2024年10月18日

『エスキモーの民話』

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『エスキモーの民話』目次

第1部 困らされたクランベリー仲間―村の生活の物語
第2部 梟が羽を拡げて死ぬ理由と、物事の成り立ち
第3部 際限のない災難、際限のない彷徨い―トリックスターと文化英雄
第4部 強情なアオカケス―動物の物語
第5部 月に連れ去られる―シャーマンの物語
第6部 鞭打ちの精霊と十本足の北極熊―見慣れない、脅かす隣人たち
第7部 ウミスズメが「隠れ上手」を網にかけた日―狩りの物語
第8部 狼の花嫁、星の夫たち―あらゆる種類の結婚の物語


図案を眺めているだけで、わくわくと遠い世界へ跳べる。エスキモーのさまざまなな民話を、集めた図書。

満遍なく自然界に対して、深く付き合いが感じられる。ある種、人工的なものへの警告がされてるようである。

しばらく購入したのを忘れておりました。

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2024年09月04日

『死との約束』アガサ・クリスティ

『死との約束』アガサ・クリスティ

エルサレムを訪れたポアロが聞いたのは、「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃいけないんだよ」と男女の囁きだった。ヨルダンの古都ペトラを舞台に殺人事件が起こる。


第一部は殺人が起こるまで、第二部でその後の顛末が描かれる。ポアロが登場するのはプロローグと第二部だけである。


【あらすじ】

サラ・キングとジェラール医師の視点から、一家と被害者が紹介されて一家の行動について話し合われる。

ボイントン夫人は以前刑務所の所長の職業であった為か、サディスティックで支配的である。サラは彼女の息子レイモンド・ボイントンに惹かれ、ジェファーソン・コープは友人のナディーン・ボイントンを夫のレノックス・ボイントンや義母の影響から引き離したいのだ。

若い夫妻を自由にしたい願いを阻止されたサラは、ボイントン夫人に詰め寄るが、夫人は「私は、行動も名前も顔も、何も忘れたことはない。」と奇妙な脅しをかける。

一行がペトラに着くと、ボイントン夫人は家族を一時的に遠ざける。その後で彼女は手首に針を刺された死体で発見された。

ポアロは容疑者から話を聞くだけで、24時間以内に謎を解くと主張する。彼は聞き込みをしながらタイムラインを書いていくが、サラ・キングが推定した死亡時刻は、何人かの家族が被害者を最後に見た時刻よりもかなり前だった。注目されるのは、ジェラード医師のテントから盗まれ、後にすり替えられたと思われる注射器である。被害者に投与された毒はジギトキシンと思われ、彼女は生前に薬としてそれを服用していた。

ポアロは会議を招集し、家族それぞれがボイントン夫人の死を発見し、互いに他の家族を疑いながらも黙っていたと指摘する。しかし彼ら家族は彼女が服用していた薬を過剰摂取させることができたはずだから、わざわざ注射器で殺す必要はなかったはずだ。このことから、容疑者は部外者の一人に絞られる。

犯人はウエストホルム卿夫人で、彼女は結婚前、被害者がかつて所長を務めていた刑務所に収監されていたことが明らかになる。ボイントン夫人があの奇妙な脅しをかけたのは、サラに対してではなく、その後ろに立っていた彼女に対してだった。彼女は、ボイントン夫人が自分の犯罪歴を暴露し、政治家としてのキャリアを崩壊させることを恐れた。アラブ人の使用人に変装して殺人を犯し、アマベル・ピアスの暗示力に頼って、自分が殺人に関与したことを隠す2つのミスディレクションを仕掛けたのだ。隣室からポアロの話を盗み聞きしていたウェストホルム夫人は、自分の犯行が世間に明らかにされようとしていることを耳にし、持っていた拳銃で自殺する。ようやく自由の身となった一家は、幸せな生活を始める:サラはレイモンドと結婚、キャロルはジェファーソンと結婚、ジネヴラは舞台女優として成功し、ジェラード医師と結婚する。

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2024年08月28日

天才は天才をどう見ていたのか? 『百年の孤独』の作者ガルシア=マルケスを安部公房が語る 「一世紀に一人、二人というレベルの作家」

「文庫化されると世界が滅びる」と噂され、発売後も話題騒然の『百年の孤独』。
作者は魔術的リアリズムの旗手として数々の作家に多大な影響を与えたガルシア=マルケスだ。

 そのマルケスと『百年の孤独』について、日本のみならず海外でも高く評価される作家・安部公房が語った貴重な談話がある。
1982年、ノーベル文学賞を受賞したマルケスを、日本文学史に輝く天才作家は、どうみていたのか? 

 安部公房生誕100年を記念して、新潮社から8月28日に刊行される『死に急ぐ鯨たち・もぐら日記』に収録されたその談話「地球儀に住むガルシア・マルケス」を全文公開する。
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2024年07月28日

内田春菊さんの漫画

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「みなみくんがこいびと」がドラマになって。
Kindle Unlimitedで読んでみた。
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2024年07月15日

「光文社」古典新訳文庫のKindle版が50%オフセール実施中

「光文社」古典新訳文庫のKindle版が50%オフとなるセールを実施中。

新訳が好評な文庫の編集方針です。

https://l.smartnews.com/y16wG


光文社古典新訳文庫は古典と呼ばれる名作を、現代的で分かりやすい翻訳に改めたレーベルだ。また行間や文字サイズが大きめになっていて文字の圧迫感も和らげられているなど、難解そうに思える文学作品なども読みやすくなる工夫がされている。昔読んで挫折してしまった作品でも、訳が変わればかなり印象が変わるかもしれない。

https://news.yahoo.co.jp/articles/e2c44f7d4acedde9334901562c89795aa3568c1a

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2024年06月30日

『漫画主義』終刊号

「漫画はまだきちんと論じられたことがない」と石子順造さんの発案。

題字と表紙は赤瀬川原平さん。

美術や編集者からのマンガ分析は、斬新なことでした。マンガにも新しい表現メディアがあると、詳しく書かれたのは衝撃的でもありました。

表現として映画の絵コンテより、綿密な人間描写ができる世界。ある意味では小説より複雑なメディア表現も綿密にできるという可能性を『漫画主義』は語りました。

「マンガは良くない」って悪書扱いされてましたからね。文学性のあるマンガの分析は貴重でありました。

同人誌として毎号300部ほど発行されて、毎号購入しておりました。

https://www.yomiuri.co.jp/culture/book/20240626-OYT1T50170/

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2024年06月29日

『キング・タビー──ダブの創始者、そしてレゲエの中心にいた男』

世界中のレゲエ/ダブ・ファンを唸らせた、キング・タビーの伝記がついに翻訳。

ダブを発明し、サウンドシステムを更新し、そして1989年に自宅にて殺害された男、ポピュラー音楽の進化においても重要な人物、謎に包まれた彼の生涯がいま明らかになる。遺族が提供する未公開写真も多数あり。すべてのレゲエ/ダブ・ファンにとって必需品です。

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ダブの発明者の物語は、キングストンのウォーターハウス地区ではじまる。そしてキング・タビーは国外に出ることもなくウォーターハウス地区で生涯を終えている。ポピュラー音楽においてもっとも重要な革命を起こしながら、タビーのインタビューはほとんど残されていない。ちまたに溢れる「King Tubby」の文字の入ったレコードが本当に彼が手がけたものなのかどうかも怪しい。また、彼がいったい誰に殺害されたのかも依然としてわかっていない。フランスのレゲエ・ジャーナリストがダブの王様の謎に包まれた生涯を明らかにするため、なんどもジャマイカに足を運び、さまざまな証言からタビーの偉業(サウンドシステム、ダブ、エレクトロニクス)を明らかにする。キング・タビーの詳細なバイオグラフィーとストーリー、レアな写真やフライヤー等、貴重な情報が満載された決定本。


判型 四六判
ページ数 400(予定)
著者 ティボー・エレンガルト
訳者 鈴木孝弥


■Thibault Ehrengardt (
ティボー・エレンガルト)
フランスのレゲエ専門誌『ナッティ・ドレッド』の元編集長。現在は〈DREAD Editions〉の代表。ジャマイカには25回ほど訪れており、レゲエとジャマイカに関する本も数冊執筆している。


鈴木孝弥
訳書に『宇宙こそ帰る場所──新訳サン・ラー伝』、『だけど、誰がディジーのトランペットをひん曲げたんだ?ジャズ・エピソード傑作選』、『コンバ──オルタナティヴ・ライフスタイル・マニュアル』、『レゲエ・アンバサダーズ 現代のロッカーズ──進化するルーツ・ロック・レゲエ』、『セルジュ・ゲンズブール バンド・デシネで読むその人生と音楽と女たち』、『ボリス・ヴィアンのジャズ入門』ほか多数。

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2024年05月14日

東京人2024年6月号 特集「つげ義春と東京」画業70年

画業70年を迎える漫画家のつげ義春さん。立石、錦糸町、大塚、伊豆大島、そして1966年から現在まで約60年間暮らす調布――。つげさんの半生を振り返りながら、作品に描かれた東京。

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グラビア誌面をたっぷりレイアウトされた、記事や対談が優れております。

『ガロ』以外の作品を数年ぶりに読んで、発表当時に見逃していたコマや描写を心新たにしました。

特集記事はつげ義春マンガのガイドラインとしても、編集スタッフの熱意を感じられた。

【収録記事】

「座談会」くめども尽きぬマンガの泉

つげ忠男(漫画家)×佐野史郎(俳優)×高野慎三(編集者)

秘蔵写真! つげ忠男が撮った1968年の立石 


つげ義春の東京

立石「大場電気鍍金工業所」「少年」「やもり」「海へ」

錦糸町「池袋百点会」「隣りの女」

大塚「チーコ」「別離」

浅草「義男の青春」

伊豆大島「海へ」


調布 長嶋親子が歩く「無能の人」の舞台

長嶋有(小説家)×長嶋康郎(古道具「ニコニコ堂」店主)

▼1969-1973 つげ義春が撮った東京


「インタビュー&エッセイ」

村上もとか「紅い花」/よしながふみ「ほんやら洞のべんさん」/向井康介「別離」

水辺のほうへ 文・川本三郎

作品に息づく、在りし日の調布

多摩武蔵野の地形から読む

もっとつげ作品を知るキーワード

房総/赤線・青線/貸本/湯治場/写真/職人/夢/文学/ユーモア 

https://natalie.mu/comic/news/572125

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2024年04月29日

日本SF作家クラブが編纂するアンソロジー『地球へのSF』が5月22日にハヤカワ文庫JA刊行。

深刻化する気候変動と資源問題、相次ぐパンデミック、そして止むことのない紛争と戦乱。われわれ人類は、この惑星で生きていく資格があるのか? 気鋭のSF作家たちが、かけがえのない地球と、そこに存在する生命に提示する、22の可能性とメッセージ。はたして人類の未来はどこにあるのだろうか? 『ポストコロナのSF』『2084年のSF』『AIとSF』に続く、日本SF作家クラブ編の書き下ろしアンソロジー第4弾。

〈収録作品〉

新城カズマ「Rose Malade, Perle Malade
粕谷知世「独り歩く」
関元 聡「ワタリガラスの墓標」
琴柱 遥「フラワーガール北極へ行く」
笹原千波「夏睡」
津久井五月「クレオータ 時間軸上に拡張された保存則」
八島游舷「テラリフォーミング」
柴田勝家「一万年後のお楽しみ」
櫻木みわ「誕生日(アニヴェルセル)」
長谷川京「アネクメーネ」
上田早夕里「地球をめぐる祖母の回想、あるいは遺言」
小川一水「持ち出し許可」
吉上 亮「鮭はどこへ消えた?」
春暮康一「竜は災いに棲みつく」
伊野隆之「ソイルメイカーは歩みを止めない。」
矢野アロウ「砂を渡る男」
塩崎ツトム「安息日の主」
日高トモキチ「壺中天」
 譲治「我が谷は紅なりき」
空木春宵「バルトアンデルスの音楽」
 浩江「キング 《博物館惑星》余話」
円城 塔「独我地理学」

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2024年04月28日

筒井康隆〈妄想こそが想像力の根源〉

〈妄想こそが想像力の根源〉とは理解しても、実行する困難なことに普通の人はあきらめてしまう。

天才の文献とプロフィールは、斜めから読んでも凄い。普通人との差が明らかに違うのだ。

天才作家さん特集記事。「野性時代」20138月号を再び読む連休だった。


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エンタメではフレデリック・ブラウンやフリップKデックなどに影響されて、多次元宇宙のチャクラが開いたと推測される筒井康隆さんのSF小説。

しかし同じ図書を読書体験しても、天才的な作品は生まれてこない。

何故なら芽🌱がないからだ。残酷なんだけど、発芽するには芽がないと出ることはありません。

育成の現場では発芽する人と、そうでもない多くの若いひとたちがおりました。いくら努力しても達成されない世界もあるんです。 

はっきり言って狂ってる世界なんですが、人間に幸せを与える視点を持ってます。

そして天才の描いた作品鑑賞は大切。ある意味ではクズだと思われてる作品が、自分にとっては宝石以上の価値ある世界に思えたら、大切なことでしょう。

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2024年04月17日

『平野レミの自炊ごはん: せっかちなわたしが毎日作っている72品』(平野レミ 著 / ダイヤモンド社)


レミさんといえばユニークな料理名とルールに縛られない調理法。


食べればチンジャオロースー
失敗しない煮魚
れんこんと豚の楽チン煮
缶たんうめぇごはん
ほっぽりカレー肉うどん


広げた餃子の皮に肉だねを広げた「食べれば餃子」。
丸ごとキャベツをトマト缶やスープと煮た「ドッカーン!春キャベツ」。
初めてのテレビ出演で紹介すると「視聴者からおしかりの電話が来た」という逸話付き「秘伝・牛トマ」。


レミさんの料理の代表ともいえる、こうしたルール御無用、何にも縛られない料理は、どうやって生まれたのか。


小さい時から気短でせっかちだから、料理もパパッと作って、早く食べちゃいたい。だから一番早くできる方法を考えちゃうの。基礎を習ったことがないのが、私の場合はかえってよかったのかもね。
決まりごとを知らない分、イメージしたゴールに、いかに早くたどりつくかを素直にやるから。

料理のルールは、知らないなら知らないままでもいいんじゃないかな。
あれが食べたい、作ろう、できた、ごっくんしておいしい! 家族と食べるごはんなら、それでいいじゃない。
食べる人の舌がおいしいって言ってくれるなら、テレビとか本とか、よその人が決めたやり方と違っても、作る人が楽しくて、家族が喜んでくれるならOKでしょ。


「すいとりパスタ」は30年くらい前はダメって言われましたね。ひとつのフライパンで、茹でながらソースも一緒に作れちゃうのよって言ったんだけど、フライパンの中が粉くさくなるから、ちゃんと別茹でしてくださいって。


◇本書で生ピーマンで作るチンジャオロースーも紹介されている。
なぜ生なのかと訊くと、「青椒はピーマン、肉絲は肉。だからタケノコが入っていなくても、ピーマンを炒めなくても、チンジャオロースー。それにピーマン、生で食べるとおいしいし、肉と一緒に食べるともっとおいしい。大好きなの」という。

『平野レミの自炊ごはんせっかちなわたしが毎日作っている72品』(平野レミ  / ダイヤモンド社

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2024年03月08日

『破滅への二時間』ピーター・ジョージ

Two Hours To Doom

Peter Bryant 1958


全面核戦争でFail-Safeというシステムは、危機が訪れてみれば逆に障害となる現実。冷戦時代にキューバで起きた脅威が物語の背景となっている。地球破滅までのニ時間。


米国の戦略空軍基地。リッパー将軍の副官として赴任したマンドレイク英空軍大佐は、突然「 R 作戦」開始の命令を受けて愕然とする。ソ連攻撃に備えた緊急で最高の報復作戦「 R 」を下令する。基地は完全に封鎖されて厳戒体制がとられた。


哨戒飛行機の全機は通信回路が遮断されて、基地からの指令だけしか受けられない状態となった。50 メガトンの水爆を搭載したまま、ソ連内の第 1 目標に機首を向ける。



その直後に大佐は司令官がソ連に対する未知の黒い不安から、精神に異常をきたして、敵の攻撃もないのに独断で一連の処置をとったことを知ったが、すでに手遅れだった。


その頃国防省の最高作戦室では、大統領を中心に軍部首脳と政府高官が事態の処理を巡って激論を交わしていた。


「ここに二ダースほどの水爆があるとする。べつに爆弾の形でなくてもいいのだ。それを運ぶ飛行機も必要ない。この水爆のまわりをコバルトで包んで、適当な山脈地帯に埋めておくのだ。これをボタンで爆破できる。全部一度にだ。これが爆発したとして、全人類がどれくらい生き延びられると思うかね!」


これは米大統領の発言で、冷戦時代は現実にありえた出来事が配置されている。議長のタージッドソン将軍は時間の緊迫を訴えて、編隊の呼び戻しが不可能な以上は、全力をあげソ連に先制攻撃をかける以外に選択する道のないと説いた。


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しかし大統領はソ連大使に事情を説明、撃墜を要請した。水爆が落ちれば、全世界は死滅する。解体は不可能。さらに米国兵器開発局長官はソ連が極秘に進めた核兵器の存在すを証明した。


大統領の命令を受けたガーノ陸軍大佐指令下の部隊は、基地接収のため交戦中だった。やがて基地警備隊は降伏した、司令官は自殺、マンドレークは呼び返しの暗号を発見する。ミサイル攻撃を受けて、通信機に損傷を受けた、キング・コング少佐の機だけは目標へと正確に進撃していた。「この一線を越えたら、後戻りはできない」アメリカ大統領から取り消し命令が出ようと、爆撃機のメンバーが疑問を感じようと、そのラインを越えたら初期命令が遂行されてしまう限界点。水爆を積んだ爆撃機は着々と「フェイル・セイフ・ライン」に近づいている!

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「爆発後8週間から14週間で、北半球の全生物は死滅する。南半球は、その時期によって違うが、やや長期間生きのびられる。最小限5ヶ月から最大限10ヶ月の間だ。」


安全神話に頼り切る危険性を問う。作者は元イギリス空軍中尉で、B-52爆撃機のクルー達に対する軍人として献身的な働きと大量殺戮への葛藤、そして国や家族や故郷に対する想いを描いている。


どこまでもシリアスに核時代を、軍事現場から見つめる視点が印象に残る。原発事故のあった福島で育った自分には破滅する恐怖よりも、作者が本書を警報として、突き動かした人間に対する想いの深層へ気持ち入る。


Peter George

ピーター・ジョージ

『赤い警報』(邦題『破滅への二時間』)の作者、元イギリス空軍の中尉。ペンネームはピーター・ブライアント。『博士の異常な愛情』へ脚本参加しているが、盗作騒ぎまであった『未知への飛行』にもノンクレジットながら脚本参加していた。

1924326日イギリス・ウェールズ出身、196661日死去、映画公開の直後だった。

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2024年02月06日

『文学賞殺人事件』森村誠一

小高省吾と松江俊吉は同人誌〈潮流〉の投稿仲間だった。そして松江が千枚ほどの長編小説を書いて来た。地方銀行に勤務して小説はあくまで趣味で書いていたが、小高は小説家になるために〈潮流〉を主催していた。

「千枚だと同人誌で、発表するのは無理なので、どうしようかと迷っている」

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その長編小説は緊密な構成と、起伏に富むストーリー展開で素晴らしい原稿だった。小高は激しい嫉妬を覚えるほど興奮した。そして恒例の大手出版社が主催する、長編小説の新人文学賞の作品を募集していた。小高はその新人文学賞への応募を勧めるが、松江は万一にも自分の名前が出たりすれば、副業を禁止している銀行から、処罰を受けると拒んだ。そこで小高は自分の名前で出せばと唆す。すると自分の名前が絶対に出ないのを条件にして、小高に任せた。応募した小説が予選を通過して当選する。盛大な授賞式でスポットを浴びた小高は、満面の笑みを浮かべた。だが心配事で頭の中は一杯で、本作者が露見するのは勿論だが、大きな問題があった。受賞者は出版社から、次作を出版するのが慣例になっている。他の出版社からも依頼が殺到してるが、小高の小説では、余りにも劣り過ぎる。

思案の末に松江の力を借りることにした。それが正しくタイトルどおりの惨状を巻き起こすのだった。

男装の女性作家ジョルジュ・サンドが語った「私は自由である」扉が開けるのか? 

自殺の名所となる断崖へ、理想的な場所として、釣り好きの松江をおびき寄せるのだが。I'mFreeとなれるのだろうか?

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2024年01月19日

江戸川乱歩「こわいもの」

「少年時代、クモとおなじぐらいこわかったのはコオロギだった。黒いエンマコオロギではなく、それより大きくて、胴体にも足にも、茶色の縞があって、あと足が長くて、ピョンピョンと飛んで逃げる、あのコオロギなのだ。

 私の一番こわい夢は、このコオロギの夢であった。何度も同じ夢を見るので、夜寝るのがおそろしかった。

 そのころの私の家の庭は、いわゆる「坪の内」で、建物と塀とで四角に区切られた狹い庭であったが、夢で、私はこの庭に降り立っていた。

 空は昼でもなく、夜でもなく、夢にしかない、陰気な色をしていた。その空から、何かおそろしい速度で、私の真上に落ちて来るものがあった。はじめは点であったが、近づくにしたがって、一匹のコオロギとわかった。豆つぶほどのコオロギが、みるみる、大きくなり、アッと思うまに、それが四角な庭の空一杯の大きさになって、私の頭の上に、のしかかって来た。

 女の帯ほどの巾の茶色の縞が、そいつのからだ一杯に並んでいた。下から見えるのは、そのコオロギの腹部であった。一番いやらしい腹部であった。

 コオロギの足は、たしか六本だったと思うが、私にはもっと多く感じられた。その足が腹部の中心から生えて四方にひろがっている。腹部の足のつけ根のところは、茶色が薄くなって、異様に白っぽくなっていた。その薄白い足が、一カ所から、グジャグジャと四方に出ている部分が、私には形容もできないほど、おそろしいのだ。」


「大人になると、人くさくなって、少年の肌を失うが、それと同じように、こわいものがなくなるのは、少年の鋭敏な情緒を失うことで、私には少しもありがたくないのである。もっとこわがりたい。何でもない、人の笑うようなものに、もっとこわがりたい。」


『わが夢と真実』江戸川乱歩より

大正十五年から昭和三十二年にかけて雑誌、新聞、書籍に発表した随筆と書下ろしの原稿をまとめて、乱歩が自身をコラージュした随筆集で、昭和三十二年八月に東京創元社より刊行。

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2024年01月15日

『彼女は頭が悪いから』姫野カオルコ (文春文庫)

"浜辺美波が選んだ1冊は?「衝撃的な事件の背景にある真実から目を背けないために手にした一冊です」

https://l.smartnews.com/y7KwU


彼女は頭が悪いから (文春文庫)

私は東大生の将来をダメにした勘違い女なの?
深夜のマンションで起こった東大生5人による強制わいせつ事件。非難されたのはなぜか被害者の女子大生だった。
現実に起こった事件に着想を得た衝撃の書き下ろし「非さわやか100%青春小説」


横浜市郊外のごくふつうの家庭で育った神立美咲は女子大に進学する。渋谷区広尾の申し分のない環境で育った竹内つばさは、東京大学理科1類に進学した。横浜のオクフェスの夜、ふたりが出会い、ひと目で恋に落ちたはずだった。しかし、人々の妬み、劣等感、格差意識が交錯し、東大生5人によるおぞましい事件につながってゆく。
被害者の美咲がなぜ、「前途ある東大生より、バカ大学のおまえが逮捕されたほうが日本に有益」「この女、被害者がじゃなくて、自称被害者です。尻軽の勘違い女です」とまで、ネットで叩かれなければならなかったのか。
「わいせつ事件」の背景に隠された、学歴格差、スクールカースト、男女のコンプレックス、理系VS文系……。内なる日本人の差別意識をえぐり、とことん切なくて胸が苦しくなる「事実を越えた真実」。すべての東大関係者と、東大生や東大OBOGによって嫌な思いをした人々に。娘や息子を悲惨な事件から守りたいすべての保護者に。スクールカーストに苦しんだことがある人に。恋人ができなくて悩む女性と男性に。
この作品は彼女と彼らの物語であると同時に、私たちの物語です。


2019年に上野千鶴子さんの東大入学祝辞や様々な媒体で取り上げられた話題作が文庫で登場。

横浜市青葉区で三人きょうだいの長女として育ち、県立高校を経て中堅の女子大学に入った美咲と、渋谷区広尾の国家公務員宿舎で育ち東大に入ったつばさ。偶然に出会って恋に落ちた境遇の違う二人だったが、別の女の子へと気持ち が移ってしまったつばさは、大学の友人らが立ち上げたサークル「星座研究会」(いわゆるヤリサー)の飲み会に美咲を呼ぶ。そして酒を飲ませ、仲間と一緒に辱めるのだ。美咲が部屋から逃げ110番通報したことで事件が明るみに出る。 頭脳優秀でプライドが高い彼らにあったのは『東大ではない人間を馬鹿にしたい欲』だけだったのだ。さらに事件のニュースを知った人たちが、SNSで美咲を「東大生狙いの勘違い女」扱いするのだ。

読み手の無意識下にあるブランド意識、優越感や劣等感、学歴による序列や格差の実態をあぶり出し、自分は加害者と何が違うのだと問いかけ、気づきを促す社会派小説の傑作。


柴田錬三郎賞選考委員絶賛!

無知な若者を生み出した社会構造と、優越、業といった人間の醜さが、本作には鮮烈に描いてある。――伊集院静

どちらか一方を悪者に仕立て、もう一方を被害者に仕立てがちだが、本作はそんな単純な構図では描かれていない。――逢坂剛

女たちの憂鬱と絶望を、優れたフィクションで明確に表した才能と心意気は称賛されるべきである。――桐野夏生

テーマ性とメッセージ性の際立つ作品、批判をおそれず書かれた力作だ。――篠田節子

平成における最も重要な本の一冊だと私は考える。――林真理子


東大生5人に暴行されたのは勘違い女だったのか。 小説『彼女は頭が悪いから』が私たちに突きつけるもの

https://www.huffingtonpost.jp/2018/09/27/takayuki-kiyota-article_a_23543203/


「突然『ぼく東大なんですけど、なんで傍聴に来たんですか?』『ぼく東大なんですけど、ここ静かですね』と何度も話しかけられたので、あなたのことを何とお呼びすればいいですかと訊ねたら、『ぼく東大なんで』と去っていきました。これまで東大生だと言えばそれで通ってきたんだろうなと、漠然と、いつかこの事件を小説にするとしたら、彼のように『ぼく東大』で生きてきた人のことを書こうと思いました」

 

<姫野カオルコインタビュー> 彼女はなぜ、非難されたのか? 『彼女は頭が悪いから』 

https://books.bunshun.jp/articles/-/4394


姫野カオルコ

姫野嘉兵衛。1958年滋賀県出身。97年『受難』(文春文庫)が第一一七回直木賞候補、04年『ツ、イ、ラ、ク』(角川文庫)が第一三〇回直木賞候補、06年『ハルカ・エイティ』(文春文庫)が第一三四回直木賞候補、10年『リアル・シンデレラ』(光文社文庫)が第一四三回直木賞候補になった。

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2024年01月08日

線香の煙が ひーや ふーや みーや

 「一かけ 二かけ 三かけて」

一かけ 二かけ 三かけて 四かけて

五かけて 六かけて

橋の欄干腰を掛け 遥かかなたを眺むれば

十七、八のねぇさんが

片手に花持ち線香持ち

ねぇさん ねぇさん どこ行くの

わたしは九州鹿児島の 西郷隆盛娘です

明治十年三月三日

切腹なされた父上の お墓参りに参ります

お墓の前で手を合わせ

南無阿弥陀仏と唱えれば

線香の煙が ひーや ふーや みーや

      よーや いーや むーや

      なーや こーや

      とうとう一献つきました

(津名郡一宮町の数歌)


「えべっさん 大黒さん」

 えべっさん 大黒さん

 一に俵ふんばって 二ににっこり笑ろうて

 三に酒つくって 四つ世の中よいように

 五ついつものごとくに 六つ無病息災に

 七つ何事もないように 八つ屋敷を広げて

 九つここに家建てて 十でとうとう納まった

(加古川市の数歌)


○ えべっさん 大黒さん

 一に俵ふんまえて 二ににっこり笑ろうて

 三に盃さし上げて 四つ世の中よいように

 五つ出雲の大社

 ...... 九つこころに倉建てて ...

(加西市の数歌)


阪神文化圏の数え歌は、味わい深い世界を築いております。

ミステリーなどのプロットにも脚色できそうな歌ですね。

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2023年12月29日

詩人岩田宏さんの世界

「神田神保町」岩田宏


神保町の

交差点の北五百メートル

五十二段の階段を

二十五歳の失業者が

思い出の重みにひかれて

ゆるゆる降りて行く

風はタバコの火の粉をとばし

いちどきにオーバーの襟を焼く

風や恋の思い出に目がくらみ

手をひろげて失業者はつぶやく

ここ 九段まで見えるこの石段で

魔法を待ちわび 魔法はこわれた

あのひとはこなごなにころげおち

街いっぱいに散らばったかけらを調べに

おれは降りて行く


神保町の

事務所の二階の

曇りガラスのなかで

四十五歳の社長が

五十四歳の高利貸と

せわしなく話している

電話がしぶきを上げるたびに

番茶はいっそう水くさくなり

ふたりはたがいに腹をさぐって

茶よりも黄色い胃液を飲みほす

やがてどちらも辟易したとき

平気をよそおい社長がささやく

教えて下さい クビ切りの秘訣を

苦労しますよ 組合の軛にゃ

国へ帰って栗でも喰いたい

あこぎなあきない などと答える高利貸

あんたが飽きたらあたしもあがったり

あきらめるならあっさり足を洗って

あしたまた当てるさ


神保町の

横町の昼やすみ

二十人の従業員が

二つしかないラケットで

バドミントンをやっている

羽根はとんびのように飛びあがり

みんな腕組みして目玉だけ動かす

とんびも知らない雲だらけの空から

ボーナスみたいにすくない陽の光が

ぼろぼろこぼれてふりかかる

縄でくくった本の束の

背よりも高い山のかげから

草そっくりの少女がすりぬけてくる

ほそい指でまぶしい光をはじきとばし

ふらっとわらってハンケチを洗う

アルミニュームの箱のなかの

しろいおこめとくろいつくだに

神保町の

ラジオがどなる

つまり夫を殺しつつ

おっとり妻を叩きつつ


神保町の

交差点のたそがれに

頸までおぼれて

二十五歳の若い失業者の

目がおもむろに見えなくなる

やさしい人はおしなべてうつむき

信じる人は魔法使のさびしい目つき

おれはこの街をこわしたいと思い

こわれたのはあの人の心だった

あのひとのからだを抱きしめて

この街を抱きしめたつもりだった

五十二ヵ月昔なら

あのひとは聖橋から一ツ橋まで

巨大なからだを横たえていたのに

頸のうしろで茶色のレコードが廻りだす

あんなにのろく

あんなに涙声

知ってる ありゃあ死んだ女の声だ

ふりむけば

誰も見えやしねえんだ。

(詩集『いやな唄』より)


「「知ってる ありゃあ死んだ女の声だ/ふりむけば/誰も見えやしねえんだ。」(「神田神保町」)岩田さんには会えなくなってしまったけれど、岩田宏の詩がある限り岩田宏は死にやしねえんだ」(平田俊子)。鋭く研ぎこまれた憤怒と、遊びごころをはらんだ天性のリズム。音韻的技法を縦横に駆使して現実と渉りあう、詩人岩田宏の沸騰する言葉たち。新選現代詩文庫を新装増補。詩集未収録詩篇などを新たに収める。解説=谷川俊太郎、鈴木志郎康、八木忠栄


「あさ八時/ゆうべの夢が」
五七調のリズムが歯切れ良くて心地よい
「無理なむすめ むだな麦/こすい心と凍えた恋/四角なしきたり 海のウニ」


<昭森社の社屋に、社屋といっても畳数にしたら六枚か七枚ほどの板の間に、板の間といってもはげちょこの板の間に、昭森社とユリイカと思潮社と日本に於ける三大詩書出版社が、夫々一つ位ずつの机を並べていたのは、一種の摩訶不思議であった。少し大袈裟に云えば世界中にこんなところは恐らく何処にもないだろうと思う。ないに違いない。云わば日本現代詩書出版のルツボの感があった。あのすすぼけた階段を、殊に戦後の優秀な詩人たちの、どれだけのスリッパや素足があがったりさがったりしたことか、数えきれまい。もういまとなっては日本詩史の博物館みたいなものだ。>(草野心平「最後の頃の森谷均」、「本の手帖」別冊「森谷均追悼文集」1970年5月)


<ユリイカの伊達得夫も死んだ。昭森社の森谷均も死んだ。小田久郎は思潮社を引き連れて水道橋に移っていった。いまあの神田村の詩壇王国には、おそらくなにも残っていないだろう。だが、私には見えるような気がする。いまもなお、無名の詩人たちのために、原稿の字句をひとつひとつ数えながら、こつこつと詩集をつくっている神田村の村長、そして和製のバルザック、森谷均の後姿がはっきりと見えるような気がする。>

木原孝一の「戦後詩物語」


『那珂太郎さんを偲ぶ会』が果てて、高柳誠と鈴木一民さんと、神保町を歩いた。このミロンガの2階に、那珂太郎の盟友、伊達得夫の書肆ユリイカの事務所があった。

「狭い急な階段を上がってガラス戸をあけると、八畳ほどの板敷きの事務所の四隅に事務机が置かれ、そのひとつひとつが別々の出版社の事務所なのであった。」(大岡信)

森谷均のやっていた昭森社のビルの2階、その机の一つが書肆ユリイカのだったわけだ。「神保町の路地裏、木造2階建ての昭森社ビル。13段の急な階段を上がった2階のわずか10坪ほどの空間で、書肆ユリイカは昭森社、思潮社と同居しながら独 自の世界を創出していた。ここで伊達得夫は、13年の年月の間に二百数十冊もの奔放自在な造本表現を展開したのだ。美しい書物を作ることは容易ではなく、 四苦八苦する出版社がほとんどだが、書肆ユリイカの本には、そうした背景を感じさせない軽やかさがある。」(田中栞『書肆ユリイカの本』より)


小田久郎『戦後詩壇私史』(新潮社、一九九五年)によれば、小田氏は戦後すぐに乾元社に入り『文章倶楽部』という投稿雑誌の編集を始めるが、乾元社の倒産とともに雑誌は牧野書店に移り、その倒産を受けて独立した。昭森社のビルに机を得たのが一九五六年、『文章倶楽部』を『文章クラブ』と改題して発行を続け、さらに『世代』(世代社、一九五八年六月改題)、『現代詩手帖』(思潮社)へと発展させていった。


昭森社

1935年森谷均が創設。森谷均(1897年6月2日−1969年3月29日)は岡山県出身。中央大学商学部卒。1934年斎藤昌三の書物展望社に入り、35年東京京橋で昭森社を創業。詩集、美術書など良書を出版。戦後神田神保町に移り、46−49年総合雑誌『思潮』、61−87年『本の手帖』を刊行。森谷のあとは大村達子が継いだが、91年ころ廃業。


  

「なぜハンガリイの」岩田宏

なぜハンガリイの音楽をきくとかなしくなるのだ

ぼくは切った スイッチを

すぐにラジオは黒くなり

部屋が明るくなる

朝の

カーテンと

風と

水道の音

昨夜(ゆうべ)は

きみのぬぎすてたきもののように

終った ぼくがスイッチを入れれば

もういちどハンガリイの音楽がはじまり

昨夜がいちめんに立ちこめるだろう

残酷に

ぼくは切る

ぼくがつながるのは

ゆうべぼくらが倒れた地面のように

つづくもの 遠くに見えるけやきのように

つづきながら始まるもの 花籠の花のように

つづきながら終るもの

もう一つのもの

ベッドに

眠る

きみの白い乳房

きみのやわらかいからだ

(詩集『独裁』より)



詩「なぜハンガリーの」は、このハンガリー動乱の起こった1956年に刊行された岩田宏の第1詩集『独裁』の中におさめられています。ロシア語に堪能で、ソ連や東側諸国のの情勢に関心をもっていた岩田だけに、「なぜハンガリイの音楽をきくとかなしくなるのだ」といった書き出しからも、こうしたハンガリーの争乱を予兆的にとらえていたことがうかがえます。


岩田宏(1932−2014、小笠原豊樹)は、北海道生まれ。東京外国語大学ロシア語科中退。学生時代に『マヤコフスキー詩集』(1952)を訳し、その詩を媒介として日本語の詩の世界へと入って行きました。1955年から東京神田神保町にある青木書店に勤務、その翌年に出したのが『独裁』です。

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2023年12月05日

田中 小実昌『幻の女─ミステリ短篇傑作選』(ちくま文庫)

1960年代から70年代に執筆された“異色”過ぎる物語15編が初の文庫化となる。

「ミステリ作家田中小実昌」の軌跡を追った日下三蔵による詳細な解説も収録。

予測不能の結末、設定や形式、登場人物までが奇妙かつ巧妙に組み上げられた作品群。


【内容紹介】

戦後の新宿でテキ屋の子分をやってたころに考えたストーリーという「たたけよさらば」。

新宿マーケットの酒場で呑んでいると、停電になる。この停電ないと成り立たないのだが、毎晩のように消える。天国とこの世を行き来して、自分を殺した犯人を探す。かつて天国と地獄の間にあった煉獄は、今はなくなっているという。

昔馴染みの女おシズを、狂おしい独白する「幻の女」の異様なテンションぶり。おシズのことを寄って集って、フェイクションにしたて上げるのは、何か訳がありそうだ。

せまい飲み屋のトイレに入った男が消えてしまう「えーおかえりはどちら」。おばけにもてる男の「動機は不明」。身体一部だけ幽霊となって現れる「部分品のユーレイ」など、軽妙な与太話のようで昭和の香りがたつ。


【収録作品】

たたけよさらば

幻の女

タイムマシンの罰

えーおかえりはどちら

犯人はいつも被害者だ

洋パン・ハニーの最期

海は眠らない

ベッド・ランプ殺人事件

先払いのユーレイ

悪夢がおわった

氷の時計

C面のあるレコード

動機は不明

11PM殺人事件

部分品のユーレイ


「桃源社」から1973年刊行されていた短篇集『幻の女』を骨格にして、日下三蔵が文庫本として編纂を加えたミステリー短篇傑作選である。


田中小実昌[タナカコミマサ]
1925年東京生まれ。東京大学文学部哲学科中退。バーテン、香具師などの職を転々とする。J.H.チェイス、R.チャンドラー、C.ブラウンの名訳で知られる。1979年「浪曲師朝日丸の話」「ミミのこと」で第81回直木賞、同年『ポロポロ』で第15回谷崎潤一郎賞を受賞した。2000年2月アメリカで客死。

日下三蔵[クサカサンゾウ]
1968年神奈川県生まれ。SF・ミステリ評論家、アンソロジスト。

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2023年11月23日

【全巻無料】『ブラック・ジャック』が期間限定で読み放題。『ヤング ブラック・ジャック』などのスピンオフ作品も対象に。無料期間は11月23日まで

 秋田書店、少年チャンピオン・コミックスより発売されている手塚治虫氏による名作漫画『ブラック・ジャック』とその関連スピンオフ作品が、Amazon.co.jpのKindleをはじめとした各種電子書籍サイトにて、全巻期間限定で読み放題となるキャンペーンが開催中。

実施期間:2023/11/22 0:00-2023/11/23 23:59
対象作品:
 手塚治虫『ブラック・ジャック』(少年チャンピオン・コミックス) 1-25巻
 手塚治虫 / 田畑由秋 / 大熊ゆうご『ヤング ブラック・ジャック』1-16巻
 宮崎克 / 吉本浩二『ブラック・ジャック創作秘話 手塚治虫の仕事場から』1-5巻
 手塚治虫 / 藤澤勇希 / sanorin『Dr.キリコ〜白い死神〜』1-5巻
 以上4作品、全部で51冊
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2023年11月20日

「安乗の稚児」伊良子 清白

「安乗の稚児」伊良子 清白


志摩の果て安乗小村

早手風 岩をどよもし

柳道木々を根こじて

虚空飛ぶ断れの細葉


水底の泥を逆上げ

かきにごす海の病

そゝり立つ波の大鋸

過げとこそ船をまつらめ 


とある家に飯蒸かへり

男もあらず女も出で行きて 

稚児ひとり小籠に坐り

ほゝゑみて海に対へり


荒壁の小家一村

反響する心と心

稚児ひとり恐怖をしらず

ほゝゑみて海に対へり


いみじくも貴き景色

今もなほ胸にぞ跳る

少くして人と行きたる 

志摩のはて安乗の小村 

 

(岩波文庫『孔雀船』より)


伊良子 清白

八上郡曳田村(現在の鳥取市河原町曳田)に生まれる。本名暉造(てるぞう)京都府立医学校を卒業後より生涯医療に専念したが、明治27年(1894年)頃から詩作を始め、雑誌『文庫』を中心に活躍。河井酔茗(1874年〜1965年)、横瀬夜雨(1878年〜1934年)と並び"文庫の三羽烏"と称される。

1906年(明治39年)に『孔雀船(くじゃくふね)』を出版後、詩作を絶つ。医師としての仕事のため全国各地を転々としたことから、"漂泊の詩人"とも呼ばれた。

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