2023年05月31日

『週刊朝日』が休刊

日本の週刊誌の草分けとして、100年の歴史を持つ『週刊朝日』が5月末で休刊号。
「週刊誌市場の販売部数・広告費が縮小するなか、今後はウェブニュースや書籍部門に、より注力していく判断をしました」
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確かに週刊誌は年間に、さっぱり買わなくなった。電子書籍の時代は、紙のゴミが増える感覚が起動してしまった。
しかし日本でもっとも古い総合週刊誌なんで、思い出や記憶がたくさんある。
グラビアやイラストの描写の表現は、改めて絶大な昭和だった。
休刊号は眼を皿にして読もうと思う。
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2023年05月25日

『象徴の烏賊』生田春月

象徴の烏賊

生田春月


或る肉体は、インキによつて充たされてゐる。

傷つけても、傷つけても、常にインキを流す。

二十年、インキに浸つた魂の貧困!

或る魂は、自らインキにすぎぬことを誇る。

自分の存在を隠蔽せんがために

象徴の烏賊は、好んでインキを射出する。


或る蛇は、常に毒液を蓄へてゐる。

至大の恐怖に駆られると、蛇は噛みつく。

致命の毒を対象に注入しながら

自らまた力尽きて斃れる旱魃の河!

或る蛇の技術は、自己防衛とその喪失、

夏夕の花火、一瞬の竜と天上する。


或る貝は、海底に幻怪な宮殿を築く。

あらゆる苦悩は重く、不幸は塩辛く、

利刃に刺された傷口は甘く涙を流す。

或る真珠の涙は、清雅な復讐である。

奸黠な商売の金庫に光空しく死せども、

美しい夫人の手に彼の涙は輝く。


或る植物は、常にじめじめした湿地に生え、

その身をあまりに夥多なる液汁に包む。

深夜、或る暗い空洞から空洞へ注ぎこまれ、

その畸形なる尻尾を振つて游泳する

或る菌はしばしば死と復讐の神である。

漠雲の中哄笑する、目に見えぬものは神である。


「象徴の烏賊」第一書房19306



生田春月

会見郡米子町字道笑町に生まれる。本名清平(きよひら)。

 生家の没落により高等教育を受けられない中、独学で語学・文学修業を行う。新潮社の経営する文章学院の一員となったことから作品の出版に結びつき、特に『霊魂の秋』『感傷の春』の二部作は大きな反響を呼んだ。また自伝的小説『相寄る魂』にはふるさと米子の情景が美しく描かれている。

 翻訳家としての業績も多く、ハイネ(1797年〜1856年)を日本に紹介した第一人者。

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2023年05月14日

東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな

東風(こち)吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな 


拾遺和歌集 雑春 1006

:わが家の梅の花よ。東風が吹いたら、私のいる大宰府まで匂いを届けておくれ。主人がいないからと言って、春を忘れてはならないよ。


My ume tree, could you please send your scent on the east wind? Don't forget to bloom in spring even if I'm not here.


道真は昌泰4年、大宰権帥に左遷される。この歌は都を発つときの歌として、『大鏡』などに引用されて有名。なお、東風は、東から西に吹く風のことであり、大宰府においては都から吹いてくる風が東風である。

ほぼ同じシチュエーションでの「桜花ぬしを忘れぬものならば吹き来む風に言伝てはせよ」(後撰和歌集・春・57番)も切ない。


文法事項

吹かば:未然形+ば。仮定条件で「もし吹いたら」と訳す。

おこせよ:サ行下二段活用「おこす」の命令形。なお、サ行四段「起こす」とは別の語で、「遣る」の反対語。こちらに寄越してくること。

忘るな:「な」は終助詞で禁止。「な〜そ」の禁止よりも強いニュアンス。

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三島由紀夫が語った「お茶漬けナショナリズム」をバカにできない理由

『お茶漬ナショナリズム』は三島由紀夫の評論・随筆。 日本の文化や伝統を軽蔑しながらも、海外旅行先でお茶漬の味を恋しがったり、西洋と比べて日本の価値を判断したりするような主観的・日本的な感覚に寄りかかっている中途半端なインテリ「新帰朝者」たちの有り様を批判したもの。


「外国へ行くと愛国者になるというが、一概にさうしたものでもあるまい。日本にいて、日本のよさがわからないやうな人が、もっと遠くへ行ってわかるやうになるといふ理屈はないのである。それは大方、やっぱり刺身が恋しいとか、おみおつけが恋しいとかといふ、他愛のない愛国心であろう」

(三島由紀夫「お茶漬けナショナリズム」)


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三島由紀夫は海外へ逗留した日本人がその国の食事に飽きたり口に合わなくて日本食が恋しくなり「お茶漬けばかりは思想を斟酌しないとみえて、外国へ一歩出たら、進歩的文化人も反動政治家も、仲良くお茶漬けノスタルジーのとりこになってしまう」と、日本文化や伝統を軽視しながら、イデオロギーや理念などとは異なり、お茶漬けという食文化に自身の血肉と切っても切れない切実なノスタルジーと、それにつられてナショナリズムを実感するような事を批判している。


「日本、日本人、日本文化、といふものは、そんなにわかりにくいものだらうか? 日本の国内にゐては、そんなにその有難味を知りにくいものだらうか? どうしても一歩国外へ出てみなくては、つかめないものなのだらうか? あるひは日本人は、そんなにも贅沢になつてしまつて、自分の持つてゐるものの値打を、遠くからでなくては気づかなくなつてしまつたのであらうか?

これは多分、文明開化の病状の一つといふか、明治の文明開化の後遺症みたいなものだと思はれる。」

(三島由紀夫「お茶漬ナショナリズム」)


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権威依存と他者から頂戴した箔付けを自身の価値の拠り所として、ナショナリズムの脆弱な土台にしてしまう。文化的な帰属を軽視し消費するエニウェアーズでありながら、その文化が評価されることをにわかに誇るサムウェアーズである欺瞞を指摘した。


「その上、大正インテリが社会の上層部を占めてゐて、自分たちが知らないものだから、日本の伝統文化のなかの豊麗なもの、清純なもの、デカダンなもの、雄々しいもの、美しいものに対する客観的評価を不可能にしてしまつた。」

(三島由紀夫「お茶漬ナショナリズム」)


【関連記事】

三島由紀夫が語った「お茶漬けナショナリズム」をバカにできない理由【適菜収】

https://share.smartnews.com/9weQC


三島由紀夫(1925-1970)東京生れ。本名、平岡公威。

1947(昭和22)年東大法学部を卒業後、大蔵省に勤務するも9ヶ月で退職、執筆生活に入る。1949年、最初の書き下ろし長編『仮面の告白』を刊行、作家としての地位を確立。

主な著書に、1954年『潮騒』(新潮社文学賞)、1956年『金閣寺』(読売文学賞)、1965年『サド侯爵夫人』(芸術祭賞)等。19701125日、『豊饒の海』第四巻「天人五衰」の最終回原稿を書き上げた後、自衛隊市ヶ谷駐屯地で自決。ミシマ文学は諸外国語に翻訳され、全世界で愛読される。

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2023年05月05日

ガルシア=マルケスの発明「詩的歴史」と後継者たち──ゴールデンウィークに読破したい、「心に効く」読書

『百年の孤独』は一連の「幻覚的体験」に引き込まれ、否応なく「想像力の限界を極限にまで」高めていく。


旅まわりの一家が持ってきた姿が見えなくなる薬、ブタの尻尾が生えた少年、空飛ぶじゅうたんをまのあたりにすることでドーパミンが放出され、可能性に満ちた軽い興奮で脳が満たされる。

この軽い興奮が始まると、読み手は積極的な再発見へと向かう。これも明らかに幻覚的体験である。だが......。  

https://share.smartnews.com/59VH3


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映画【エレンディア】1983年

https://vimeo.com/198858322

G=マルケスの中編小説を、そのメルヘン的ムードもそのままに、いかにもラテン的なI・パパスの快演によって、楽しく魅せる佳品。因業な祖母(パパス)に、奴隷のようにこき使われ、やがて旅の娼婦に仕立て上げられる少女エレンディラ。そんな彼女の生活も、天使を思わせる美青年ユリシスの登場で大きく変わろうとする……。主人公を演ずるオハナの美貌が評判となり、日本ではCMや雑誌広告に出たりした。


映画【エレンディア】本編映像

https://vimeo.com/198858322

出演

イレーネ・パパス

クラウディア・オハナ

ミシェル・ロンズデール

オリヴァー・ウエイエ

監督 ルイ・グエッラ

製作 アラン・ケフェレアン

原作 ガブリエル・ガルシア=マルケス

脚本 ガブリエル・ガルシア=マルケス

撮影 デニス・クレルヴァル

音楽 モーリス・ルクール

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谷川俊太郎『生まれたよ ぼく』は、赤ちゃんの身になって

谷川俊太郎さんの詩『生まれたよ ぼく』は、赤ちゃんの身になって書かれた。途中まで引く
▼「生まれたよ ぼく やっとここにやってきた 
まだ眼は開いてないけど まだ耳も聞こえないけど ぼくは知ってる 
ここがどんなにすばらしいところか だから邪魔しないでください 
ぼくが笑うのを ぼくが泣くのを ぼくが誰かを好きになるのを ぼくが幸せになるのを」。
邪魔しないでとの訴えに大人は胸をつかれよう
▼愛知で先日、産んだ乳児の遺体を埋めたとして女性が逮捕された。こうなる前に誰かが女性の思いを聞けなかったものか。約二カ月前には東京で、母親の交際相手から暴行されたとみられる五歳児が亡くなった。似た事件は何度あっただろう
▼貧困家庭は食費を削り、交際に金がかかるからと友達をつくらない高校生もいるとNPO関係者が語っている。なくならない格差。戦時のウクライナでは子どもも命を落とすが、私たちの国は今後も平和を守れるだろうか
▼詩は続く。
「いつかぼくが ここから出て行くときのために いまからぼくは遺言する 
山はいつまでも高くそびえていてほしい 
海はいつまでも深くたたえていてほしい 
空はいつまでも青く澄んでいてほしい 
そして人はここにやってきた日のことを 忘れずにいてほしい」
▼自然を慈しみ、あの日から知る希望を失うなということだろう。
【東京新聞】筆洗より
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『対訳 ブレイク詩集』岩波文庫

昨日には文学者の大江健三郎さんと、息子さんである音楽家の大江光さんのドキュメント番組が再放送されてました。

身体障害者として生まれてきた、とても才能ある光さん。ぼくは高校生の頃に、ブレイクを知るきっかけをいただきました。


 「無垢の予兆」ブレイク

 一粒の砂にも世界を

 一輪の野の花にも天国を見、

 君の掌のうちに無限を

 一時のうちに永遠を握る。          

 

『ピカリング稿本』より

Auguries of innocence

 To see a World in a Grain of Sand

 And a Heaven in a Wild Flower,

 Hold Infinity in the palm of your hand

 And Eternity in an hour.


言葉でこれほど響く世界に驚きました。


<関連番組>

あの日 あのとき あの番組 大江健三郎さん 日本人へのメッセージ

【ゲスト】平野啓一郎

【司会】森田美由紀

ETV特集

https://www.nhk.jp/p/etv21c/ts/M2ZWLQ6RQP/

[Eテレ] 毎週土曜 午後11:00再放送



「羊」

 荒れた谷間を笛吹きつつ

楽しい悦びの歌を吹きつつ下りると

雲の上に一人の子供が見えた。

その子は笑って私に言った。

 「子羊の歌を吹いてよ」

そこで私は心楽しく笛を吹いた。


「経験の歌」

みんなはとび跳ね、笑いながら緑の野原を駆けまわり

川で洗いきよめ、日を浴びて体が輝く

それから白い裸のまま、煤袋を置き去りにして

雲に乗り、風の中を遊んだ



対訳 ブレイク詩集』岩波文庫

ウィリアム・ブレーク/松島正一訳


「虎よ、虎よ、輝き燃える/夜の森のなかで」(「虎」)―彫版師、画家、預言者と多面的な顔をもつイギリスの詩人ウィリアム・ブレイク(17571827)。『無垢と経験の歌』『セルの書』『天国と地獄の結婚』『詩的素描』など、イギリス・ロマン派のさきがけとなった詩人の神秘的な幻想詩のエッセンスを対訳形式で収録。


【目次】

1 『無垢と経験の歌』/2 『セルの書』/3 『天国と地獄の結婚』より/4 『アルビヨンの娘たちの幻覚』/5 『詩的素描』より/6 『ピカリング稿本』より


岩波書店 200406

文庫 345p

注記:本文:日英両文


連休中に文庫を開いてますが、岩波文庫はやはり確信してますね。 

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2023年05月04日

中野重治さんの詩集を読む

「文字となって残るような仕事だけを仕事と思い込み、それがそれとして人の眼に映るために千万無量のおかげをこうむつている眼に見えない仕事、瞬間に消えてゆくような仕事を仕事だと思わないようになる。」


「わたしは月をながめ」中野重治


わたしは月をながめ

おまえのことを考える

わたしはおまえに逢いたい

月は中ぞらにあんなに光つている

そしてわたしは思い出す

わたしの足の下を掘って行くならばおまえの国へ出るということを

わたしの足の下におまえはさかしまになつて歩いている

おまえとわたしとは同じ月を眺めることができない

雲のない満月もあかい月蝕もひとつも見られない

月の光もおまえとわたしとをいつしよに照らすことはようしない

対蹠のくに

なんという遠方だろう

わたしは月をながめ

わたしはおまえに逢いたいのである



「女西洋人」中野重治


どこの国の人だろうなあ

あの人はいいことをしたんだがなあ 

なんであんなに赧い顔なんぞするんだろうなあ 

汽車のがらす窓は随分と重いんだし 

あのお婆さんはその締め方を知らないんだものなあ 

それを見兼ねてつい締めてやっただけのことだものなあ 

なんであんなに顔の下の方から赧くなんぞなるんだろうなあ 

もうずっと上の方まで顔一めんにまっかだがなあ

親切をしてやったことがあの人には恥ずかしいのかなあ 

それともお婆さんがなんぼやっても駄目だったことが 

あんまり造作もなくそして人の目の前で出来てしまったので 

まだ年の若いらしいあの人は極まりがわるいとでもいうのかなあ 

それに 

これまたどうしたと言うんだろうなあ 

あの人の赧くなるのを見ているうちに 

おれは少しずつ悲しくなってきたがなあ 

少し寒いようで少し恥ずかしいようで・・・ 

どうしておれにはこんな事がいつもいつも悲しいんだろうかなあ 

おれやひょっとどうかなって了うんじゃあるまいかなあ


『現代詩文庫 中野重治詩集』(思潮社)より



 「真夜中の蝉」


 真夜中になつて

 風も落ちたし

 みんな寝てしまうし

 何時ごろやら見当もつかぬのに

 杉の木あたりにいて

 じいつというて鳴く

 じつに馬鹿だ

『中野重治詩集』(岩波文庫)



「サヤ豆を育てたことについてかって風が誇らなかったように 

また船を浮かべたことについてかって水が求めなかったように」


中野重治

1902(明治35)年、福井県生まれ。小説家、評論家、詩人。第四高等学校を経て東京帝国大学独文科卒業。在学中に堀辰雄、窪川鶴次郎らと詩誌『驢馬』を創刊。日本プロレタリア芸術連盟やナップに参加。31年日本共産党に入党するが、のちに転向。小説「村の家」「歌のわかれ」「空想家とシナリオ」を発表。戦後、新日本文学会を結成。45年に再入党し、47年から50年、参議院議員として活動。64年に党の方針と対立して除名された。79(昭和54)年没。『むらぎも』(毎日出版文化賞)、『梨の花』(読売文学賞)、『甲乙丙丁』(野間文芸賞)などがある。



【中野重治の詩作品】

大道の人びと

浦島太郎

しらなみ

爪はまだあるか

あかるい娘ら

眼のなかに

挿木をする

わかれ

たんぼの女

わたしは月をながめ

今日も

水辺を去る

夜が静かなので

ぼろきれ

はたきを贈る

噴水のように

垣根にそうて

最後の箱

夜の挨拶

女西洋人

たばこ屋

北見の海岸

豪傑

夜明け前のさよなら

東京帝国大学生

思える

真夜中の蝉

新任大使着京の図

日々

機関車

掃除

県知事

無政府主義者

帝国ホテル 一

帝国ホテル 二

新聞記者

「万年大学生」の作者に

ポール・クローデル

道路を築く

汽車 一

汽車 二

汽車 三

死んだ一人

彼が書き残した言葉

新聞にのつた写真

新聞をつくる人びとに

兵隊について

速く! 速く!

朝鮮の娘たち

法律

『無産者新聞』第百号

やつらの一家眷族を掃きだしてしまえ

壁新聞をつくるソ同盟の兄弟

待つてろ極道地主めら

夜刈りの思い出

雨の降る品川駅

いよいよ今日から

今夜おれはおまえの寝息を聞いてやる

画壇の英雄

為替相場

わたしは嘆かずにはいられない

Impromptu I

Impromptu II

二月の雪

十月

古今的新古今的

  千早町三十番地

  そこに君は

  君は歩いて行くらん

きくわん車

その人たち

取つて二十五へ

竜北中学校校歌 ※福井県丸岡町立竜北中学校校歌。1957年作。石桁真礼生作曲。

丸岡中学校の歌 ※福井県丸岡町立丸岡中学校校歌。1970年作。石桁真礼生作曲。

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2023年05月03日

GWに「一気読み必至の長編小説」 書店バイヤーが近刊や新刊から厳選10冊

読みごたえたっぷり

はじめての川上作品としても 


『黄色い家』/川上未映子/中央公論新社


「言葉の力」に圧倒される


『笑って人類!』/太田光/幻冬舎


『ボタニカ』/朝井まかて/祥伝社


『すべてのことはメッセージ 小説ユーミン』/山内マリコ/マガジンハウス


『兜町の男』/黒木亮/毎日新聞出版


『江戸一新』/門井慶喜/中央公論新社


『広重ぶるう』/梶よう子/新潮社


『ゴリラ裁判の日』/須藤古都離/講談社


『浮遊』/遠野遥/河出書房新社


『破果』/ク・ビョンモ/岩波書店


AERA 2023518日合併号

https://dot.asahi.com/aera/2023042600074.html?page=1

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2023年04月27日

『われら』エヴゲーニイ・ザミャーチン

ディストピア長編小説で、1920年から翌年にかけて執筆された。ソ連本国では発表出来ず、1927年チェコで出版された。ソ連ではペレストロイカ後の1988年になってようやく出版された。 

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『われら』エヴゲーニイ・ザミャーチン

<あらすじ>

 主人公であるD503号は、数学の専門家として「単一国」が建造中の宇宙船「インテグラル号」の計画に関わってた。その国では国民は名前ではなく番号で呼ばれ、その行動も「時間律令板」によって定められていて、「個人の自由」は存在していない。「個人時間」というわずかの自由時間だけが例外で、家は外から丸見えになるよう作られていた。

 食料に困ることはないが、石油から作られた人工食品によって彼らは養われて、SEXについても個人個人が政府の管理のもとにおかれている。


「要点を言おう。古代の或る賢人が、もちろんまぐれ当たりだろうが、うまいことを言った。『愛と飢えが世界を支配する』というのである。従って、世界をわがものににしたいならば、人間はその両支配者を支配しなければならない。」

(石油食品と性の統制による支配体制の完成についての言葉)


 D503号はそんな管理された社会をユートピアと信じる模範的な国民だった。


「それから自問自答した。なぜ美しいのだろう。この踊りがなぜ美しいのか。それが非自由の運動であり、そもそも踊りに秘められた深い意味とは、美学的な面での絶対服従と完璧な非自由にほかならないのであるから。」

(インテグラル号を建造する機械を見る主人公の記述)


 だが彼はI330号という謎の女性と知り合い、それを契機に生き方、考え方に変化が生じ始めた。彼女は単一国と外界を隔てる「緑の壁」の向こう側の人々と共闘し革命を起こそうと企てる組織「メフィ」のメンバーだった。彼女は彼がユートピアと認める「慈愛の人」による政治システムを認めず、「慈愛の人」が革命を途中で終わらせたのは間違いだと指摘する。「革命」には終わりはないはずだ、と彼女は主張した。


「しかしそれは無意味だよ。数というのは無限なんだから、最後の数を求めても無駄なことだ」

「じゃどうして最後の革命なんていうの。最後の革命なんてありゃしない、革命は無限なのよ。」

(確かに「革命」が止まったところから、共産主義が崩壊を始めたのは歴史が示してる)

 そして現在の体制を変えるために、現在建造中のインテグラル号を乗っ取りる計画を立てているのを彼に打ち明け、協力を求める。


「それから先は何もない!終わりだ。全宇宙が均質になって、至る所、一面に・・・」

「なあるほど、至る所均質にね!それこそエントロピー、心理的エントロピーじゃないの。あなたは数学者のくせに分からないのかしら、差にこそ、温度差や、熱コントラストにこそ生命は宿るのよ。もしも全宇宙の至る所が同じように温かい、あるいは同じように冷たい物質でならされているとしたら・・・その物質を刺激して、火を、爆発を、地獄を起こさせてやらなきゃ。だから私たちは刺激を与えるのよ」


 I330号を愛してしまった彼はいつしか革命の動きに巻き込まれてゆく。しかし政府はそうした革命組織の動きをすでに察知しており、国民の政府に対する反抗心や疑いの心を取り除くための医学的な処置方法を発見してもいた。その実施に踏み切ると、取り除かれるその反抗心とは、「想像力」という人間のもつ大切な能力だった。


「だがこれは諸君の罪ではない。諸君は病気なのだ。その病名は、想像力という。これは諸君の顔に黒ずんだしわを噛み跡として残す毒虫だ。これは諸君を追い立てて絶えず彼方へと走らせる熱病だ。その「彼方」なるものは幸福の終わる所から始まるのだが。これは幸福への道に残された最後のバリケードだ。だが喜べ、バリケードは既に爆破された。

 幸福への障害は取り除かれた。単一国科学の最近の発見によれば、想像力の中枢はワローリオ氏橋の部分にある一つの貧弱な脳神経節である。この神経節をエックス線によって三度焼けば、諸君は想像力の病を永遠に免れる。

 諸君は今や完全無欠であり、機械と同等の存在であり、こうして百パーセントの幸福への道は開かれた。急げ、老いも若きも全員が一刻も早く『大手術』を受けよ。

『大手術』の行われる集会所へ急げ。

『大手術』ばんざい!

単一国ばんざい、慈愛の人ばんざい!」


 それに対して革命派はついに行動を開始する。混乱の中で彼は単一国のリーダー「慈愛の人」に呼び出される。そして「慈愛の人」は彼らが目指す世界について、幸福とは何かについて、こう語りかけた。


「まずきみに訊ねよう。人は幼い頃から何を祈り、何を夢み、何に苦しむのだろう。何者かが現れて幸福の最終的な定義を下し、しかるのちに鎖でその幸福に人々をつなぎとめてくれることを、ではないか。われらが現在為しつつあるのは、正しくそのことにほかならぬ。」


 革命の結果は? 二人の愛の結末は?


コロナ禍で戦火のニュースが響く日々に、再度する読書であった。乗り越えて行かねばならない閉塞感と社会的環境に対して、ユーモアが沸騰してくる。


過去に迫害を受 けた文学者ブルガーコフ、プ ラトーノフ、パステルナーク や亡命作家ザミャーチン、ナ ボコフなどの作品が解禁され たのである。

集英社ギャ ラリー〔世界の文学〕15「ロ シア・」、ザ ミャーチン『われら』『洪水』、 ブルガーコフ『巨匠とマルガ リータ』、プラトーノフ『ジャ ン』など、「ソヴェト文学」の 枠内には収まらない、二十世紀ロ シア文学を読むことができる。長い時間の検証に 耐えて、文学固有の論理によ って復活されるべ き存在であった。


「われわれの要求はただ一つ、すなわち芸術作品が有機的、現実的であり、その固有の生き生きることである。問題は自然をコピーすることではなくて、自然と同等の固有の生を生きることなのだ。われわれは文学的空想が一つの固有の現実をかたちづくることを信じ、実用主義を望まない。われわれは宣伝を行うために書くのではない。芸術は生と同等に現実的である。そして生と同じく芸術には目的も理由もない。芸術は存在せずにはいられないから存在するのである。」エヴゲーニイ・ザミャーチン

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2023年04月24日

「不足の成分」『殺人心理学』より

ジョージ・ド・ルースネー・リオン「不足の成分」

手荒れに悩む妻リリーのため、手に優しい石鹸作りを探究するロジャー。あらゆる脂肪を用いて試行錯誤した末、ついに理想の石鹸が完成する。

しかし膨よかな体型となった妻は、冒頭から家にいない。明確に書かれていないが、地下の実験研究室に誰も近づくことを案じていたのだが。

『殺人心理学-Killers of the Mind-

ルーシー・フリーマン  より


脂肪成分はどこから摂取したのか。

描写されていない地下室空間を考えると、

ぞっとする短編であった。

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2023年04月19日

『ガロ・COM漫画名作選』講談社

『ガロ・COM漫画名作選』講談社

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1: 1964-1970

「カムイ伝」白土三平

「火の鳥 」手塚治虫

「火の鳥 : 休憩 」手塚治虫

「福の神 」水木しげる

「ジュン」石ノ森章太郎

「チーコ 」つげ義春

「フーテン」永島慎二

「さそり 」辰巳ヨシヒロ

「幽霊世界 」松本零士

「ぎんながし」滝田ゆう

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2: 1968-1971

「野犬 」池上遼一

「こみっきすと列伝 : 陽炎のように燃えた… 」真崎守

「あらさのさぁー」楠勝平

「街には雨が… 」宮谷一彦

「わら草紙 」勝又進

「原点  」青柳裕介

「ひとつねた  」矢口高雄

「音 」つりたくにこ

「ガラス玉 」岡田史子

「赤とんぼ 」林静一

「うみべのまち 」佐々木マキ

「ノアをさがして」矢代まさこ


(講談社2012年刊行)


月刊漫画『ガロ』とマンガエリートのための月刊『COM』を題材にしている『マンガ黄金時代 '60年代傑作集』とは、アンソロジー素材が限りなく近い。

けれども編集へと熱気が平坦なせいか、温度差を感じてしまった。マニアチックな雑誌の傑作選は、やはり大手の出版社では荒削りなものになってしまうのだろうか。

もっと先鋭的な方針にするか、歴史的な名作を残してゆくのか絞りきれていなかったのが残念でならない。

ブログを検索しても本書について記載してるものは、これだけの作家を扱っているにも関わらず、ほとんど記事はないのも熱気不足なんだろうと考えられる。

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『COM傑作選』〈上〉〈下〉(ちくま文庫)

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虫プロ商事が発行していたマンガ雑誌・COMに掲載された作品を、評論家の中条省平が編纂した「COM傑作選」。膨大なバックナンバーから、年代を追ってテーマごとに分類されて資料性の高い集大成となっております。


【「COM傑作選」〈上〉19671969収録作品】

「創刊のことば」 手塚治虫

「ぐら・こん 活動をはじめよう!」 峠・あかね

「ぐら・こん まんが予備校」

「太陽と骸骨のような少年」 岡田史子

「ぐら・こん 新人入選者ぷろふぃる」 岡田史子

「まんが賞の審査をして…… 手塚治虫

「ある、なきごと、」 永島慎二

「フーテン」 永島慎二

「ごあいさつ、」 永島慎二

「ぐら・こん まんが予備校」

「夏」 岡田史子

「ぐら・こん 選評」 青柳裕介

「いきぬき」 青柳裕介

「ぐら・こん 新人入選者ぷろふぃる」 青柳裕介

「キャラクターは生きている」 峠あかね/編集部

「ぐらこん まんが予備校」

「『COM』創刊一周年を迎えて」 手塚治虫

300,000km/sec. あすなひろし

「『巨人の星』と涙」 草森紳一

「ぐら・こん まんが予備校」

「石子順造氏への公開状」 手塚治虫

「手塚治虫氏への反論」 石子順造

「コマ画のオリジナルな世界」 峠あかね 

「ぐら・こん 支部を結成して支部長に立候補しよう」

「蝶々の泣いた夜」 矢代まさこ

「新暦八九一年の皆既日食  はせがわほうせい

「ぐら・こん 新人入選者ぷろふぃる」 はせがわほうせい

「対談 マイペースで描こう!」 つげ義春/岡田史子

「戦争がつくった主人公」 小野耕世

「鉄腕アトムの死」 野田宏一郎

「ぐら・こんロビー 投稿」

「地下鉄」 樋口太郎 

「鳥」 樋口太郎

「バカ式」 長谷邦夫

「おさらばしろ!」 坂口尚

「こみっきすと列伝 VOL.1VOL.3 真崎・守

「ぐら・こん まんがカウンセリング」 楳図かずお/松本零士

【解説】中条省平


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【「COM傑作選」〈下〉19701971収録作品】

「九つの春」 やまだ紫

「ぐら・こん まんがカウンセリング」 水野英子/長谷邦夫

「アメリカの夢は死んだ?」 小野耕世

「達磨さん達磨さん睨めっこしましょう 笑うと負けよ アップップッ!」 楠勝平

「競作 トキワ荘物語」 赤塚不二夫

「競作 トキワ荘物語」 石森章太郎

「競作 トキワ荘物語」 手塚治虫

「解放最初の日」 樹村みのり

「まんがカワラ版」

「零の発見」 大山学

140万光年の沈黙」 松本零士

「ぐら・こん コミックスクール総評」 赤塚不二夫

COM読者白書」

「ジュン子・恐喝」 諸星大二郎

「少女まんがの瞳について」 草森紳一

「華麗なる死とのたれ死に」 斎藤次郎

「虫通信NO.3 手塚治虫

「虫通信NO.4 手塚治虫

「焦点」

「愛読者のみなさんへ」 手塚治虫/石井文男

「初恋漬」 上村一夫

「ぐら・こん ぐら・こんロビー 投稿」

「まんが家探訪記 日本刀が僕のすべて!! 日野日出志

「想い出のジュン」 石森章太郎

10月の少女たち」 萩尾望都

「座談会 少女まんがをさぐる!」

「火の鳥 休憩」 手塚治虫

「『マンガジュマン』発行にあたって」

「ぐら・こん ぐら・こんロビー」

COMの新しい夜明け」 手塚治虫

【解説】中条省平


(筑摩書房2015年刊行)

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『マンガ黄金時代 '60年代傑作集』文春文庫

六〇年代、マンガはこんなにも元気だった。空前の黄金時代に花開いた手塚、白土、つげ、永島などの傑作短篇をさらに精選して大集合。約八百ページのド迫力で贈る。

この傑作を読まずして、マンガを語ることなかれ。永遠の名作32編を満載

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『マンガ黄金時代 '60年代傑作集』

【収録作品】

手塚治虫   ジョーを訪ねた男

滝田ゆう   ラララの恋人

楠 勝平   おせん

山上たつひこ ゼンマイ仕掛けのまくわうり

つげ義春   ほんやら洞のべんさん

勝又 進   四コマ特集

藤子不二雄  ひっとらあ伯父サン

村野守美   宿の蛍り

赤瀬川原平  お座敷

山松ゆうきち 一六ばあさん

つげ忠男   河童の居る川

谷岡ヤスジ  ヤスジのメッタメタガキ道講座

林 静一   巨大な魚

佐々木マキ  うみべのまち

永島慎二   青春裁判

日野日出志  赤い花

水木しげる  テレビくん

真崎 守   情炎のぶつぎり

赤塚不二夫  怪僧ケツプーチンなのだ

川本コオ   すっぱい季節

宮谷一彦   ライク ア ローリング ストーン

やまだ紫   しつもんがあります

淀川さんぽ  身体検査

あすなひろし 武蔵野心中

高 信太郎  ホモ太郎

樹村みのり  おとうと

つりたくにこ 六の宮姫子の悲劇

鈴木翁二   マッチ一本の話

辰巳ヨシヒロ さそり

青柳裕介   いきぬき

石森章太郎  春の宵

白土三平   傀儡がえし

【解説】  赤瀬川原平(イラストレター)

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19866月に文春文庫ビジアル版として刊行。770ページ大冊を有効に編集して、単なる短編マンガの集大成にならない編集となっている。

残念ながら絶版となってしまったけれど、判型を変えて復刻出版されても傑作の数々は色褪せずに、現在の商業誌マンガにはない異形を放っているだろう

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2023年04月18日

『オーム伝』関一彦(光伸書房)

昭和四十二年から四十三年にかけて光伸書房の「ハイ・コミックス」という新書版単行本で描き下ろされた。

タイトルは『二十一世紀の日本 オーム伝』となっており、舞台は二十一世紀の日本であるが、社会は資本主義や科学文明が進み、大企業や国家の重要な職務につくものは裕福だが、一般の労働者、工業ロボットなどに職場を奪われた人々は、次に働く場所もなく、毎日の食料にも困窮する「貧民」階層として、社会から差別されている。「貧民」の側に立ち、人々がみな平等な生活をおくれるようにと、超能力を駆使して社会と闘うのが、主人公のオームである。

『忍者武芸帖・影丸伝』『カムイ伝』を意識した、壮大なSF劇画の構想にあった。

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【あらすじ】

地球に飛来してきた2隻の宇宙船の戦闘から、この物語は始まる。片方の宇宙船がもう一方を撃退するも、撃退された悪の宇宙生命体・トッパーは脱出し、それを追う善の宇宙人・カシオペヤ星人を原子レベルにまで分解する。

そしてトッパーは手近にいたサメを操り、豪華客船忍び込み、客船の乗客・カミ夫人の頭脳を乗っ取ることに成功する。操られた彼女は、自らの赤ん坊を海に投げ捨て、更にトッパー本体に高カロリーの栄養物(血液)を提供すべく、何度も人間を殺害するようになるのだった。

彼女はやがて、暗黒街の組織を乗っ取り、着々と人間を支配する下準備を重ねていた。


 場面変わり、その頃の陸軍の食糧庫などでは、数々の超能力を駆使するオームをはじめとする抵抗組織が大量の食糧を強奪する事件が相次いでいた。21世紀の日本では貧富の差が拡大し、一部の資本家が大多数の民衆から富のほとんどを搾取する状態が続いていたのだ。

 カミ夫人も、本来は貧民に救いの手を差し伸べる良識的な人物だったのだが、トッパーに支配されて以来豹変し、極悪な人物と化してしまった。訝しがる人々をよそに、テレパスであるオームは、カミ夫人の正体に気付き愕然とするのだった。


 刑事の秋山シンゴは、都内に跳梁跋扈している一人の犯罪者を追っていた。彼は囚人であるはずなのだが、いつの間にか刑務所内から姿を消し、外で犯罪を繰り返してはいつの間にか再び刑務所に戻っているのだ。執拗な追跡の途中、その犯罪者は事故死する。

しかし、その裏には陸軍による超能力開発計画が蠢いていたのだ。

 シンゴも実験材料となるが、極限状態の中超能力(テレポーティション)に目覚め、解放される。

 彼は貧民街(スラム)の指導者的存在であるトリイと付き合ううちに、自分の仕えている国家に、そして自分が職業として守ろうとしている体制に、疑問を感じ始めるのだった。


 オームは労働者の雇用を奪い、更なる貧富の差を生み出すロボットを大量生産する超巨大企業・三石財閥のロボット工場を次々と破壊していく。三石財閥の跡取り息子にして、テレパスの三石竜次を易々と翻弄する。そして、更なる富を求め暗黒街と癒着し、軍事産業へ進出しようとする三石財閥に警告を発する。


 そんな中、トッパーの支配から逃れたカミ夫人は、自らの赤ん坊を海に投げ捨てたことに心を痛め、悲しみの日々を送っていた。心の中で赤ん坊を呼び続けるカミ夫人。

それに呼応するかのように、赤ん坊がちょうど投げ捨てられたその海中において、トッパーに分解されたはずのカシオペヤ星人の未知の力により、様々な原子が集まり、赤ん坊は類人種族(ヒューマノイド)として復活していたのだった・・・・・・

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〈全6巻の構想だっが、3巻しか刊行ならなかった〉


日の丸文庫から「ハイコミックス」として、

<来訪者の巻><カミ婦人の巻><不思議な少年の巻>3册が昭和43年に発行された。

続刊予定として、<動乱の巻><ノバ爆弾の巻><フェニックス(不死鳥)の巻>が日の丸文庫の雑誌「ごん」に連載継続の予告されてたが、続編は一回だけの休刊号となってしまった。


作者・関一彦

昭和16年生まれ、高松市出身。在住のまま、ホームラン文庫(東考社)でデビュー後、日の丸文庫に移る。SF劇画に本領を発揮。


【第二巻あとがき】

20世紀の現実を見ると苦々しき事が実に多い。これでは日本はだめだ。その為には若い人たちに20世紀の悪を拡大して描きその現実のなかで、いかに生きるべきか、何をすべきかそんなものを作者は訴えたくて胸ふさがるおもい」


白土三平さんの劇画技法から解説する

「忍者まんがは、今のまんが界にも脈々と生きているのだ。エスパーまんがに形を変えてな」

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1巻P.61 

2019年防衛省はついに幾多の反対をおしきって日本軍隊となった。

1巻P.73

先頭の運転手とオームとの会話はテレパシーでおこなわれたことはもちろんである。


1巻P.9

宇宙においてのロケット対ロケットの戦いはロケットのエネルギー、バリヤー対それを破ろうとするエネルギー波の戦いである。 

相手のバリヤーを破らないかぎりロケット自体を破壊することは出来ない。

ここでは追ってきたロケットがバリヤーを破り逃げるロケットの一部を破壊することに成功した。


2巻P.149 

神経ムチは2018年ロシア人アシモフによって発明され現在全世界の警察官の主武器となっている。

これは皮下神経にのみ作用し皮フ細胞には何の内外傷も与えない。しかしその痛みは強烈で失神、はなはだしい場合は死亡させることもできる痛みの強弱はグリップのめもりで調セツできるようになっている


1巻P.35(宇宙生物トッパーが夫人の精神を乗っ取るシーン)

フーッどうやら支配したぞ

いつでも知的生物の頭脳に住みつくには

多少の抵抗はあるものだが・・・

どれ、記憶を調べてみるか

フム、この生物は人間というものか、こいつらが

この恒星系(ここでは太陽系)の支配的生物か。

オレがここまで乗ってきた(トッパーはとりつくことをこう表現するらしい)生物はサメというものか・・・

さて、この人間=カミ夫人か=の状況は・・・

ウム近くに人間が、ギャングという種類か・・・

極度の危険な状態におかれているらしい――――ヨシッ

エート足の神経は・・・・・・と・・・・・・これか。

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『幻の貸本マンガ大全集』文芸春秋編

昭和三十年代、子供たちを熱中させ、やがて消えていった貸本マンガ。現在隆盛のストーリーマンガの原点は実はそこにあった。当時の主要作家二十人を一堂に集めて代表作を完全収録。

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【収録作家】

巴里雄 滝田ゆう小島剛夕 ありかわ栄一 永島慎二 水木しげる 白土三平 さいとうたかお 佐藤まさあき 松本正彦 山本まさひろ 影丸譲也 楳図かずお K元美津 辰巳ヨシヒロ 石川ひろやす いばら美喜 矢代まさこ 平田行史 つげ義春

巻末に長井勝一×桜井昌一対談

文春文庫ビジュアル版/1987年刊行

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貸本劇画ブームだった昭和のマンガ作品から、絶版となって入手困難なものが集められている傑作ミステリー集大成。

圧巻されるエネルギーに、劇画初期の未知数の可能性を感じる。

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2023年04月13日

【植物博士からの言葉】

朝ドラマになってる牧野富太郎さんの、植物を愛する名言から。


「私は天性植物が好きだったのが何より幸福で、この好きが一生私を植物研究の舞台に登場させて躍らせた。」


少し位知識を持ったとてこれを宇宙の奥深いに比ぶればとても問題にならぬ程の小ささであるから、それは何等鼻にかけて誇るには足りないはずのものなんです。


花は黙っています。それだのに花は何故あんなに綺麗なのでしょう。何故あんなにも快く匂っているのでしょう。思いつかれた夕など窓辺に薫る一輪の百合の花をじっと抱きしめてやりたい様な思いにかられても、百合の花は黙っています。そして一寸も変らぬ清楚な姿で、ただじっと匂っているのです。


人生まれて酔生夢死ほどつまらないものはない。大いに努めよや、吾人! 生きがいあれや吾人!


草を褥に木の根を枕、花と恋して九十年

私は飯よりも女よりも好きなものは植物ですが、しかしその好きになった動機というものは実のところそこに何にもありません。つまり生まれながらに好きであったのです。


今では私と花との恋は、五十年以上になったが、それでもまだ醒めそうにない。

私は草木の栄枯盛衰を観て人生なるものを解し得たと自信している。

植物を愛することは、私にとって一つの宗教である。 


花に対すれば常に心が愉快でかつ美なる心情を感ずる。故に独りを楽しむ事が出来、あえて他によりすがる必要を感じない。故に仮りに世人から憎まれて一人ボッチになっても、決して寂寞を覚えない。実に植物の世界は私にとっての天国でありまた極楽でもある。


われら人間はまずわが生命を全うするのが社会に生存する第一義で、すなわち生命あってこそ人間に生まれ来し意義を全うし得るのである。


人間は足腰の立つ間は社会に役立つ有益な仕事をせねばならん天職を稟けている。それ故早く老い込んではオ仕舞だ。


わが姿たとえ翁と見ゆるとも 心はいつも花の真盛り

私は植物の愛人としてこの世に生まれ来たように感じます。あるいは草木の精かも知れんと自分で自分を疑います。

朝な夕なに草木を友に すればさびしいひまもない


「人間に思い遣りの心があれば天下は泰平で、喧嘩も無ければ戦争も起るまい。故に私は是非とも草木に愛を持つ事をわが国民に奨めたい。」


「雑草という草はない。」


(朝ドラで語られることがある植物への愛が、楽しみですね。)

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2023年04月11日

追悼・富岡多恵子さんの詩集より

師匠が富岡多恵子さんの初期の随筆集の装丁を担当していた。それまでは詩集しか読んでなかったが、「富岡多恵子って、いいよね」って、人柄とも作風とも取れる微妙な笑みを先生は浮かべてた。気になり読んでみたら、関東平野の作家には出来ない妙味に惹かれてしまった。


「水いらず」 富岡多恵子

あなたが紅茶をいれ

わたしがパンをやくであろう

そうしているうちに

ときたま夕方はやく

朱にそまる月の出などに気がついて

ときたまとぶらうひとなどがあっても

もうそれっきりここにはきやしない

わたしたちは戸をたて錠をおろし

紅茶をいれパンをやいて

いずれ

あなたがわたしを

わたしがあなたを

庭に埋める時があることについて

いつものように話しあい

いつものように食物をさがしにゆくだろう

あなたかわたしが

わたしかあなたを

庭に埋める時があって

のこるひとりが紅茶をすすりながら

そのときはじめて物語を拒否するだろう

あなたの自由も

馬鹿者のする話のようなものだった


『静物』 富岡 多恵子

きみの物語はおわった

ところできみはきょう

おやつになにを食べましたか

きみの母親はきのう云った

あたしゃもう死にたいよ

きみはきみの母親の手をとり

おもてへ出てどこともなく歩き

砂の色をした河を眺めたのである

河のある景色を眺めたのである

柳の木を泪の木と仏蘭西では云うのよ

といつかボナールの女は云った

きみはきのう云ったのだ

おっかさんはいつわたしを生んだのだ

きみの母親は云ったのだ

あたしゃ生きものは生まなかったよ

 (詩集「女友達」1964より)



『挨拶』 富岡 多恵子

みっともないから

きみは

喋ろうとしていた

おじさんは死ににいったし

おばさんは帰りみちに死ぬだろう

どこかへつれていってよ

きみはこのごろ

老人になりそこなうことが多かった

それできみはたんに

酒が思いっきりのめなかったのが心残りだと

シナの詩人のまねをして云った

 (詩集「女友達」1964より)


 富岡多恵子(1935-・大坂生れ)は元故・池田万寿夫夫人。小野十三郎に薫陶を受け、学校教師のかたわら1957年の第一詩集「巡礼」で鮮やかなデビューを飾り、室生犀星・西脇順三郎ら長老詩人たちからも高く評価される。次作「女友達」、長篇詩『物語の明くる日』1961で現代詩の第一線に立つが、小説家に転身。文学賞総なめの大家となるが、詩才を惜しむ人は多い。ガートルード・スタインの長篇小説「三人の女」も名訳として名高い。



『喋らないでわたしは聴いた』 富岡 多恵子

死にたくないにんげんたちはクルマに乗った

ひとりはあしたサンフランシスコへいく

ふたりは結婚した

かれらはホテルの部屋でシャワーをあび

かれらは死なないでまたやってきた

わたしは比喩および隠喩を

クルマにのせていない

わたしはよくほほえむようになり

わたしはさまざまな相談をうけた

わたしは形容詞および副詞

名詞および動詞

あらゆるパンクチュエイションを

よこにおいた

こいびとは枕詞を喋った

きみは草枕であります

このわたくしの

 (詩集「女友達」1964より)



わたしは老人に興味をもっていた。死というもののいいちばんちかくにすわっている存在としてわたしは興味をもった。この意味では、にんげんはぜんぶが老人であり、わたしもむかしから老人でありいまも老人であることはおもしろいことである。


この他に興味のあることといえば、わたし自身をおもしろがらせる詩にも興味があった。ところが自分がおもしろがらせる詩にも興味があった。ところが自分がおもしろがるものはたえず変っていった。言葉のもつ意味の感覚を哲学することも詩をつくる前の出来事としてはおもしろかった。他人のつくってくれた詩をまねることも手段としておもしろいときもあった。いま自分をよろこばせる詩がどういうものかわからない。そのまえに、わたしは自分をおもしろがらせるばくぜんとしたものがわからない。


空間のはしの方からにんげんの会話がきこえてくる。それはわたしがきくまえからつづいており、きくのをやめてもたぶんつづいた。にんげんの言葉のそういう無意味のとぎれとぎれで、わたしの昼間のまどろみをじゃまされるのをわたしは好む。


喋ることと喋らないことのあいだで、言葉の意味と無意味はずるがしこくいれかわる。この詩集をひとつのシンタックスとしてみると、それがかんぜんにひっくりかえっていない。だからきのうときょうのわたしは、詩からころげおちてうまくにげていったものでささえられる存在である。(富岡多恵子)

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2023年04月07日

ウォルター・スコットの言葉

「無為に過ごしたすべての年月を栄光の活動と高貴な危険に満ちた一時間と交換したい。」


「引っ込めることのできない所まで腕を伸ばすな 


「愛情はあらゆる暴力の嵐に耐え抜く力があるが、北極の氷のような長い無関心には耐えられない。」


「悦びのない人生は油のないランプである。」


「臆病でためらいがちな人間にとっては一切は不可能である。なぜなら一切が不可能なように見えるからだ。」


「休息が永すぎるとカビが生える。」


「成功、不成功はその人の能力よりも

精神的態度によるものが大きい。」


「疲労ののちの休息ほど楽しいものはない。

空腹ののちの食事ほど美味なものはない。

病気ののちの健康ほど愉快なものはない。

また、非常な困難を突破したのちの平和ほど幸福なものはない。」


「死は最後の眠りである。いや、それは最初の目覚めである」


「恐れを知って、しかもそれを恐れないものこそ、真の勇者である」


「自分のことしか考えぬ者よ、この世をむなしく生き命絶えた暁には汚れた土くれとなり果てて、挽歌を歌う者もなく 涙する者もなし」


「最良の教育とは人が自分自身に与える教育である。」


「時と潮流は人を待たない」


ウォルター・スコット【Walter Scott

作家・脚本・エッセイスト

イギリス・スコットランド生まれ

生年月日1771815 

没年月日1832921

Sir Walter Scott

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2023年04月06日

マンガ好き&読書好きに聞く「ドラマ・アニメ・映画」注目作品

BookLiveが運営する総合電子書籍ストア「ブックライブ」で、ブックライブの会員2597人から「2023年春のメディア化作品注目度」アンケートの結果を公表。


1位は『鬼滅の刃』で「週刊少年ジャンプ」2016年から2020年まで連載をされた人気コミック。2020年10月に劇場版「鬼滅の刃」無限列車編が上映、興行収入は400億円を突破して歴代興行収入第1位を記録、社会現象となった。


2位は青山剛昌の推理漫画『名探偵コナン』を原作としたアニメ作品。テレビ放送も長く続いている番組で、映画化もヒット上映がされてきた。


3位は高橋一生主演で映画化された『岸辺露伴は動かない』。『ジョジョの奇妙な冒険』第4部「ダイヤモンドは砕けない」登場する漫画家・岸辺露伴がマンガの取材のため訪れた先々で体験した奇妙なエピソードを集めた見聞録的作品。NHKにて特集ドラマとして実写化。映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」はフランス・パリでも撮影が行われた。


4位は夫婦のタブーに切り込んだ禁断の恋愛マンガ『あなたがしてくれなくても』。フジテレビ連ドラ初主演の奈緒をはじめ、豪華キャストが集結した実写ドラマ化が話題で4月より放送開始予定。


5位は『山田くんとLv999の恋をする』2023TVアニメ化された。彼氏がネトゲで知り合った女性と浮気して、別れを告げられてしまう女子大生の木之下茜。残ったのは彼氏との愛と共に育んでいたはずのキャラだけだった。


【春のメディア化注目度】1位〜10

1位 鬼滅の刃 [アニメ化]

2位 名探偵コナン [映画化]

3位 岸辺露伴は動かない [映画化]

4位 あなたがしてくれなくても [ドラマ化]

5位 山田くんとLv999の恋をする [アニメ化]

6位 【推しの子】 [映画化] 

7位 Dr.STONE [アニメ化] 

8位 ゴールデンカムイ [アニメ化]

9位 教場 [ドラマ化]

10位 魔法使いの嫁 [アニメ化]


■2023年春(46月)注目のおすすめメディア化作品 特集ページ

https://booklive.jp/feature/index/id/media

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