現在と過去、生と死、光と闇…。冬のヴェネツィァを舞台に繰り広げられるいくつもの印象深いエピソードを、ロシアの亡命作家が詩的に綴る。ノーベル文学賞受賞作家の小説を初公開した話題作。
本書は、アメリカ亡命後の72年から17年の間、ほとんど毎年のようにヴェネツィアを訪れた詩人の、ヴェネツィア滞在の印象記。彫琢された、美しい文章の、散文詩のような51の断章からなる。ヴェネツィアの水と光をモチーフに、多くの隠喩やアフォリズムを織り込んだフーガのような作品。ノーベル賞受賞作家の小説、本邦初紹介。
ブロツキーが、彫琢された文章の美しさでヴェネツィア滞在の印象を綴る。ヴェネツィアの水と光をモチーフに、多くの隠喩やアフォリズムを織り込んだ遁走曲のような作品。小説としても充分楽しめる一冊。
ヨシフ・ブロツキー
Иосиф Александрович Бродский/Iosif Aleksandrovich Brodskiy
(1940―1996)
詩人。レニングラード(現サンクト・ペテルブルグ)生まれのユダヤ系ロシア人。15歳で学校を中退、以後独学でいくつかの外国語を学び、1958年から詩を書き始めた。作品のほとんどは地下出版の形で流布されていたが、64年「社会的寄食者」として逮捕され、一時アルハンゲリスク地方に追放された。72年出国を強制され、ウィーン、ロンドンに滞在後、アメリカに渡り、77年市民権を取得。ジョン・ダン、エリオットなどに傾倒し、野卑な口語の要素を取り入れながらも、それが「形而上学的」なものにまで高められている。題材を古典古代、聖書などにとりながらも、つねにそれは現在と重ね合わされた。詩集に『長詩と短詩』(1965)、『美しい時期の終り』(1977)など。87年ノーベル文学賞受賞、91年アメリカの桂冠(けいかん)詩人に叙せられた。
『ブロツキー著、沼野充義訳『大理石』(1991・白水社)』▽『ブロツキー著、金関寿夫訳『ヴェネツィア・水の迷宮の夢』(1996・集英社)』▽『ブロツキー著、沼野充義訳『私人――ノーベル賞受賞講演』(1996・群像社)』▽『ブロツキー著、たなかあきみつ訳『ローマ悲歌』(1999・群像社)』