ああ、明日にでも行こう、あの島へ そしてあそこに小屋を立てよう。 壁は泥土、屋根は草葺きでいい 豆の畑は畝を九つ、蜂蜜用の巣はひとつ その蜂たちの羽音のなかで独り暮そう。
ああ、あそこなら、いつかは心も安らぐだろう 安らぎはきっと、ゆっくりとくるだろう 水の滴りのように、また 朝靄から洩れてくる虫の音のように。 そして夜は深く更けても微明るくて 真昼は目もくらむ光にみちて 夕暮れには胸赤き鳥たちの群れ舞うところ。
ああ、明日にでもあの島へゆこう なぜならいまの僕には、いつも 昼も夜も、あの湖の水の 岸にやさしくくだける音が聞こえるからだ。 車道を走っていようと 汚れた歩道に立っていようといつも あの水の音がいつも 心の奥底のほうに聞こえるからだ。 W・B・イエーツ『イエーツ詩集』加島祥造=訳編(思潮社)より
この詩を書いた背景を作者は述べていて、加島祥造が訳している。
〈ロンドンに来てもまだ私はあの憧れの心を捨てきれずにいた。その憧れとは、アイルランドのスライゴーにいた十代の少年期に抱いたもので、あのころの私はアメリカのソローを真似て、ギル湖にあるイニスフリーという島で一人で暮らしたいとよく思ったものだ。で、ロンドンのあの忙しいフリート街を歩いていた時も非常に故郷を恋しく思う気持ちになっていた。ふと、ある店のウインドウのなかに小さな噴水を見た・・・・吹きだす水の上に小さな玉がのっていて、小さな水音とともにそれは水の上で跳ねていた。その水音を聞いて私は湖の水を思った。この刹那の追憶から私のあの詩「イニスフリー」が書かれたのだ。〉
ウィリアム・バトラー・イエーツ(1865-1939) William Butler Yeats
posted by koinu at 12:38| 東京 ☁|
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