昭和四十二年から四十三年にかけて光伸書房の「ハイ・コミックス」という新書版単行本で描き下ろされた。
タイトルは『二十一世紀の日本 オーム伝』となっており、舞台は二十一世紀の日本であるが、社会は資本主義や科学文明が進み、大企業や国家の重要な職務につくものは裕福だが、一般の労働者、工業ロボットなどに職場を奪われた人々は、次に働く場所もなく、毎日の食料にも困窮する「貧民」階層として、社会から差別されている。「貧民」の側に立ち、人々がみな平等な生活をおくれるようにと、超能力を駆使して社会と闘うのが、主人公のオームである。
『忍者武芸帖・影丸伝』『カムイ伝』を意識した、壮大なSF劇画の構想にあった。

【あらすじ】
地球に飛来してきた2隻の宇宙船の戦闘から、この物語は始まる。片方の宇宙船がもう一方を撃退するも、撃退された悪の宇宙生命体・トッパーは脱出し、それを追う善の宇宙人・カシオペヤ星人を原子レベルにまで分解する。
そしてトッパーは手近にいたサメを操り、豪華客船忍び込み、客船の乗客・カミ夫人の頭脳を乗っ取ることに成功する。操られた彼女は、自らの赤ん坊を海に投げ捨て、更にトッパー本体に高カロリーの栄養物(血液)を提供すべく、何度も人間を殺害するようになるのだった。
彼女はやがて、暗黒街の組織を乗っ取り、着々と人間を支配する下準備を重ねていた。
場面変わり、その頃の陸軍の食糧庫などでは、数々の超能力を駆使するオームをはじめとする抵抗組織が大量の食糧を強奪する事件が相次いでいた。21世紀の日本では貧富の差が拡大し、一部の資本家が大多数の民衆から富のほとんどを搾取する状態が続いていたのだ。
カミ夫人も、本来は貧民に救いの手を差し伸べる良識的な人物だったのだが、トッパーに支配されて以来豹変し、極悪な人物と化してしまった。訝しがる人々をよそに、テレパスであるオームは、カミ夫人の正体に気付き愕然とするのだった。
刑事の秋山シンゴは、都内に跳梁跋扈している一人の犯罪者を追っていた。彼は囚人であるはずなのだが、いつの間にか刑務所内から姿を消し、外で犯罪を繰り返してはいつの間にか再び刑務所に戻っているのだ。執拗な追跡の途中、その犯罪者は事故死する。
しかし、その裏には陸軍による超能力開発計画が蠢いていたのだ。
シンゴも実験材料となるが、極限状態の中超能力(テレポーティション)に目覚め、解放される。
彼は貧民街(スラム)の指導者的存在であるトリイと付き合ううちに、自分の仕えている国家に、そして自分が職業として守ろうとしている体制に、疑問を感じ始めるのだった。
オームは労働者の雇用を奪い、更なる貧富の差を生み出すロボットを大量生産する超巨大企業・三石財閥のロボット工場を次々と破壊していく。三石財閥の跡取り息子にして、テレパスの三石竜次を易々と翻弄する。そして、更なる富を求め暗黒街と癒着し、軍事産業へ進出しようとする三石財閥に警告を発する。
そんな中、トッパーの支配から逃れたカミ夫人は、自らの赤ん坊を海に投げ捨てたことに心を痛め、悲しみの日々を送っていた。心の中で赤ん坊を呼び続けるカミ夫人。
それに呼応するかのように、赤ん坊がちょうど投げ捨てられたその海中において、トッパーに分解されたはずのカシオペヤ星人の未知の力により、様々な原子が集まり、赤ん坊は類人種族(ヒューマノイド)として復活していたのだった・・・・・・

〈全6巻の構想だっが、3巻しか刊行ならなかった〉
日の丸文庫から「ハイコミックス」として、
<来訪者の巻><カミ婦人の巻><不思議な少年の巻>3册が昭和43年に発行された。
続刊予定として、<動乱の巻><ノバ爆弾の巻><フェニックス(不死鳥)の巻>が日の丸文庫の雑誌「ごん」に連載継続の予告されてたが、続編は一回だけの休刊号となってしまった。
作者・関一彦
昭和16年生まれ、高松市出身。在住のまま、ホームラン文庫(東考社)でデビュー後、日の丸文庫に移る。SF劇画に本領を発揮。
【第二巻あとがき】
「20世紀の現実を見ると苦々しき事が実に多い。これでは日本はだめだ。その為には若い人たちに20世紀の悪を拡大して描きその現実のなかで、いかに生きるべきか、何をすべきかそんなものを作者は訴えたくて胸ふさがるおもい」
白土三平さんの劇画技法から解説する
「忍者まんがは、今のまんが界にも脈々と生きているのだ。エスパーまんがに形を変えてな」

1巻P.61
2019年防衛省はついに幾多の反対をおしきって日本軍隊となった。
1巻P.73
先頭の運転手とオームとの会話はテレパシーでおこなわれたことはもちろんである。
1巻P.9
宇宙においてのロケット対ロケットの戦いはロケットのエネルギー、バリヤー対それを破ろうとするエネルギー波の戦いである。
相手のバリヤーを破らないかぎりロケット自体を破壊することは出来ない。
ここでは追ってきたロケットがバリヤーを破り逃げるロケットの一部を破壊することに成功した。
2巻P.149
神経ムチは2018年ロシア人アシモフによって発明され現在全世界の警察官の主武器となっている。
これは皮下神経にのみ作用し皮フ細胞には何の内外傷も与えない。しかしその痛みは強烈で失神、はなはだしい場合は死亡させることもできる痛みの強弱はグリップのめもりで調セツできるようになっている
1巻P.35(宇宙生物トッパーが夫人の精神を乗っ取るシーン)
フーッどうやら支配したぞ
いつでも知的生物の頭脳に住みつくには
多少の抵抗はあるものだが・・・
どれ、記憶を調べてみるか
フム、この生物は人間というものか、こいつらが
この恒星系(ここでは太陽系)の支配的生物か。
オレがここまで乗ってきた(トッパーはとりつくことをこう表現するらしい)生物はサメというものか・・・
さて、この人間=カミ夫人か=の状況は・・・
ウム近くに人間が、ギャングという種類か・・・
極度の危険な状態におかれているらしい――――ヨシッ
エート足の神経は・・・・・・と・・・・・・これか。
posted by koinu at 13:00| 東京 ☀|
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