2020年09月08日

『ロアルド・ダールの幽霊物語』(ハヤカワ・ミステリ文庫)

《幽霊物語の目的はぞっとさせることにある。読者をぞくぞくさせ、不安な気持にさせなければならない》

TVシリーズ企画のために原作となる幽霊物語を選定するロアルド・ダールは、このような基準を設けた。

そして基準を厳格に守りながら、古今の作品を読みついでいった。諸々の事情で企画そのものは中止となったが、ダールの手もとには、14篇の宝石が残った。


有名無名を問わず、本物の幽霊物語だけが放つ妖しい光。闇の向こうの恐怖が、あなたの安眠をさまたげずにはおかない。


そしてアンソロジー選者ダール氏いわく、「女性には長編小説を書く才能がある。また、超自然的なものを書く異常な才能がある」


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【収録作品】

 1 LP・ハートリー「WS

 2 ローズマリー・ティンバリー「ハリー」

 3 シンシア・アスキス「街角の店」

 4 EF・ベンスン「地下鉄にて」

 5 ローズマリー・ティンバリー「クリスマスの出会い」

 6 ヨナス・リー「エリアスとドラウグ」

 7 AM・バレイジ「遊び相手」

 8 ロバート・エイクマン「鳴りひびく鐘の町」

 9 メアリ・トリーゴールド「電話」

10 J・シェリダン・レ・ファニュ「手の幽霊」

11 E-プライベート・X「落葉を掃く人」

12 イーディス・ウォートン「あとにならないと」

13 リチャード・ミドルトン「ブライトン街道にて」

14 F・マリオン・クロフォード「上段寝台」


【あらすじ】

□ WSLP・ハートリー

小説家に絵葉書を送りつけるWSという謎の人物。やがて描いた作中人物かららしきと思われたて、絵葉書の場所は近づいてくる。


「ハリー」ローズマリー・ティンパリー

養女クリスの見えない友達「ハリー」。幼い子にはよくあると思っていた母親だったが、次第に少年の影が見えるようになってくる。

「ここは死んでない死人のいるところ,生きてないけど生きている人間のいるとこだ。わたしゃ生きとるんだろうか,それとも死んどるんだろうか? 教えておくれよ。わたしにゃわからないんだ」(本書「ハリー」より)

そうしたごく普通のものが、わたしはこわい。日なた。芝生の上のくっきりした人影。白いバラ。赤毛の子供。そして名前……ハリー。ごく普通にある名前の過去にあるものは?


「街角の店」シンシア・アスキス

訪れた姉妹の経営する居心地のいい骨董屋。だが二度目に訪れたときに、奇妙な老人が店番をして、いまひとつ「乗れない」感じである。骨董店の主人は不正に富を得たと思い込んでおり、その償いに成仏してもらうことを考えるのだが。


「地下鉄にて」EF・ベンスン

人生を楽しむ楽天的なアンソニーから「現実がいかに非現実か」という話を聞き、そして不思議な体験をする。アンソニーが地下鉄で見かけた幽霊が、ついに訪れるまでの経過。目撃した飛び込み自殺は、死者からのメッセージによれば、未来の出来事なのだろうか。


「クリスマスの出会い」ローズマリー・ティンパリー

下宿先で中年女性がクリスマスの思い出に浸っていると、見知らぬ青年が部屋に入ってくる。自分の部屋と間違えたといい、しばらく会話を交わしていたがいつの間にかいなくなってしまう。残された彼女は部屋に備え付けられている一冊の本を手に取りページをめくると、時空を超えた邂逅があった。


「エリアスとドラウグ」ヨナス・リー

ノルウェーの漁師の迷信をベースにした民話譚。アザラシの姿をしたドラウグに傷を負わせた漁師が、家族とともに乗り込んだ船で船出する。暴風とともに姿を変えてドラウグは、漁師の死の予告に現れる。そして漁師の目の前で妻や子供が次々と波にさらわれていくのだった。


「遊び相手」AM・バレイジ

引き取った孤児モニカは屋敷の中に遊び相手がいるという。彼らが住む家はもと女学校。そこで病死した女学生の霊が娘と父を慰めるという、映画『シックス・センス』を想わせるゴーストストーリー。


「鳴り響く鐘の町」ロバート・エイクマン

新婚旅行で訪れた海辺の小さな町。そこでは街中の教会の鐘が鳴り響いており死者の踊りに取り込まれた新妻にどのような変化が訪れたのか? 


「電話」メアリ・トリーゴールド

略奪婚。その電話は前の奥さんからかかってきた。死んだはずなのに


「手の幽霊」J・シェリダン・レ・ファニュ

かわら屋敷に住むことになったプロッサー夫婦。曰くありげな古い洋館で起こる幽霊譚。「手」だけを見せる幽霊の視覚的イメージが独特。


「落葉を掃く人」Ex-プライベート・XAM・バレイジ)

頑固な老婦人ミス・ランゲイトには、乞食に惜しみなく食べ物や金を施す習慣がある。「夜中に聞こえる落ち葉を掃く音」、道のこっち端まで掃いたら、あんたを迎えにくるぜと言い残して死んだ乞食。昼間聞けば平凡すぎるほどの音に、不気味さが増す。「なぜミス・ランゲイトは無条件に乞食に施しを与えるのか?」


「あとにならないと」イーディス・ウォートン

彼が幽霊だとわかっていたら、そこまでは案内などしなかったのに。


「ブライトン街道にて」リチャード・ミドルトン

今朝死んだはずの少年に会ったホームレス。ユーモラスな掌編。


「上段寝台」F・マリオン・クロフォード

大西洋を渡る奇譚。その船室のその上段に寝た者は、海に飛び込むと船医から忠告される。不信な事故が重なり、船長もその船室を封鎖したいと思う不気味な正体、それを主人公と確かめて巨体と「白鯨」よろしく、肉弾と戰慄のなかで格闘することになる海洋怪談。

(ロアルド・ダール、 翻訳/ 信一郎 ・早川書房)


アメリカTV番組にはならなかった、ロアルド・ダール企画は、パイロットフィルムの物語素材が点検されていればと残念に思う。イギリス人とアメリカ人の宗教意識や社会モラルが、「恐怖」というTVテーマでは破談となってしまった。だがロアルド・ダールの熱心に時間かけて選択された『幽霊物語』は、ミステリファンでもない自分でも充分に楽しめた。

現在の日本を舞台に脚色して、テレビドラマになるストーリー要素が大半であった。このように丹念に古くから描かれた、幽霊の世界は国境や時代を超えて行くだろう。

posted by koinu at 10:04| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする