭脳の中の世界」

玄関番ベネディクトに引き取られたキーンは、のぞき穴から人間観察に熱中する。

新たな研究対象を見出して、玄関番の仕事に固執し始める。

そんな折に、フィッシェルレからの偽の電報を受けて、キーンの弟で婦人科医のジョルジュが兄が発狂したとやってくる。

兄を心配して害になってるのを悟り、テレーゼと玄関番を巧みな弁舌で追い出した。兄にかつての静かな研究生活を取り戻させる。

しかしすでにキーンには狂気の兆候が現れていた。自宅の静謐を取り戻したキーンは殺人と火事の妄想に取り付かれて、最後には書庫に火を放って、蔵書もろとも炎に包まれるのだった。

【幕】

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心理描写の深さ主人公は、孤独で他者との関わりを極度に恐れる。彼の内面世界の複雑さと、外部世界との乖離が、カネッティの緻密な描写によって鮮明に描かれた。

言語と権力のテーマ言語の力や人間関係における権力構造が重要なテーマ。

言葉がいかに人間を支配して、操るかを探求している。

社会批判ナチズムや全体主義に対する批判を含んで、作者の時代背景を理解すると、テーマやメッセージがより深く感じる。

登場人物たち奇妙で記憶に残るキャラクターが多数登場して、異常な行動や思考が物語の中で独自の魅力を放ってる。

哲学的な問い孤立、狂気、人間の存在意義など、深遠な哲学的テーマが作品全体に散りばめられ、考えさせられる内容となっている。

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《エリアス・カネッティ》

Elias Canetti, 1905725 - 1994814日)ブルガリア出身のユダヤ人作家、思想家。 

代表作に、ライフワークであり、著者自ら「物語る哲学」と呼ぶ、哲学と文学の境界を取り払った独創的な研究『群衆と権力』(1960)、カフカ、H. ブロッホ、ムージルと並んで今世紀ドイツ語文学を代表する長篇小説『眩暈』(1963)がある。


【関連記事】

ヤマザキマリさんのベスト10冊: 仔犬の散歩路http://koinu2005.seesaa.net/pages/user/search/?iphone_page_url=http%3A%2F%2Fkoinu2005.seesaa.net%2F&keyword=%83%84%83%7D%83U%83L%83%7D%83%8A%82%B3%82%F1%82%CC%83x%83X%83g10%8D%FB&article=%91%97%90M

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2025年01月22日

やなせたかし詩集

『たそがれ詩集』やなせたかし

老年ボケやすく
学はほとんど成らず
トンチンカンな人生
終幕の未来も
なんだかヤバイ
それでも笑って
ま、いいとするか

足が弱くて
すぐころぶ
耳は遠いし
眼はかすむ
まいにちあぶない
つなわたり
決死の冒険
サスペンス
これぞ老後のおたのしみ

「無人島の幸福」やなせたかし
人がいないと
いうのがいい
いちばんいい
だれもいない
せいせいする

「絶望のとなり・・・」やなせたかし
絶望のとなりに   
だれかが
そっと 腰掛けた
絶望は
となりのひとに聞いた
「あなたはいったい誰ですか」
となりのひとは 
ほほえんだ
「私の名前は 希望です」

どこにでも死闘はある
 小川の流れの中にも
 ツルバラの茂みにも
 たんぽぽの葉の下にも
 なにかが生きて
 なにかが死んでいる
 (「チリンの鈴」より)

「さびしいカシの木」やなせたかし

山の上のいっぽんの

さびしいさびしい

カシの木が

とおくの国へいきたいと

空ゆく雲にたのんだが

雲は流れて

きえてしまった

 

山の上のいっぽんの

さびしいさびしい

カシの木が

私といっしょにくらしてと

やさしい風にたのんだが

風はどこかへ

きえてしまった

 

山の上のいっぽんの

さびしいさびしい

カシの木は

今ではとても年をとり

ほほえみながらたっている

さびしいことに

なれてしまった


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2025年01月15日

「二十億光年の孤独」谷川俊太郎

「二十億光年の孤独」谷川俊太郎
 
人類は小さな球の上で
眠り起きそして働き
ときどき火星に仲間を欲しがったりする
 
火星人は小さな球の上で
何をしてるか 僕は知らない
(或は ネリリし キルルし ハララしているか)
しかしときどき地球に仲間を欲しがったりする
それはまったくたしかなことだ
 
万有引力とは
ひき合う孤独の力である
 
宇宙はひずんでいる
それ故みんなはもとめ合う
 
宇宙はどんどん膨

ふくら

んでゆく
それ故みんなは不安である
 
二十億光年の孤独に
僕は思わずくしゃみをした


詩集『二十億光年の孤独』(自選谷川俊太郎詩集より)



くしゃみをすることで、観念と想像が再び出発点の人間たる個人へと帰着する。


〈これ(=くしゃみ)を一種のオチと見る人もいるが、自分ではそうは思いたくない。当時の私はそれほどすれていなかったはずだ。〉

(『ことばを中心に』谷川俊太郎)

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2025年01月12日

Kindleで売れる「ハームの法則」

Health:健康・美容

Ambition:夢・将来・キャリア

Relation:人間関係・結婚・恋人・会社

Money:お金


最初の頭文字を取ると、
「HARM」となるので、ハームの法則といわれる。
これらの人間の願望と欲救が、叶えられる図書は人気が集まるだろう。
そのような考えかたらしい。

AmazonKDPの収益の種類  

@買い切り型の販売収入 

A読み放題プランのページ収入 があり、読者の購入方法で変わる。


@買い切り型の販売収入は、読者が通常注文した印税で、売り手が設定した金額からAmazonの手数料を引いた金額が売り手に振り込まれる。

売り手が自由に販売価格を設定できるが、読み放題と違って、本を買う度にお金を払う必要があり売れないと収益にならない。


A読み放題のページ収入は、 Kindle読み放題プランに加入読者が注文して、本が読まれたページ数に対して発生する印税。

売り手が事前に本を読み放題プラン対象にして、読者が読み放題プランに加入していることが前提となる。

なおページ単価は決められず、読まれたページ数に対して一定金額が支払われる。

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2025年01月07日

『黒人アフリカの美術』ミッシェル・レリス

『黒人アフリカの美術』ミッシェル・レリス


【目次】

序論


第一部 黒人芸術に近づくための前置き

 1 西欧世界における《黒人ブーム》

 2 アフリカ黒人の美的感情

 3 黒人アフリカの境界とその若干の特色

 4 黒人アフリカの美術史


第二部 黒人アフリカにおける造形活動

 5 身体の芸術

 6 生活環境の芸術

 7 自律的な具象芸術


第三部 諸部族とその芸術

 8 西スーダンから大西洋沿岸まで

 9 コンゴ諸地方

 10 東アフリカ

 11 南アフリカ


結語


第四部

 参考文献

 図版目録

 注釈つき索引

 地図


「身体の芸術」より:

「多くの場合仮面は、その着用者が自分の顔の上に重ねる偽りの顔である。けれども、袖なしマントの付いた一種の兜であったり、さらには、着用者がすっぽり隠れてしまうほど大きい、繊維や藁などの衣裳であったりすることもある。また、一つの土地に様々な型の仮面が存在する(その一部は、すぐわかるほど様式が似ているが)。これらの仮面は、それをかぶっているかぎり、着用者が普段の人格を捨てて、超現実と境を接する区域に住む存在に変身することのできる道具であり、少なくとも全く象徴的な仮面でないかぎり、様々な世界からその形を借りている。精霊の世界に属する仮面は、人々が精霊について抱く観念、または精霊が人々の夢に現われて述べた欲求にしたがって作られている。人間界をあらわす仮面は、一定の人種集団や社会的範疇の典型的な表現となる。動物の仮面や、さらには、人工物(人間の作った物が神話的な意味を帯びるかぎりで)の仮面もある。仮面をかたちづくる要素は上にあげた四つの世界の、ただひとつだけから出ているとはかぎらず、別種の存在の合成となる場合があるが、単一の表現をとる場合にせよ、合成となる場合にせよ、これらの仮面はしばしば、それぞれの意味をそなえた、きわめて豊かな細部を持っており、また、非常に変化に富んでいて、それらを整理して一つの全体のなかの在るべき位置に組み入れてみると、この全体は、その社会に固有な精神的世界の見取図となり、さらには、伝承をその核として形成された象徴的図像の集大成といったおもむきを呈するのである。

 仮面は、意味ばかりでなく呪力もそなえており、アニミズムとよばれるものの中心に位置をしめている。アニミズムとは、人体より後まで生き残る諸要素のおかげで人体が生かされているのだとする信仰であり、また霊魂や生命力と同様に十分尊重しなければならない諸要素が、人間をとりまく環境のもっとも目につく部分、たとえば動物とか、それぞれの土地とか、川、池や泉、岩、樹木などといった、自然の中の注目すべき変化に結びついているのだとする信仰であり、さらに、これらの信仰を軸として生れた考え方と風習の総体をさす。ところで霊魂と生命力とは一個人の中で合体していて、その人間の死後に自由になり、適切な扱いをするか否かによって、禍福いずれにも転じるのである。本来仮面は、これらの諸力、すなわち、扱い方を知らなければ害をなすが、しかるべく導きさえすれば、いろいろな場合に役立てることのできる諸力の宿るところなのだ。たとえば、死者に関する儀式、あるいは土地を支配する力に関する儀式を執り行う場合であり、社会統制または公安維持の機能を遂行する場合でもある。仮面の原型は一般に生者の世界とは別の世界から由来したものとみなされており、多くの場合、時がたつにつれて、これらの原型に別のタイプのものが加わったり、あるいはそれらが原型にとってかわったりしたようだ。仮面のタイプが多様になったのは、複雑な象徴主義の要求に従ったからでもあり、また事情次第で新しい型を作り出す呪術・宗教上の様々な要求に応じた結果でもある。」

posted by koinu at 10:00| 東京 ☁| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする