2020年04月04日

「言葉のダシのとりかた」

「言葉のダシのとりかた」長田 弘       


かつおぶしじゃない。

まず言葉をえらぶ。

太くてよく乾いた言葉をえらぶ。 


はじめに言葉の表面の

カビをたわしでさっぱりと落とす。


血合いの黒い部分から、

言葉を正しく削ってゆく。

言葉が透きとおってくるまで削る。


つぎに意味をえらぶ。

厚みのある意味をえらぶ。


鍋に水を入れて強火にかけて、

意味をゆっくりと沈める。

意味を浮きあがらせないようにして

沸騰寸前サッと掬いとる。


それから削った言葉を入れる。

言葉が鍋のなかで踊りだし、 

言葉のアクがぶくぶく浮いてきたら

掬ってすくって捨てる。


鍋が言葉もろともワッと沸きあがってきたら

火を止めて、あとは

黙って言葉を漉しとるのだ。 


言葉の澄んだ奥行きだけがのこるだろう。

それが言葉の一番ダシだ。

言葉の本当の味だ。


だが、まちがえてはいけない。

他人の言葉はダシにはつかえない。

いつでも自分の言葉をつかわねばならない。


おさだひろし

19392015 昭和後期-平成時代の詩人,評論家。

昭和141110日生まれ。早大在学中同人誌「鳥」を創刊,「地球」「現代詩」などにくわわる。昭和40年やわらかくなじみやすい表現によって,けんめいに明日への希望をつむぐ詩集「われら新鮮な旅人」,詩論集「抒情の変革」を発表。57年「私の二十世紀書店」で毎日出版文化賞,詩集「心の中にもっている問題」で平成2年富田砕花賞,3年路傍の石文学賞。21年「幸いなるかな本を読む人」で詩歌文学館賞。22年詩集「世界はうつくしいと」で三好達治賞。26年「奇跡―ミラクル―」で毎日芸術賞。ほかに「死者の贈り物」「深呼吸の必要」,評論「探究としての詩」,エッセイ「本を愛しなさい」など。平成2753日死去。75歳。福島県出身。

posted by koinu at 14:00| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする