2019年07月26日

宇井無愁『きつね馬』ユーモア小説

(アルス ユーモア文學選書)昭和二十一年八月三十日發行。

表題作のほか五つの短篇『お狸さん』『太った犬』『救世主降誕』『約束』『お孃さん大賣出し』を収録、令和元年にはないユーモアのセンスが溢れている。作者名「宇井無愁」は「うい・むしゅう」と読み、「Oui、monsieur ・ウィ、ムシュー」とは人をくったペンネームである。

成瀬巳喜男監督した『旅役者』の原作者である。その『旅役者』は表題作の『きつね馬』を脚色した喜劇映画。『きつね馬』は『オール讀物』(昭和十四年五月号)に掲載され、第九回直木賞候補となる。

他の短編『お孃さん大賣出し』の主人公は「商大出身の秀才で、傳統的な船場商法を打破して、率先『科學的經營法』を斷行した、罐詰界の新人である」。


殊に當今は宣傳の世の中、宣傳費を惜しむのはつまらないことだ。(p.144)

商品の宣傳にも心理的階梯をつけた。

一.商品の存在を認識せしめる。

二.商品の効用、價値を會得せしめる。

三.その効用・價値が他品を凌駕するものである點を覺らしめる。

四.そこで一歩を進めて、この品が唯一無上であると思ひこませる。(p.145)


…というノウハウにもとづいて長女を「賣出し」、彼女のお婿さん探しに必死になっている。ときおり作者が顔を出すというのもおもしろい。


[さてこれから先は、いろんな人がいろんな形式で小説に書いてゐるやうな段取りに運び、やがてめでたしめでたしになると思つて差支へなささうだから、お目出度い話はこれで「終(をはり)」にしよう。](p.158)


『約束』「作者附記」

げに「事實は小説よりも奇なり」と謂ふべきであらう。茲(ここ)に到つてわれらごとき淺才の戲作者は、事實の前にたゞ忸怩として、つひに筆を擲(なげう)つのほかはないのである。(p.112)


宇井無愁  1909−1992 昭和時代の小説家。
明治42年3月10日大阪生まれ。大阪新聞記者などをつとめる。昭和13年「ねずみ娘」でサンデー毎日大衆文芸賞。15年「きつね馬」が第1回ユーモア賞を受賞,以後ユーモア小説作家の道をあゆむ。平成4年10月19日死去。83歳。

本名は宮本鉱一郎。

著作「日本人の笑い」「落語のふるさと」「ジェット娘」「ヌードのお嬢さん」「パチンコ人生」「生きるってすばらしい (8) 語ること演ずること 」「生活の中の笑い―現代に生きる江戸小咄」などがある。

posted by koinu at 17:00| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする