2021年08月19日

「茶屋の娘」洪邁『夷堅志』より

「茶屋の娘」

 都には石という姓の平民が茶屋を開き、幼い娘に客のお茶を注がせた。

ある時に乞食が来て、気がふれたように衣服は垢だらけのまま茶を飲もうする。石家の娘は礼儀正しく乞食をもてなし、御茶代を要求しなかった。

一カ月余りが過ぎると、石家の娘は毎日好いお茶を選んで、乞食をねんごろにもてなした。娘の父親はこれを見ると怒って、乞食を追い払い娘を叩いた。この娘は大して気にすることもなく、却って乞食に対して忠実に仕えた。数日後に乞食はまた来ると、娘に対していった。

「あなたは私が飲み残したお茶を飲む勇気がありますか?」

 娘はお茶が不潔なのを嫌がり、少しばかり地べたに零した。すると思いがけずとてもよい香りが漂った。それで娘はすぐに残りのお茶を飲むと、気分が爽やかになり、力が湧いた。

「私は呂翁と申します。あなたは私が差し上げたお茶を全部飲み干すことはできなかった。だがあなたの願いを満足させるでしょう。富貴或いは長寿はどちらか叶うでしょう」

貧しい家の娘であったので、富貴がどんな意味か分からなかったが、ただ長寿を願うだけで、財物は足りていた。乞食が去った後、娘は状況を彼女の父母に教えた。彼女の父母は驚き喜んで、再び乞食を探しに行ったが、乞食の行方はすでに見当たらなかった。

それから娘が大きくなって、ある管営指揮使の所へ嫁ぐと、呉国の燕王の孫娘の乳母になり、称号を授かった。彼女の母乳で育った燕王の孫娘は、高遵約に嫁いで康国サマルカンドの大奥様となった。石家の娘の寿命は百二十歳だった。

 (洪邁『夷堅志』第十四話より)

posted by koinu at 09:00| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする