2018年07月08日

読破しておきたい小説

「チャンドス卿の手紙」ホーフマンスタール

何ごとかを語ろうにも「言葉が腐れ茸のように口の中で崩れてしまう」思いに,チャンドス卿は詩文の筆を放棄する.――言葉と物とが乖離した現代的状況をいち早くとらえた「チャンドス卿の手紙」こそは,新しい表現を求めて苦悩する二○世紀文学の原点である.

早熟の詩人は十代から修辞の妙をきわめた絢爛たる作品を発表した。言語の限界を知覚して沈黙を余儀なくされる。

「何にもせよ、首尾一貫させて考えたり口にしたりする能力が、ぼくからは完全に失われてしまったのです」

「ぼくには、高級な、あるいは普遍的な主題について語りながら、誰もが気安くあっさりと用いているある種の言葉を口にするのが、次第に不可能になってきたのです」

ある日の夕暮れ、胡桃の木の下に置かれた如雨露をみた。

「無限なるものの現前をありありと」感じられて「何事か叫びださずにはいられない気持」になる。彼ができるラテン語や英語では、その感動は表現できないという葛藤が最大の苦痛となる。

「単語の一つすらぼくには未知の言語ですが、その言葉を用いて物いわぬ事物がぼくに語りかけ、その言葉を用いてぼくはいつの日か墓に横たわる時、ある未知の裁き手の前で申しひらきをすることになるだろうと思うのです」

《一箇の如露、畑に置きっぱなしの馬鍬、日なたに寝そべる犬、みすぼらしい墓地、不具者、小さな農家》《きわめて崇高にして完璧な現在》を見出すことで<言語を超えた言語>にたどり着く。


ホーフマンスタール(Hugo Laurenz August Hofmann von Hofmannsthal, 1874年2月1日 - 1929年7月15日)

オーストリアの詩人、作家、劇作家。ウィーン世紀末文化を代表する青年ウィーン一員で、印象主義的な新ロマン主義の代表的作家。

『チャンドス卿の手紙 他十篇』檜山哲彦 訳(岩波文庫1991年)

『チャンドス卿 の手紙/アンドレアス川村二郎 訳 (講談社文芸文庫1997年)

『チャンドス卿の手紙/アンドレアス』丘沢静也 訳(光文社古典新訳文庫 2018年)

http://gutenberg.spiegel.de/buch/die-treibjagd-1247/1


「目を惹くのは1902年に発表された『チャンドス卿の手紙』でしょう。断念されたというベーコンに宛てた手紙が、解説ではウィトゲンシュタインと並んで「語り得ぬもの」、つまり超越論的仮象の倫理を示しているとしています。あえて異なる読みをすれば、この言葉を失った断念を、不能性の問題と考えられないでしょうか。近代のはじまりには展望があった。既に小説の可能性は汲み尽くされて、20世紀には才能を発揮できる新しい地平は広がっていない。決定的に出遅れた20世紀人として、自らの存在は必然的に不発に終わらざるを得ない。」 三島由紀夫


諏訪哲史「まずは、マルセル・プルーストの『失われた時を求めて』ですね。あとは誰だろう…。フーゴ・フォン・ホフマンスタールの『チャンドス卿の手紙』とそれと梶井基次郎の『檸檬』かな。本当はもっとたくさんあるんですけど、3冊といわれればこれですね」

http://mag.executive.itmedia.co.jp/executive/articles/1202/03/news006_3.html


プルーストに酔い痴れ、谷崎を跪拝し、ジャン・ジュネに惑溺する―著者の文学人生を運命づけた偏愛の小説・詩・漫画100冊を語る文学的自叙伝。芥川賞作家諏訪哲史の、変異と屈折の“言語芸術入門”!

諏訪哲史『 偏愛蔵書室』
目次 : 不治の言語病患者 「チャンドス卿の手紙」(ホフマンスタール)/ 倦厭の闇、一瞬の光源 『檸檬』(梶井基次郎)/ 世界を造形するまなざし 『リルケ詩集』(リルケ)/ 「リアル」ということ 『遠野物語』(柳田国男)/ 漫画のなかの「詩性」 『赤色エレジー』(林静一)/ 「無限」に触れる筆力 『伝奇集』(ボルヘス)/ 「起承転転」の小説 「子之吉の舌」ほか(島尾敏雄)/ 「幼年」という名の庭 『トムは真夜中の庭で』(ピアス)/ 選ばれた「文体」と「生」 「青炎抄」ほか(内田百
)/ 小説―「過剰性」の言語 『泥棒日記』(ジュネ)〔ほか〕

<小説とは「物語」と「詩」と「批評」から成る> 

短文エッセイなどで楽してる創作からは、到底に伺えない到達地点にある。紹介された100冊の本。

1 ホフマンスタール「チャンドス卿の手紙」
『チャンドス卿の手紙 他十篇』(岩波文庫)所収
2 梶井基次郎『檸檬』(新潮文庫)
3 ライナー・マリア・リルケ / 生野幸吉訳『リルケ詩集』(白鳳社)
4 柳田国男『遠野物語』(角川文庫)
5 林静一『赤色エレジー』(青林堂)
6 ホルヘ・ルイス・ボルヘス / 鼓直訳『伝記集』(岩波文庫)
7 島尾敏雄「子之吉の舌」ほか
 『日本幻想文学集成24 島尾敏雄 種村末弘編』(国書刊行会)所収
8 フィリバ・ピアス / 高杉一郎訳『トムは真夜中の庭で』(岩波少年文庫)
9 内田百閨u青炎抄」ほか
 『内田百闖W成3 冥途』(ちくま文庫)所収
10 ジャン・ジュネ / 朝吹三吉訳『泥棒日記』(新潮文庫)
11 吉岡実『静物』(私家版)
12 澁澤龍彦『少女コレクション序説』(中公文庫)
13 レイモンド・カーヴァー / 村上春樹訳『愛について語るときに我々の語ること』(中央公論社)
14 宇野浩二「蔵の中」
 『思い川・枯木のある風景・蔵の中』(講談社文芸文庫)所収
15 ブルーノ・シュルツ / 工藤幸雄訳『肉桂色の店』
 『ブルーノ・シュルツ全集』(新潮社)所収
16 李賀 / 黒川洋一編『李賀詩選』(岩波文庫)
17 アドルフォ・ビオイ=カサーレス / 清水徹・牛島信明訳『モレルの発明』(書肆風の薔薇)
18 中井英夫『幻想博物館』(講談社文庫)
19 ヴィトルド・ゴンブローヴィチ『バカカイ』(河出書房新社)
20 埴谷雄高『闇のなかの黒い馬』(河出書房新社)
21 アラン・ロブ=グリエ / 江中直紀訳『幻影都市のトポロジー』(新潮社)
22 フィリップ・ソレルス / 岩崎力『数(ノンブル)』(新潮社)
23 山口椿『ナージャとミエーレ』(トレヴィル)
24 日野日出志『赤い蛇』(ひばり書房)
25 マルセル・プルースト / 井上究一郎訳『失われた時を求めて』(筑摩書房)
26 横光利一「春は馬車に乗って」ほか
 『日輪・春は馬車に乗って 他八篇』(岩波文庫)所収
27 ポール・ボウルズ / 四方田犬彦訳『優雅な獲物』(新潮社)
28 西脇順三郎『ambarualia(あんばるわりあ)』(椎の木社)
29 アイザック・バシェヴィス・シンガー / 邦高忠二訳『短かい金曜日』(晶文社)
30 谷崎潤一郎「瘋癲老人日記」
 『鍵・瘋癲老人日記』(新潮文庫)所収
31 ヴィオレット・ルデュック / 榊原晃三・浅野八郎訳『私生児』(二見書房)
32 三島由紀夫「憂国」ほか
 『花ざかりのの森・憂国』(新潮文庫)所収
33 カルロ・エミリオ・ガッダ / 千種堅訳『メルラーナ街の怖るべき混乱』(早川書房)
34 幸田露伴「運命」
 『運命・幽情記』(講談社文芸文庫)所収
35 ウィリアム・フォークナー / 龍口直太郎訳「納屋は燃える」ほか
 『フォークナー短編集』(新潮文庫)所収
36 種村末弘『怪物の解剖学』(河出文庫)
37 イーヴリン・ウォー / 吉田健一訳『ブライヅヘッドふたたび』(ちくま文庫)
38 徳南晴一郎『怪談 人間時計』(太田出版)
39 アーネスト・ヘミングウェイ / 高見浩訳「ファイター」ほか
 『われらの時代・男だけの世界』(新潮文庫)所収
40 深沢七郎『みちのくの人形たち』(中公文庫)
41 ガブリエル・ガルシア=マルケス / 鼓直・木村榮一訳『エレンディラ』(ちくま文庫)
42 田中小実昌『ポロポロ』(中公文庫)
43 中上健次『岬』(文春文庫)
44 サミュエル・ベケット / 川口喬一訳『マーフィー』(白水社)
45 沼正三『家畜人ヤプー』(都市出版社)
46 レーモン・ルーセル / 岡谷公二訳『ロクス・ソルス』(ペヨトル工房)
47 寺山修司『地獄篇』(思潮社)
48 丸尾末広『薔薇色ノ怪物』(青林堂)
49 フョードル・ソログープ「かくれんぼ」ほか
 『かくれんぼ・白い母 他二篇』(岩波文庫)所収
50 正岡蓉『風船紛失記』(改善社)
51 老舎 / 稲葉昭二訳『猫城記』(サンリオSF文庫)
52 ヴォルフガング・ケッペン / 田尻三千夫訳『ユーゲント』(同学社)
53 鷲巣繁男『路傍の神』(冥草舎)
54 トニー・デュヴェール / 志村清訳『薔薇日記』(新潮社)
55 大泉黒石「眼中星」ほか
 『黒石怪奇物語集』(桃源社)所収
56 ジャン・レイ / 秋山和夫訳『幽霊の書』(国書刊行会)
57 畑耕一『怪異草紙』(大阪屋號書店)
58 桐山襲『パルチザン伝説』(作品社)
59 ワシーリー・アクショーノフ / 工藤精一郎訳『星の切符』(中公文庫)
60 石上玄一郎「鰓裂」
 『石上玄一郎傑作集』(東方書局)所収
61 ジョルジュ・ぺレック / 海老坂武訳『眠る男』(晶文社)
62 池田得太郎「鶏の脚」ほか
 『家畜小屋』(中央公論社)所収
63 ルイージ・マレルバ / 千種堅訳『プロタゴニスタ奇想譚』(出帆社)
64 小田仁二郎『触手』(眞善美社)
65 エレーヌ・シクスス / 若林真『内部』(新潮社)
66 山崎俊夫 / 生田耕作編『美童』(奢灞都者)
67 ポオル・モオラン / 堀口大學訳『夜ひらく・夜とざす』(新潮社)
68 萩原恭次郎ほか / 秋山清編『アナキスト詩集』(海燕書房)
69 ピエール・ギュイヨタ / 榊原晃三訳『五十万人の兵士の墓――反乱の雅歌篇』(二見書房)
70 荒木良一『妖花譚』(毎日新聞社)
71 フランシス・ポンジュ / 阿部弘一訳『物の味方』(思潮社)
72 秋山正美『葬儀のあとの寝室』(新世紀書房)
73 わたせせいぞう『ふたりだけのSeason』(角川書店)
74 江戸川乱歩「人間椅子」
 『人間椅子』(春陽文庫)所収
75 フランツ・カフカ / 池内紀編訳「流刑地にて」ほか
 『カフカ短篇集』(岩波文庫)所収
76 仏説「刈萱」(ぶん・五雨みな子 え・井上与志夫、加藤直)『石童丸』(大道社)
77 ゲオルク・ハイム / 本郷義武訳『モナ・リーザ泥棒』(河出書房新社)
78 太宰治『晩年』
『太宰治全集1』(ちくま文庫)所収
79 ポーリーヌ・レアージュ / 澁澤龍彦訳『O嬢の物語』(角川文庫)
80 泉鏡花「龍潭譚」ほか
 『由縁文庫』(春陽堂)所収
81 クライヴ・パーカー / 宮脇孝雄訳『ミッドナイト・ミートトレイン』(集英社文庫)
82 宮沢賢治『春と修羅』
 『宮沢賢治全集1』(ちくま文庫)所収
83 マルキ・ド・サド / 澁澤龍彦訳『ジュリエット物語あるいは悪徳の栄え』(富士見ロマン文庫)
84 石川淳『普賢』(集英社文庫)
85 パウル・ツェラン / 生野幸吉訳「フーエディブル―」ほか
 生野幸吉著『闇の子午線 パウル・ツェラン』(岩波書店)所収
86 川端康成『眠れる美女』(新潮文庫)
87 ヴァルター・ベンヤミン / 浅井健二郎編訳 久保哲司訳「一九〇〇年頃のベルリンの幼年時代」ほか
 『ベンヤミン・コレクション3 記憶への旅』(ちくま学芸文庫)所収
88 高浜虚子・永田耕衣ほか / 平井照敏編『現代の俳句』(講談社学術文庫)
89 尾崎放哉『尾崎放哉全句集』(ちくま文庫)
90 シャルル・ボードレール / 安藤元雄訳『悪の華』(集英社文庫)
91 夏目漱石『草枕』(新潮文庫)
92 ジャン=ポール・サルトル / 白井浩司訳『嘔吐』(人文書院)
93 岡本かの子「川」ほか
 『日本幻想文学集成10 岡本かの子 堀切直人編』(国書刊行会)所収
94 ジェイムズ・ジョイス / 丸谷才一・永山玲二・高松雄一訳『ユリシーズ』(集英社)
95 夢野久作『ドグラ・マグラ』(現代教養文庫)
96 ルイ・フェルディナン・セリーヌ / 生田耕作訳『夜の果ての旅』(中公文庫)
97 色川武大『生家へ』(中公文庫)
98 H・P・ラヴクラフト / 宇野俊康訳「クトゥルフの呼び声」
 『ラヴクラフト全集』(創元推理文庫)所収
99 久生十蘭『昆虫図』(現代教養文庫)
100 ウラジーミル・ナボコフ / 若島正訳『ロリータ』(新潮文庫)
いずれも柔軟な感性のある年齢で、読破しておきたい小説。

posted by koinu at 13:00| 東京 ☔| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする