2021年02月13日

『偶然世界』フィリップ・K.ディック

近未来世界では生産過剰で消費が追い付かないので、クイズや籤引きでポトラッチ風の浪費が定常的に行われていた。無級者と有級者に区別されて、有級者はヒルシステムに所属していて、パワーカードを持って無くすと無級者になる。コンピュータ管理する社会で、計算された偶然が起こるようになっていた。パワーカード持ち主の中からクイズマスターがランダムに選ばれて、社会の統治者として全権を握っている。そして対抗者や前クイズマスターなどが選ぶ、刺客の挑戦を受けなければならない。

元クイズマスターのリース・ベリックは刺客の挑戦を退けて、例外的に長命な権力をもっていた。それはテレパス集団の支援を受けているからで、そのティープは人の思念を読み取り、次の行動を把握して、阻止する能力をもっている。

システムが作動して、現クイズマスターは失脚する。宗教集団のリーダーであるレオン・カートライトが次のクイズマスターに選ばれると、リース・クラッグは刺客としてキース・ペリッグを選び、カートライトに向かわせる。


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あるヒルシステムに所属していた生化学者テッド・ベントリイは、突然に失業する。この巨大な組織の生活に飽き飽きしていたので、リース・ベリックを訪ねて誓約を結んだのだ。カートライトへの刺客にベントリイを利用する目論見だった。

人間がクイズマスターに近づくとき、周囲のティープが即座に刺客を発見し排除してしまうので、合成人間に29人?のオペレータの思念をランダムに刷り込んで、人格の統一性がないようにして、ティープのテレパス能力の裏を書こうとした。

ベントリイはオペレータのひとりとなる。カートライトの宗教集団は無級者のなかの志願者を募って、冥王星の外にある第十惑星への冒険旅行を計画していた。

地球のゲームとクイズと暗殺の統治システムから外れたのが、「自由」な社会の構築を目指した。そこに近づいたとき、惑星の方から地球人は生存可能範囲から出てくるなと異星人の声を聴く。

合成人間キース・ペリッグがカートライトのいる建物へ攻撃、カートライトとティープの逃亡。ダンジョンの奥に到着した合成人間が敵を発見できず、宇宙船の機能を持って月へ飛んで行く。ベントリイが罠から逃れて、ルナでカートライトとべリックの壮絶なコンゲームとなる。

第十惑星で宇宙船が発見され、後半に物語のスピードはすさまじい。大状況のスペクタクルもある一方で、キャラたちの愛憎のもつれも加わって、デックの世界には馴染みとなる合成人間、人格転移、自己同一性の喪失、宇宙的な意志と交流する宗教、人間を罰する巨大で交通不可能な意志、因果律が解体して偶然が支配する社会、消費過多のまま停滞した社会、思い通りに動かない機械、シミュラクラ、テレパス、コミュニケーション不能、自由への渇望、自然の喪失、人造の食べ物やペット、理由不明に追われる主人公、若い女性への憧憬、失業と失恋、家族の解体など入り乱れる。

〔『太陽クイズ』改題〕◇米1955(Philip K. Dick) 


【原題】「SOLAR LOTTERY(アメリカ版)。「WORLD OF CHANCE(イギリス版)。ディック自身がつけた原稿時点の題名は「QUIZMASTER TAKE ALL」。

【邦訳本】ハヤカワ文庫SF 241 小尾芙佐


ハリウッド映画の傑作を10作品観たくらいの充実した空想力が堪能されます。長編テーマとひとつ取り出して、十分に展開していった偶然世界が横たわる。ディックの素晴らしい処女作と評されている原点作品。

ハヤカワ文庫SF電子書籍Kindleで、手軽に読める時代となりましたね。

posted by koinu at 15:00| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする