1963年発表の作品。シオドア・スタージョンの代作です。
国名シリーズの頃のロジック重視の推理は影を潜め、探偵エラリー・クイーンの性格にも変化が表れています。作中でエラリー自身が「時代が名探偵を必要としていない」という発言をしたときは、少し寂しくなりました。けれど、この作品で発生する事件はとても作り物めいていて、黄金期の作品を髣髴とさせてます。ヨーク・スクウェアの四隅に配置された城(ルーク)と、そこに住むポーン、ナイト、クイーン、ビショップ。そして事件(ゲーム)を掌握する犯人(キング)とそれに挑む名探偵の構図。
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あらすじ
ヨーク館は正四角形の4つの隅に城が建てられ中央部は公園になっていた。
4つの城にはそれぞれ先代ナサニエル1世の血縁である4人の城主が住んでいる。切手収集家で時間通りの生活に固執し厳格なロバート、社会福祉活動家のエミリー、放蕩な生活を送っているパーシバル、つらい過去のいきさつからか心身を崩してしまったマイラ。
ロバートの切手収集の手伝いをするアーチャー、マイラの話し相手アン・ドルー、ロバートとパーシバルの共同の家政婦ミセス・シュライヴァー。庭の手入れや家具の修繕を行っているウォルトは記憶喪失らしい。
先代のナサニエル・ヨーク1世が、ヨーク・スクエアおよび多額の金銭を遺産として残した。
遺書には、?甥や姪たち(現城主たち)が10年城に住み続けたら遺産を彼らに分配すること?息子のナサニエル2世が現れたらに遺産を渡すことが記されていた。
現城主は9年半住み続けており、後半年で遺産を手にできるはずだった。ナサニエル2世は放蕩息子で、親の元を出奔して行方知れずになっていたが、ブラジルの僻地で死んだらしいとのこと。館の公園に"IN LIVING MEMORY" と銘の入った記念碑が建てられている。
Y という人物からウォルト宛に手紙が届く。
?ロバート宛に「J」というスタンプの入った紙(台紙の形がロバートの城を示す形になっている)を送る
?決められた時間に城からブロックを落とすこと(時間に厳格なロバートは、その下で昼寝をしている)
殺人の計画の指示だ。ウォルトは、自分の存在を受け入れてくれるこの手紙の文面に昂揚し、指示通りに実行する。
ロバートが頭をつぶされて死んだ。第1の殺人である。
エラリー・クイーンが登場。
「ぼくはいつも今の時代ばかり考えていた。つまり、ぼくはいつも現在ぼくが扱っている事件にもとづいて小説を書いていたんです。(中略)−ところが時代は変わったんですよ。」
「つまりぼくは、ある種の犯罪人が存在したから、ぼくというものが存在したと思うんです。ぼくがぼくのしたことをやったのは、彼が彼のしたことをしたからなんですよ。(中略)「彼は、盤の向こう側でゲームをしている相手側なんです。」(中略)なぜぼくがもう書けなくなってしまったかというと、向こう側にいるゲームの相手がもういなくなってしまったからなんですよ」「ぼくが今後書くものは(こめかみを指して)ここから出てくるものに限ります」
このセリフの裏にはクイーンの著作活動の中で最初はクイーンが事件に首をつっこむ形のものだったが、次第に名声が高まってくるようになるとクイーンに挑戦してくる犯罪者が現れるようになってくる。さらに警察の科学的捜査などで推理活動する設定が難しくなってきた。あたらしい舞台を創作し読者との知恵比べをする宣告である。
城主たちが次々に殺される。
3人目が死んだ時点で推理に必要な材料がそろってきたように思えた。
▽実は廃棄されずにファイルされていた指示の手紙
▽同じく廃棄されていないスタンプ( 「J」、「W」、「H」のみ使用済み)
▽手紙に付いているウォルトの指紋の位置が不自然なこと
原題は「もう一方の側のプレーヤー」で、章立てもチェスの攻防になっている。こちら側というのはクイーンの側、探偵=読者の側であり、もう一方の側は犯人=作家の側である。この二項図式(こちら側とあちら側)の関係が実は人と神の関係でもありうるよ、ということ。奇妙なカードも最初は犯人の頭文字らしいが、それは口にしてはならない言葉であったのだ。
クイーンの代作とはいえスタージョンのこだわりがいい。家主四人と下男ウォルトの極端な人物設定と「孤独な弱者に対するあたたかい視線」がたまらない。

