2020年04月12日

芸術と科学的法則

 大ていの場合、詩人たちはすぐれた詩句を作る際に自分たちがそれに従っている科学的法則を知らないといってよい。韻律法に関しては、彼らは最も素朴な経験主義だけで満足しているが、それはもっともなことである。そんなことではいけないといって詩人たちを咎めることは、いやしくも頭のいい人間のするべきことではあるまい。
  恋愛においてと同じく芸術においても、本能だけで充分なので、科学はうるさい光をもたらすのみである。美は幾何学に依存しているとはいえ、美のデリケートな形の数々を捉えることはただ感情によってのみ可能なのである。

 詩人たちは幸福である。彼らの力の分け前は彼らのほかならぬ無知にある。ただ、彼らが彼らの芸術の諸法則についてあまり激しくあげつらうことがあってはならない。
  彼らはそうすることによって彼らの無邪気さとともに彼らの優雅さを失い、水の外に引き上げられた魚のように、実りなき理論の領域でむなしくじたばたすることになるのが落ちである。

『エピクロスの園』アナトール・フランス(岩波文庫)芸術と科学的法則より
posted by koinu at 14:00| 東京 ☁| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする