2020年12月16日

古代ギリシャ磁気学の始まり

 磁石からの流出物は、鉄の通孔を覆っている空気を押しのけて、それらを塞いでいる空気を動かす。一方、その空気がその場を離れたとき、いっしょに流れ出す流出物のあとに鉄がついてゆく。そして、その鉄からの流出物が磁石の通孔まで運ばれると、それらの流出物がそれらの通孔に対応して適合するがゆえに、鉄もいっしょにそれらの流出物のあとについて運ばれる。
 磁力にたいするミクロ機械論にもとづく説明の知られているかぎりでの最初のものである。いや、磁力にたいしてだけではない。「エンペドクレスはすべての感覚について同様の仕方で語り、個別の感覚の通孔にたいして、何かが適合することによって感覚が成立すると言っている」とも伝えられている。

 すべて延性をもっもの(金属)は、ものによって多い少ないの差はあるが、本性的に自分から何らかの「水分」を放出するとともに、外部から引き入れる。だがもっと多く放出するのは銅と鉄であり、このことを証示するのは、それらが火に入れられると何かが焼かれ、それらから消え去るということ、そしてまた酢やオリーブ油を塗られると錆がつくということである。というのも酢がそれらから「水分」を吸い取るためにそのような変容が生じるのである。一−さて鉄は水分を吸い込み、さらに多くを放出するが、磁石は鉄よりも粗目(空疎)で土性が強いので、そばにある空気からもっと多くの水分を吸い込んだり放出したりする。その場合、磁石は本性上親近な水分はこれを吸って自分のなかに受け入れ、親近でない水分は押し出す。鉄は磁石と親近であり、それゆえ磁石は鉄からの水分を吸い込み、自己の内に受容する。そしてその水分の吸い込みゆえに、すなわち鉄の内部に含まれる水分を一挙に吸い寄せるために、鉄をもまた自分に引き寄せるのだが、しかし鉄は磁石からの水分を一挙に受け入れられるほどに粗目(空疎)ではないので、鉄が磁石を引き寄せるということまでは起らない。
(へアレクサンドロス)

 磁石と鉄の引力が相互的ではないという言明、および「流出物」が「水分」となっていることをのぞいて、概略はエンペドクレスの説明原理と変わらない。磁石と鉄の間の力の「非相互性」の説明に成功しているか否かはともかく、磁力の機械論的な説明のひとつの典型である。
posted by koinu at 15:10| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする