2020年05月01日

『はりきりスピード娘』城戸禮

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雑誌「女学生の友」に連載された物語の単行本化。護身術にたけて、オートバイを乗りまわす鮎子が主役の活発女子もの。爽快なスピード感は、のちに三四郎シリーズに開花される。

〔浪速書房〕昭和34 刊行320

〔春陽文庫〕昭和39刊行240頁二段組


『はりきりスピード娘』

      1

「おはよう、パパ。ジミー号の調子はどうなの?」
 朝日のようやく当たりはじめた縁例から、庭先でバラの手入れをしている、父の藤井庄兵衛に鮎子が声をかけた。
 「ああ、おはよう。そうだな、ジミー号よりひばり号のほうがいいと思うが、松吉に聞いてごらん。掃除してるはずだからね」
 ふり向いて父がいう。この庄兵衛はとても早起きで、午前四時少し過ぎると、さっさと寝床を離れ、工場を見まわって、それから趣味のバラの手入れをはじめるのだった。
 「あら、チビ松がもう起きてるの。危ないもんね。そうじしながら居眠りしてるんじゃないん」
 「おお、そうだっけな、それでオートバイがいるんだね」
 鮎子は1日おきに、鹿島道場に早朝稽古に行く。そこは星道の道場だが、道場主の鹿島先生が護身術の名人で、それを習いに通うのである。
 
「そうよ。パパご自慢の自家用車がないと、学校に間に合わないんですもんね」
 道場には午前六時に着き、それから二時間ほど汗みずくで稽古をして、学校に飛んでいくので、自家用車、つまりオートバイでないと、遅刻してしまうからであった。
 「熱心だね、ずいぶん。だが夢中になると、勉強にさしつかえるから、いいかげんにするんだよ」
 「ダイジョービよ。いくら上手くなっても、パパを投げたりしないわ。ホッホホ」
 「べソを抱えて、さながらリスのようにかかしら」
 鮎子がいたずらっぽく笑った。
 年齢は15で、ここから7、8キロ離れた桜が丘中学の三年生だが、すらりとした背に、かわいい顔だちをしていて、その名のとおり、まるでアユのように元気がよく、学校じゅうの人気者であった。
 「わからんぞ。松吉はまったくよく寝る。黙っていたら、2日ぐらい平気だからね。ハッハッハ」
 鮎子の母は三年まえになくなり、現在は父親と少年工の松吉と、それに家事手伝いのおキンばあさんの四人で、父親の経営するオートバイ製作工場の裏てにある、六部屋ほどの家に住んでいるのだった。

 「冗談じゃないぞ、あの子に投げられたら、わしは壊れてしまう。わしが作るオートバイほど、頑丈じゃないからな。」
 庄兵衛は苦笑した。生まれっき体が弱かったのを心配して、小学校一年のときから、鮎子に一回身術を習わせはじめたら、不思議にメキメキ丈夫になり、背もだんだんと伸び、いまや学校の女生徒たちの中ではいちばん大きい。技のほうも驚くほど上達して、鮎子がやるつもりなら、父親など軽く投げ飛ばされてしまう。いや父親だけでなく、100人近くいる工場の人たちの中の、力自慢の若者たちでも、うっかりすると逆手、逆手ととられて降参するほどであったからだった。
(豪快アルバイト学生より)

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『はりきりスピード娘』 
   目  次
豪快アルバイト学生
すごい離れわざ
悪者のだくらみ
美少女の怒り
たいへん小僧
怪力の用心棒
娘てんぐと小てんぐ
ね ら う 大 男
びっくり早わざ
快男児の逆襲
怪物ゴリラ男の出現
乗りこむオオカミの巣 
電光早わざ娘
あやうし正義のふたり
さっそう! 美少女と快男児

城戸きどれい 1909東京都生まれ。貸本小説のベストセラー作家。昭和30年の「大学三四郎」を皮切りに、快男児三四郎を主人公とした人気シリーズを数々発表。貸本小説の「明朗」ものといわれるジャンルのベースができあがる。

posted by koinu at 12:00| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする