2019年05月19日

映画の中で権力を風刺したら批判される自体が芸術文化の未熟さを露呈

日本が侵略の危機に立たされる様を描いた映画『空母いぶき』(キノフィルムズ)。内閣総理大臣役を演じた俳優・佐藤浩市の発言から、映画公開前に炎上騒動に発展する。


かわぐちかいじ漫画原作に若松節朗監督が実写化。護衛艦「いぶき」艦長・秋津竜太を西島秀俊、副長・新波歳也を佐々木蔵之介が演じて、佐藤は未曾有の危機に直面する内閣総理大臣・垂水慶一郎役にキャスティング。

https://youtu.be/1OIRuCw8dFU


「ビッグコミック」(小学館)誌上インタビューで、初の総理大臣役に佐藤は、「最初は絶対やりたくないと思いました(笑)。いわゆる体制側の立場を演じることに対する抵抗感が、まだ僕らの世代の役者には残ってるんですね」と云う。劇中で漢方ドリンクを持ち歩いているのに「彼はストレスに弱くて、すぐにお腹を下してしまうっていう設定にしてもらったんです」と語った。 

(雑誌「ビッグコミック」2019年5月10日号より)

http://petitwings.com/archives/6871


この発言に批判が続出して、作家の百田尚樹氏はツイッターで「三流役者が、えらそうに!! 何がぼくらの世代では、だ。人殺しの役も、変態の役も、見事に演じるのが役者だろうが!」と怒りを表した。「『空母いぶき』原作は素晴らしい! しかし映画化では中国軍が謎の国に変えられているらしい。それだけでも不快だったのに、『下痢する弱い首相にしてくれ』という一役者の要求に、脚本をそう変えたと聞いて、もう絶対に観ないときめた」。


 またジャーナリストの有本香氏は、「役を受けておいて、他人の持病(しかも難病)を揶揄し脚本書き換えさせて『反体制』した気になるなんて激しくカッコ悪い」とツイート。幻冬舎の見城徹社長もツイッターで、「最初から首相を貶める政治的な目的で首相役を演じている映画など観たくもない」と批判をしている。インターネット上でも、「どんな思想を持とうと勝手だが、難病を揶揄するのは人として最低」「いい歳の俳優が『反権力の俺カッコいい』と思っているなら、最初から断ればよかったのに」などの声が続出した。


https://lite-ra.com/2019/05/post-4711.html


映画評論家の清水節は「軍事シミュレーションとして緊迫度満点。この国を愛する者なら、劇場に足を運んでから賛否を述べればいい」とツイート。映画ファンからも「発言だけを切り抜いて批判するよりも、まずは作品として成立しているかを見たい」「過敏に反応するのは、日本の映画産業にとってマイナスでは?」といった冷静な声もある。


映画批評家の前田有一「芸術では権力者を皮肉ることはよくある。映画の中で権力者を風刺したら批判されること自体、日本における芸術文化の未熟さを露呈しているのではないか。加えて、同作の中に『お腹が弱い』という設定をことさらに強調するシーンはありません。多くの人は作品を見ていないので、佐藤さんを叩くことが目的化しているのでしょう」


俳優の黒沢年雄はブログで「世の中いろんな人がいるからこそ、面白いし、楽しい。思想もそう…。今回の佐藤君の安倍総理に対すると思われる揶揄とも取られる発言は、まだ彼が若い部分があるという事で許してやって下さい」と寛容さを見せた。


爆笑問題の太田光は佐藤の亡き父である俳優の三國連太郎について語る。
「三國さんっていうのは戦争に行ってひどい目にあって、いろいろな思いがあって、それこそ体制というものに対して自分の意思を貫いた人だからね。親子の関係っていうのはいろいろな形があるけれども、それを見て感じてきてることもあるだろうし」とラジオ番組『爆笑問題カーボーイ』にて。


三國連太郎の「ひどい戦争体験」とは本人が毎日新聞のインタビューで語っている。
《徴兵検査を受けさせられ、甲種合格になってしまった。入隊通知がきて「どうしよう」と悩みました。(中略)「外地にいけばなんとかなる」と思って、九州の港に向かったのです。ところが途中で、実家に出した手紙があだとなって捕まってしまったのです》
《徴兵忌避をした家は、ひどく白い目で見られる。村八分にされる。おそらく、逃げている当事者よりつらいはず。たとえいやでも、我が子を送り出さざるを得なかった》

(1999年8月13日)


こうして三國連太郎は入隊して、何度も殴られた。この父の話を聞いた佐藤が「体制側」に複雑な思いを持つのも当然だろう。


テレビ朝日の玉川徹氏は「単に安倍応援団の人が、安倍をバカにしてるという風に受け取って怒っているだけの話」「別にそれ以上でも、それ以下でもない」と語った。
「佐藤さんはいろいろ深く考えた上で役者としてこの役を引き受けるに当たって、下痢という形にした方が映画上いいって判断して、監督もそれがいいだろうとなったから映画になってるわけでしょ」と指摘して、「それを安倍応援団みたいな人がもしこれを見たら、怒るかもしれないと思って、せっかくそういう風にして考えたことをやめてしまう方が忖度で嫌だと思います」と述べた。
「僕は原作をずっと読んでいるんですよ。映画化になるのか、また何か国粋主義的な映画になるんだったら嫌だなって思ってたんだけど、佐藤さんがああいう思いでこの映画を作ったということだったら、逆に見たくなりました。僕はかえって見ます」。


映画公式サイト

https://kuboibuki.jp/sp/


 20XX年、尖閣諸島沖での海上自衛隊と中国海軍の衝突の危機が高まる中、日本政府が就役させた事実上の空母「いぶき」。翌年、ついに中国軍が尖閣と先島諸島に上陸・占領。日本政府は垂水慶一郎総理の指揮の下、武力による奪還を決断。最新鋭戦闘機を搭載した「いぶき」の艦隊による作戦の火蓋を切る。


『空母いぶき』超ド級の日本映画となった「5つ」の理由!

https://cinema.ne.jp/recommend/ibuki2019051706/


posted by koinu at 08:00| 東京 ☀| 映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする