2020年02月21日

『葡萄酒の魂』ボードレール

ある晩、葡萄酒の魂が壜の中で歌っていた。

《人間よ、君に届けと歌い上げよう、おお親愛な廃嫡の子よ、

赤い封蝋にとざされた私のガラスの牢獄の中で、

光と友愛にみちた 一つの歌を!


わかっているとも、焔と燃える丘の上に、どれほどの

苦労と、汗と、灼けるような太陽がなければ

私のいのちを生み出して 魂を吹きこむことができないか。

でも私は恩知らずでも悪者でもないつもりだよ。


なぜって 私は大喜びで落ちこんで行くからさ

つらい仕事に疲れ果てた男の咽喉の中へ、

その男の熱い胸が居心地のいい墓となるんだ

冷たい地下の穴倉にいるよりもよっぽど気持がいい。


聞こえるかね 私の脈打つ胸の中にこだましている

日曜日の歌のルフラン 希望のさえずり。

肘をテーブルについて 両袖をたくし上げて、

君は私をほめたたえ いい御機嫌になるだろう。


君の奥さんもうっとりと目を輝かすようにしてあげる。

息子さんには力と元気な顔色をよみがえらせて

人生の競技に向かう このかよわい選手のために

レスラーの筋肉を引き締める油ともなってあげる。


では君の中へと落ちて行こうか、植物性の不死の食べ物、

永遠の「種まく人」が投げ落す貴重な種だぞ、

こうすれば われらの愛の結ぶところに詩が生まれ出て

神に向かって珍しい花に伸び上がるのだ!》


『悪の華』安藤元雄訳(集英社)より

posted by koinu at 21:00| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする