2020年05月25日

「エミリーの薔薇」フォークナー


古い屋敷の中でエミリー・グリアソンは30歳を過ぎた頃から亡くなるまで過ごした。約40年間に人付き合いもなく、時代に取り残された彼女が亡くなった時、町に住む人々は、謎に包まれた彼女の半生を改めて好奇心を抱く。

《彼女の家の内部は、すくなくとも過去十年間、庭師兼料理人の老僕をのぞけば、だれ一人見たものがいなかったのだ。》(p. 68)

エミリーの過去を断片的に遡る。税金も払わずに、郵便物の受け取りも拒否して、一人で世間の流れを拒絶して生き続けた心の闇が、少しずつ明るみに出てくる。

亡くなる10年前に、彼女の家の一室が埃だらけで掃除が行き届いていない、また屋敷から放たれる「異臭」に周囲の住民たちが堪りかねて苦情を申し入れたという過去が続く

悲劇の結晶となる異臭の正体とは何だったのか。その秘密はばらばらに散っていた時間が再び現在に戻って明かされる。

事態を水面下で解決すべく、町の男たちが夜中に屋敷敷地内に入って、消臭のための石灰をまいた。

《いままで暗かった窓の一つが明るくなり、灯りを背にしたミス・エミリーのすわった姿が窓枠にくっきりとうかびあがり、彼女のそり身の胴体は偶像のそれのごとく不動にかまえていた》(p. 74)

彼女が肖像画に描かれた大昔の人物のように映ったのか、この時点で彼女はまだ30代半ばくらいで、幽霊ではないのに背筋がぞくっとなる。

『フォークナー短編集』 龍口直太郎 訳 (新潮文庫)

posted by koinu at 19:35| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする