2019年08月22日

『黒い手帳』久生十蘭(青空文庫)

「黒いモロッコ皮の表紙をつけた一冊の手帳が薄命なようすで机の上に載っている。一輪しの水仙がその上に影を落している。一見、変哲もないこの古手帳の中には、ある男の不敵な研究の全過程が書きつけられてある。それはほとんど象徴的ともいえるほどの富を彼にもたらすはずであったが、その男は一昨日舗石を血に染めて窮迫と孤独のうちに一生を終えた。」
(『黒い手帳』より引用)

この物語は冒頭の文からすると、ルーレットの必勝法を編み出した男がその秘密のために殺される単純な話に思われます。しかしその結末は意外にも……。金銭欲、愛情、罪悪感、絶望、哀れみ……人々の感情の変化が見事に書き出された物語。

『黒い手帳』久生十蘭「新青年」1937(昭和12)年1月号
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久生十蘭 (ヒサオジュウラン)

1902年〜1957年。北海道函館市生まれ。本名・阿部正雄。岸田国士に師事して渡仏。レンズ光学と演劇論を学ぶ。帰国後は雑誌『新青年』などで活躍。主な作品に直木賞受賞作「鈴木主水」、国際短篇小説コンクール一席入選作「母子像」、「魔都」「顎十郎捕物帳」「キャラコさん」等がある。

posted by koinu at 06:48| 東京 🌁| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする