2020年01月19日

アープレーイユス『黄金の驢馬』呉 茂一, 国原 吉之助翻訳 (岩波文庫)

 唯一完全な形で伝わるローマ時代のラテン語小説。梟に化けるつもりが驢馬になってしまい、おかげで浮世の辛酸をしこたま嘗める主人公。作者の皮肉な視点や批評意識も感じられ、社会の裏面が容赦なく描き出されており、2世紀の作品ながら読んでいて飽きさせない。挿話「クピードーとプシューケーの物語」はとりわけ名高い。

 テッサリアで或る屋敷に泊まることになった青年ルキウス。館主の妻は魔法使いで、梟に化けて空を飛び回わる。侍女となじみになって、ルキウスは変身を企てた。だが、になるはずが驢馬(ロバ)になってしまった。そこへ押し入り強盗がやってきて、驢馬の姿になったままルキウスは連れて行かれて長いヘンテコな冒険の旅となるのだった。


 魔法の窓を開けられない間抜けな愚者として、面白可笑しく描かれるロバの様は現代ドラマと寸分変わらないか、それ以上に滑稽である。


 ソークラテースの首を外側に向けかえ、左のあぎとへ剣をずっぷりと柄までも突っ込むと、噴き出る血潮をていねいに小さい水袋をあてがって、ひとしずくも外へ洩れないように受けとりましたが、これを私は自分の眼で見ていたのです。…御親切なメロエーは、右の手を奥深く傷口から内臓までさし込み、私の哀れな部屋友達の心臓を探りまわして引きずりだした。(23ページ)


 こう頼み込まれて、予言者は一つの小さな薬草をとって死骸の口にあてがい、もう一つをその胸に置きました。それから…。するとそのうち胸がふくれてもちあがる、今度は脈が生き生きと打ちめぐり出す、見る見る死んだむくろに生気がみちわたってくる。とうとう屍は起き上がって…。(83ページ)

(岩波文庫)2013年刊行


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 寓話の要素が巧みに織りなされるエピソードが、予想外の結末に満ちている。愚者の行為をネタにした機智ある語り部。それらの伏線が見事にに回収される展開は、爽快な切れ味を感じる推理ドラマの王道を想う。


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posted by koinu at 13:00| 東京 🌁| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする