2020年04月04日

佐藤鬼房の俳句

【佐藤鬼房の俳句】

いつまでも在る病人の寒卵

ながあめの祖國の異國下痢はやる

ねむれぬ夜端々ひかる梅の枝

ぼろぼろの雲の夕燒基地海岸

みちのくは底知れぬ国大熊生く

やませ来るいたちのやうにしなやかに

七五三妊婦もつとも美しき

下北の首のあたりの炎暑かな

切株があり愚直の斧があり

友ら護岸の岩組む午前スターリン死す

吾在りて泛ぶ薄氷聲なき野

地吹雪や王国はわが胸の中に

夏も末の島波薄き雜誌手に

夏季鬪爭ぱつちり黒い瞳の少女

奢りながき夕燒透いて不作の田

子雀に朝燒さめて光さす

孤兒たちに清潔な夜の鰯雲

寒夜の川逆流れ滿ち夫婦の刻

寒夜子へ歸る溝川も光もつ

寒明けの山肌を剥ぎ岩きざむ

平和は一つあげし男の子に麥穂だつ

平和遠し春の蟆子をば咳きてはく

怒りの詩沼は氷りて厚さ増す

春蘭に木もれ陽斯かる愛もあり

朝の日ざし栗毛の仔犬凍れる樹

根雪掘る二十代經し妻の背よ

油じむ肘のつよさも氷雨中

港灣にくそまり雪をつのらしむ

滾る銀河よ眞實獄へ想ひ馳す

父の方へかけくる童女花了ふ樹

生きて食ふ一粒の飯美しき

立ち尿る農婦が育て麥青し

綾取の橋が崩れる雪催

縄とびの寒暮傷みし馬車通る

肩で押す貨車に冬曉朱の一圓

藍いろの火がきつとある桜の夜

誰か死に工場地帶萌えきざす

赤沼に嫁ぎて梨を売りゐたり

逆立つ世棕梠は花つけ赤兒睡る

陰になる麦尊けれ青山河

露けさの千里を走りたく思ふ

年へ愛なき冬木日曇る

麥のたしかな大地子の背丈

鳥帰る無辺の光追ひながら

黙々生きて曉の深雪に顔を捺す


佐藤鬼房 (さとう-おにふさ)

19192002 昭和-平成時代の俳人。

大正8320日生まれ。「句と評論」に投句。戦後は西東三鬼に師事して社会性俳句で注目される。

「天狼」同人をへて昭和60年宮城県塩竈市で「小熊座」を創刊主宰。平成2年「半跏坐(はんかざ)」で詩歌文学館賞,5年「瀬頭」で蛇笏(だこつ)賞。

平成14119日死去。82歳。岩手県出身。本名は喜太郎。

posted by koinu at 09:00| 東京 ☁| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする