2021年10月19日

欲望を耕すのをやめれば

装置をはずした舞台にまだ

二つ三つ星がころがっているからといって

睫毛の塵を星雲とこころえることもあるまい

みずからの美貌にみとれた神に

むかしの台詞を思い出させるなどは

どんな賢い人にもできなかったことだ

欲望を耕すのをやめれば

髪の毛はひとりでにしずかに枯れてくる

神は捨てもしないし拾いもしない

これという今がないので

時間はみみずに似てくる

あやしげな足場の上で

人は未完の背景を描くのに疲れた

(多田智満子「疲れ」)

posted by koinu at 01:20| 東京 ☁| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする