2018年12月28日

『過去と思索』 アレクサンドル・ゲルツェン /訳 長縄光男〔筑摩書房〕

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19世紀の騒然としたロシアと西欧にあって、透徹したまなざしと人間味あふれる心で描いた思想家の自伝。筑摩書房「世界文学大系」所収のものを大幅に改訳し、未刊の新訳を加えた初の完訳。
「ルソーの『告白』やゲーテの『詩と真実』と並ぶ自伝文学の白眉」各巻六〇〇頁にも及ぶ全三巻。
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皇帝に連なる名門地主貴族の父がドイツ人下級官吏の娘に生ませた私生児ゲルツェンは、早熟な子供となる。モスクワ大学理数学部に入学して、農奴制と専制に戦いを挑むサークルを組織、西欧社会主義者の理論を研究する。卒業後には二度の流刑を経て、一八四七年に亡命。
ロンドンに居を構えて「自由ロシア出版所」を創設して、論文集『北極星』や新聞『鐘』を発行。祖国の農奴解放運動を応援し続ける。

本書執筆の動機となったのは、最愛の妻とドイツ詩人との浮気である。詩人の愛が本物ならば身を引く覚悟していたゲルツェンは、その不誠実さに憤り決闘を覚悟する。不実の子を宿して病に倒れて、瀕死の床に伏す妻に懇願されて思いとどまる。この「家庭の悲劇」を解明してヘルヴェークを非難する目的に筆をとったゲルツェンは、当初からの想いを超えて、己の幼年時代からの回想を記す。執筆は結局一六年間も続き、その間次々と家庭の不幸に見舞われる。

ツルゲーネフが「涙と血をもって書かれている。人の心を焼き焦がす」と絶賛する。流刑と幅広い交友関係の中から知った当時のロシア社会の詳細な報告、亡命後の各国革命家との交流で浮き彫りになるヨーロッパ社会の歴史的流れ。興味尽きない同時代人たちの姿を通して語られる。ベリンスキイ、バクーニン、プルードン、マルクス、ガリバルディ、ミツキェーヴィチ、オーエンなど有名人と並んで、著者に仕えた無名の人々の姿が印象深い。
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虚偽の言葉をあやつる詩人への、怒りと憤りから、対局にある世界を見出した大作。第42章「荒野に鳴く牛の声」に書かれた、詩人への侮蔑と貶んだ言葉の使い方が多様な表現であり、全身全霊から呪いのマシンガントークしている。圧巻の一言。
posted by koinu at 15:00| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする