2019年11月22日

『シカゴ・ブルース』The Fabulous Clipjoint (1947 アメリカ) ; 作/フレドリック・ブラウン; 訳/青田勝; 出版/創元推理文庫

1947年に出版された作家フレドリックブラウンによる最初の長編小説。パルプ雑誌に短編執筆して技術を磨き、本書でMWA最優秀処女長編賞を受賞。

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印刷見習工エドの父・ウォレス・ハンターは、その夜、家に帰らなかった。不安を抱えながらエドは帰りを待つ。

翌朝アパートを訪れた警官によって、不安は絶望へと変えられた。ウォレスは何者かに横丁で殴りつけられ、財布を奪われて死体になった。大都市シカゴでは新聞の社会面の片隅にも載らないような、ありふれた事件。

父親の死の衝撃から立ち直れないエドは、カーニヴァルの芸人として自由に生きる伯父アンブローズを訪ねた。世故に長けた、その力を借りるため、――父を殺した犯人を突き止めるために!

亡き父の足跡をたどるうちに、エドは父のまったく知らなかった一面を知るようになる。謹厳実直な父の意外な顔の数々。そしてそのことが、エドを本当の意味での大人に変えていくのだ――。

シカゴのホテルの12階から街を眺めているエド・ハンターと伯父アンブローズ――。

「ぼくたちは、開いた窓から、暑さでうだってる下の街路を見下ろした。彼(伯父)はいった。『……そこの下のほうにあるものは、みんななにかに見えるだろう? 形をそなえた物体で、一つ一つのかたまりは、隣のかたまりとべつべつになっていて、そのあいだには空気があるとね。

ところがそうじゃない。あれはぐるぐるまわっている原子がごちゃごちゃ集まってるだけなのだ。しかもその原子どもは、やはり電気を帯びてぐるぐるまわっている核と電子でできてるにすぎない。

結局そこに見えるものは、無にひとしいようなものが、めちゃくちゃにたくさん集まってるだけなのだ。ここまでが空気で、そこから先はビルディングだという明確な線などありゃしない。人間が、あると思ってるだけだ。原子と原子の離れ方がすこしちがうだけのことだ。

ごらん、あそこにクラーク街を歩いてるやつがある。あの男だってなにも特別なものじゃない。彼も踊りまわってる原子どもの一部にすぎない。足の下の歩道やまわりの空気といっしょに混じっているのだ。」

――ぼくは口の中に生のウイスキーの強い味わいを感じながら、そこにすわっていた。だが酒のことを考えていたわけじゃない。考えていたのはパパのことだ。パパは死んで、ぼくはもう二度と会えないんだ。そう思うと、ぼくは突然、声をあげて泣き出した。それはウイスキーのせいじゃない。

それは自分の身体の中で、なにものかが爆発したのだ。

ウイスキーの酔いが触媒の役割を果たし、心を解放することがある。アンブローズ伯父は長い長い人生経験のどこかで、そのことを学んだのだろう。

「エド、それで気分が晴れるぞ。一度はそうなるんだ。太鼓の皮みたいに張りつめていたからな。やっと人間らしい顔付きになった」

アンブローズはホテルの最上階にあるカクテル・バーに連れてくる。すごくきれいだが、低俗なキャバレーだな、というと笑いかける。

「でっかい低俗なキャバレーさ、エド。ここじゃどんな気違いじみたことでも起こりうるのだ。それのみんながみんな悪いことばかりとはいえないがね」

どんなことでも起こりうる、でっかい低俗なキャバレー(原題the fabulous clipjointはここから来た言葉)とは、波乱に満ちた人生の縮図。この伯父によって目を開かされて、進むべき道を見出す。低俗な酒場で突然人生の意味を知る物語。

The Fabulous Clipjoint (Fredric Brown) ゴ・ブルース

 (創元推理文庫 146-15 )

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《エド・ハンターシリーズ》

「シカゴブルース」1947、「三人の小人」1948、「月夜の狼」1949

Compliments of a Fiend1950、「死にいたる火星人の扉」1951、「消された男」1959、「パパが殺される!」1963


この〈エド・ハンター〉シリーズ未訳作が数年前に翻訳出版されてた。『Compliments of a Fiend・アンブローズ蒐集家』フレドリック・ブラウン著/圭初幸恵訳。なかなか良い仕事となっております。

私立探偵エド・ハンターの伯父が消息を絶った。救出に向かうエドを待ち受ける話。才能ある作家からは、時を過ぎても学ぶことが多い。


フレドリック・ブラウン(Fredric William Brown19061029 - 1972311日)アメリカ合衆国オハイオ州シンシナティ生まれの小説家、SF作家、推理作家。

シンシナティ大学夜間部やハノーヴァー大学を中退した後、旅巡業カーニバルなどで働き、さまざまな職業を体験する。新聞社や雑誌社で校正係の仕事をしながら、1936年頃より創作活動を開始。パルプマガジンへミステリやSFの中短編を数多く書いた。47年に『シカゴ・ブルース』でMWA最優秀処女長編賞を受賞し、以降、年一作に近いペースで新作長編を発表している。SF作家としても卓抜しており、代表的な作品に『発狂した宇宙』(49)や『火星人ゴーホーム』(55)、『73光年の妖怪』(61)がある。

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posted by koinu at 09:49| 東京 ☁| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする