2023年04月07日

ウォルター・スコットの言葉

「無為に過ごしたすべての年月を栄光の活動と高貴な危険に満ちた一時間と交換したい。」


「引っ込めることのできない所まで腕を伸ばすな 


「愛情はあらゆる暴力の嵐に耐え抜く力があるが、北極の氷のような長い無関心には耐えられない。」


「悦びのない人生は油のないランプである。」


「臆病でためらいがちな人間にとっては一切は不可能である。なぜなら一切が不可能なように見えるからだ。」


「休息が永すぎるとカビが生える。」


「成功、不成功はその人の能力よりも

精神的態度によるものが大きい。」


「疲労ののちの休息ほど楽しいものはない。

空腹ののちの食事ほど美味なものはない。

病気ののちの健康ほど愉快なものはない。

また、非常な困難を突破したのちの平和ほど幸福なものはない。」


「死は最後の眠りである。いや、それは最初の目覚めである」


「恐れを知って、しかもそれを恐れないものこそ、真の勇者である」


「自分のことしか考えぬ者よ、この世をむなしく生き命絶えた暁には汚れた土くれとなり果てて、挽歌を歌う者もなく 涙する者もなし」


「最良の教育とは人が自分自身に与える教育である。」


「時と潮流は人を待たない」


ウォルター・スコット【Walter Scott

作家・脚本・エッセイスト

イギリス・スコットランド生まれ

生年月日1771815 

没年月日1832921

Sir Walter Scott

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2023年04月06日

ピンクムーンの満月の日です

今日61335分に満月を迎える。

4月の満月は「ピンクムーン」と呼ばれる。

東の地平線上に現れる時が絶好のタイミング。地平線近くやや暗いオレンジ色で現れるピンクムーンを双眼鏡で、大型のクレーターや古代の溶岩の海を見つけられる。空高く上った後の月は、凝視するには明るすぎる。


https://news.yahoo.co.jp/articles/b3144724426b3d320cbade90027532183bfd5e75

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マンガ好き&読書好きに聞く「ドラマ・アニメ・映画」注目作品

BookLiveが運営する総合電子書籍ストア「ブックライブ」で、ブックライブの会員2597人から「2023年春のメディア化作品注目度」アンケートの結果を公表。


1位は『鬼滅の刃』で「週刊少年ジャンプ」2016年から2020年まで連載をされた人気コミック。2020年10月に劇場版「鬼滅の刃」無限列車編が上映、興行収入は400億円を突破して歴代興行収入第1位を記録、社会現象となった。


2位は青山剛昌の推理漫画『名探偵コナン』を原作としたアニメ作品。テレビ放送も長く続いている番組で、映画化もヒット上映がされてきた。


3位は高橋一生主演で映画化された『岸辺露伴は動かない』。『ジョジョの奇妙な冒険』第4部「ダイヤモンドは砕けない」登場する漫画家・岸辺露伴がマンガの取材のため訪れた先々で体験した奇妙なエピソードを集めた見聞録的作品。NHKにて特集ドラマとして実写化。映画「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」はフランス・パリでも撮影が行われた。


4位は夫婦のタブーに切り込んだ禁断の恋愛マンガ『あなたがしてくれなくても』。フジテレビ連ドラ初主演の奈緒をはじめ、豪華キャストが集結した実写ドラマ化が話題で4月より放送開始予定。


5位は『山田くんとLv999の恋をする』2023TVアニメ化された。彼氏がネトゲで知り合った女性と浮気して、別れを告げられてしまう女子大生の木之下茜。残ったのは彼氏との愛と共に育んでいたはずのキャラだけだった。


【春のメディア化注目度】1位〜10

1位 鬼滅の刃 [アニメ化]

2位 名探偵コナン [映画化]

3位 岸辺露伴は動かない [映画化]

4位 あなたがしてくれなくても [ドラマ化]

5位 山田くんとLv999の恋をする [アニメ化]

6位 【推しの子】 [映画化] 

7位 Dr.STONE [アニメ化] 

8位 ゴールデンカムイ [アニメ化]

9位 教場 [ドラマ化]

10位 魔法使いの嫁 [アニメ化]


■2023年春(46月)注目のおすすめメディア化作品 特集ページ

https://booklive.jp/feature/index/id/media

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2023年04月05日

緑茶のストレス軽減効果

低カフェイン処理となる「水出し緑茶」を飲むと、「テアニン」の量で高い睡眠効果が得られる。テアニンの働きを助けるアルギニンなど、テアニン以外の緑茶成分との相加的効果と考えらている。


テアニンを摂取した人は、摂取していない人(プラセボ)と比べ、

 寝つきがスムーズになった

 睡眠中に覚醒する時間が減少した

 起きたときの睡眠に対する満足感が向上などの睡眠改善効果がみられました。


高温のお湯で淹れると、覚醒作用や利尿作用あるカフェインも多く抽出されて、テアニンの効果が減殺されてしまう。

ストレスを和らげリラックス効果を高めたいときには、低温の水で淹れた氷水出し茶が効果的である。

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2023年04月04日

坂本龍一さんの代表アルバム

1978年 アルバム「千のナイフ」

  80年 アルバム「B―2ユニット」

  83年 映画「戦場のメリークリスマス」の音楽

  84年 アルバム「音楽図鑑」

  87年 映画「ラストエンペラー」の音楽

  89年 アルバム「ビューティ」

  93年 映画「リトル・ブッダ」の音楽

  95年 アルバム「スムーチー」

  98年 アルバム「BTTB」

2002年 映画「ファム・ファタール」の音楽

  04年 アルバム「キャズム」

  07年 映画「シルク」の音楽

  09年 アルバム「アウト・オブ・ノイズ」

  15年 映画「母と暮せば」の音楽

  17年 アルバム「async」

  21年 映画「MINAMATA―ミナマタ―」の音楽

  23年 アルバム「12」
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『クローズアップ現代「坂本龍一 最期まで音楽と共に」』

NHK総合『クローズアップ現代』は、予定を変更して「坂本龍一 最期まで音楽と共に」を放送。世界を見つめ、音楽と共にあった坂本龍一は“時代”に何を伝えようとしていたのか―。ガンとの闘病で長らく表舞台から遠ざかっていた坂本龍一がNHKの509スタジオで名曲を演奏した舞台裏など、貴重な映像とインタビューで迫る

■『クローズアップ現代「坂本龍一 最期まで音楽と共に」』

NHK総合 2023年4月4日(火)午後7:30 ~ 午後7:57 (27分)

音楽家の坂本龍一さんが、71歳で亡くなった。音楽グループ「YMO」のメンバーとして活躍。アカデミー賞など世界的な賞を数々受賞し、被災地支援や非核を訴える活動にも力を入れていた。世界を見つめ、音楽と共にあった坂本さんは“時代”に何を伝えようとしていたのか―。ガンとの闘病で長らく表舞台から遠ざかっていた坂本さんが、NHKの「509スタジオ」で名曲を演奏した舞台裏など、貴重な映像とインタビューで迫る。

番組ページhttps://www.nhk.jp/p/gendai/ts/R7Y6NGLJ6G/

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2023年04月03日

音楽家の坂本龍一さんが3月28日に亡くなった

世界で活躍した音楽家の坂本龍一さんが328日に亡くなったことが分かりました。71歳でした。

坂本さんは1978年に高橋幸宏さん、細野晴臣さんの3人で音楽グループ「YELLOW MAGIC ORCHESTRA」、通称“YMO”を結成し、シンセサイザーとコンピューターを駆使した斬新な音楽で、一躍人気となりました。

さらに、坂本さんはソロでも活躍し、1988年には映画「ラストエンペラー」でアカデミー賞の作曲賞を受賞するなど、世界で高く評価されました。

精力的な音楽活動の一方、2014年には中咽頭がんが判明。6年を経て寛解しましたが、2020年、新たに直腸がんが見つかるなど、闘病生活を続けていました。

所属事務所によりますと、葬儀はすでに近親者のみで執り行われたということです。

【日テレニュース】


 坂本龍一さんの死去は2日夜、所属レコード会社の公式サイトで発表され、坂本さん自身のインスタグラムでは、朽ちたピアノが現れる短い動画が投稿された。動画には、灰色の背景で「January 17 1952  March 28 2023」と、生年月日と死去した年月日が記載されていた。


悲報を受け、国内外のアーティストらがSNSなどを通じ、コメントを出した。


坂本さんと交流のあったシンガー・ソングライターの佐野元春さんは、自身のフェイスブックで、「坂本さんの精神性に多くの表現者が刺激されました。自分もその一人です。感謝とともに、深く哀悼の意を表します」としのんだ。

 脚本家の北川悦吏子さんは、「私の映画の音楽をやっていただきました。打ち上げのお食事会の時、とても紳士で優しく、気さくな方でした。忘れないでいます。その時、私におっしゃってくださった言葉。音楽と共に」と振り返った上で、「坂本さんも、(高橋)幸宏さんも、お会いして飲んだけれど、本当にふたりとも全くえらぶらないで気さくで、笑って、そして、天才なのだ。戦場のメリークリスマスで、YMOなんだ。バグる。そして、もう、いない。涙。私は、その音楽と、その人自身に、めぐり逢えて幸運でした。お疲れ様でした。天国でゆっくり」などとSNSに投稿した。


 このほか、小室哲哉さん(音楽プロデューサー)、山口一郎さん(サカナクション、ボーカル)や、沖祐市さん(東京スカパラダイスオーケストラ、キーボーディスト)、角野隼斗さん(ピアニスト)、LEOさん(箏奏者)、のんさん(女優)、湯川れい子さん(音楽評論家)らも追悼のメッセージを発信した。

【読売新聞】


【坂本龍一さんを偲んで】

https://youtu.be/_uUWuY0ReaY


【NHKで新年やっていた番組は非常に感動的だった。追悼再放送していただきたい。】

坂本龍一 Playing the Piano in NHK & Behind the Scenes
総合 2023年1月5日(木)
午後10:00 〜 午後10:45

坂本龍一ニューイヤー・スペシャル
総合 2023年1月1日(日)
午後10:00 〜 午後10:50

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2023年04月01日

「四月馬鹿」渡辺温

四月馬鹿


渡辺温




 何が 南京鼠だい


『エミやあ! エー坊! エンミイ― おい、エミ公! ちょっと来てくれよオ、大変々々!』出勤際に、鏡台へ向って、紳士の身躾をほどこしていた文太郎君が、突然叫びたてました。

『なあに? なんて、けたたましい声を出すの? お朔日ついたちの朝っぱらから気の利かないブン大将』

 妻君のエミ子が、台所から米国製の花模様のあるゴムの前掛で、手をふきながら出て来ました。

『まあ頭を、ちょっと嗅いでみておくれ? 臭いの何んのって!』文太郎君は顰めっ面をしながら、もみ苦茶になった頭をさし出しました。

『どうしたの? コリス?――』

 コリスと云うのはギリシャ語で、その昆虫の名前だと、或る大学生が何時かエミ子に教えてくれたのです。

『違うよ。ウイスキイだよ。頭が、ウイスキイなんだってば……』『まあ、本当だわ。ぷんぷん――迚も、景気のいい香においよ。でも、何だって今時分酔っぱらっちゃったの。あんたの頭?』

 エミ子は兎も角、タオルで、ゴシゴシと旦那様の頭をこすってやりました。

『オウ・デ・コロンをつけたんだよ。四七一一番のオウ・デ・コロンはアルコオルがうんと入っていて、古くなるとウイスキイに変質するって話でも、聞いたことあるかい?』

『何を云ってんの、莫迦々々しい! あたしが、今朝わざと取り更えて置いたんじゃありませんか。あんたが、いくら不可いけないって云っても、あたしのオウ・デ・コロンをフケ取りの香水の代りに使うから、懲しめのためにやったの。ウイスキイに両替すれば、勿体ないってことがあんたにも解ったでしょう。いい気味だわ。』

『畜生! 不礼者!』文太郎君は、タオルをかぶった儘頭をふりたてました。

『そんなに憤るもんじゃないわ。今日は、だって、四月一日よ。』『四月一日が如何した?』

『あら、あんた四月馬鹿(エプリル・フール)を知らないの?』

『出鱈目云うない。そんなもの知ってるもんか!』

『呆れたわねえ、ブン大将は! そんな、古ぼけた頭にオウ・デ・コロンをつけようってんだから、いよいよもって図う/\しいわよ。四月馬鹿ってのはね――あんただって、チャールストンとワルツの違い位は知っているんだから、教えといて上げるわ。――四月のお朔日ついたちは一年にたったいっぺん、どんな途方もない出鱈目をやって、人を担いでもいい日なの。あたしたちには、クリスマスなんかより、もっと祝福すべき祭日なのよ。』

『ほう、本当かね――』文太郎君は、こすった位では、迚も芳醇の香の抜けない髪の毛を諦らめて櫛で、撫でつけ乍ら目を瞠りました。『そう云われれば、なる程、西洋の小説で読んだこともあるような気がする。』

『アスファルトの道を散歩する資格なしね。去年の四月馬鹿なんか、随分面白かったわ。あたし、学校を出たばかりで恰度神戸へ遊びに行っていたんだけど、海岸通りの石道を昼間一人で何の気もなしに歩いていたの。そうすると割合に寂しい横丁の出口のところで、日本人のお婆さんが、長さ五尺位の菰こもでくるんだ大きな荷物を道ばたに立てて、それをウンウン唸りながら担ごうとしているんだけど、迚も重たくって担げそうもないのよ。』

『それで、エンミイが馬鹿正直に担いでやったのかい? ところが中味が矢張り菰ばかりで、軽々と、担がれたってね。ザマあ見ろ! はっはっはっ……

『黙ってお聞きなさいよ。担いだのも、担がれたのも、あたしじゃないの。折から通りかかった一名の西洋紳士。それを見つけると、吃驚したように立止って、お婆さんの様子を眺め、それから、あたしの方を見て、淑女の面前である手前、どうにも義侠心を出さずにはいられなくなったらしかったわ。直ぐとお婆さんの傍へ寄って、「オモイオモイデスカ。ワタクシ、オブッテサシアゲマス」云いながら、その菰包みに腕をかけて、ヤッとばかりに持ち上げようとしたんだけど、さてビクともしないじゃありませんか。大の毛唐が、いくら真赤になって呻いても大盤石の如く貧乏揺ぎもしなかったわ。ところが、その中にお婆さんが、唐突だしぬけにゲラゲラ腹をかかえて笑い出すと、その菰をつい剥がしたの。すると中から現われたのが、何だと思って? 荷物と見せかけたのは、郵便ポスト――だったじゃありませんか。毛唐は真逆日本のお婆ちゃんがと油断してかかったのだろうけど、四月一日であってみれば、怒るに怒れず頭を掻いて逃げて行ったわ。』

『そいつあ豪気な話だ。なる程、四月馬鹿とは、嬉しい習慣だね。そう云うことならよろしい。今日は一つその手を用いて、会社の木偶共も片っ端から落してくれるかな。』

『タイピストや、電話姫ミス・ハロウなんかばっかり落としちゃうんじゃないの?』

『まさに図星と云うところかも知れないね。』

『大人気ないわ。』

『本気になりなさんな、自分で仕込んで置きながら。万事四月一日だ。』文太郎君は仕立下ろしの春外套トップコートを羽織ると、それでも毎朝と変らぬ真心こめたベエゼを、エミ子に捧げて威勢よく玄関へ出て行きました。そこで、ピカピカに爪先を光らして揃えてあった編上靴を穿きかけたのですが、どうしたものか却々なかなか手間どれるのです。

『もう、九時を廻って居てよ。早くなさらないといけないわよ。』

『うん。だって、今朝は随分早そうな陽の色なもんだからそれに、どうしてこう人通りが少いのだろう。エンミイは時計の針をやたらに、廻して置いたんじゃないかい?』

『疑う?』

『やっぱり早過ぎるんだろう。漸く七時半位のものかな。でも、どうせ今日は繰り越し仕事が溜っているんだから、偶たまには早出も信用を取り返していいだろうさ。……おや! どうも先刻から此方の足が入らないと思っていたら、両方とも右足じゃないか! ちえッ、四月の馬鹿野郎め! 御丁寧に古靴なんか持ち出しやがって!……』文太郎君は三和土の上に靴を投ほうり出すし、エミ子さんは仏蘭西フランス鳩のような声を出して笑いました。恰度その折から、電話のベルが鳴りました。

『ハイハイ。こちら兎沢でございます。……おや、山崎さん、お早ようございます。ええ、ただ今、靴をはいているところで……文ちゃん、何を寝ぼけたことか、こんなに早々と、おホホホ……。え? 何でございますって? 今日会社お休みですって? まあ、いいえ、ちっともそんなこと申して居りませんわ。はあはあ、南京鼠の改良種をね。まあ、左様でございますか。え? ちょっと、お待ち下さいませ。』

 エミ子は、電話口を手で蓋して、如何にも吃驚したような顔で文太郎君に詰問しました。

『文ちゃん。今日お休みだっていうじゃありませんか? どうしたって云うこと? あなた知らなかったの?』

『そ、そんな馬鹿な!』あらためて、正しく左の靴を穿き終った文太郎君は、些か面喰った様子ではげしく首をふりました。『とんでもない、何もかも、みんな四月馬鹿だ!』

『だって、山崎さんたら、今日、文ちゃんと南京鼠の競進会を見に行く筈だったって、そう云ってるの……

『な、な、何が、南京鼠だい! もう沢山だ。四月馬鹿、四月馬鹿!』文太郎君は、ステッキを引つかむと、身をひるがえすように外へ飛び出して行きました。

『待ってよ。文ちゃん! 文ちゃん! お待ちなさいってば!……』エミ子は周章てて、受話器をかけて、門口迄追いかけたのですが、文太郎君は一散走りに通りへ曲って行ってしまいました。


 富士山が見える媾曳


 エミ子は不安な予感にかられました。そう云えば、今日から新しく春外套に着かえたし――四月になって冬外套も着ていられまいと云えばそれ迄だけれども、併し何時だって、抱えて出る筈の折鞄フォリオも、今日に限って置いて行ったし、こんなに早過ぎることを承知で周章てくさって飛んで行ったのは――エンミイが四月馬鹿にしようと思って時計をすすませて置いたのを、気がついていながらワザといいことにして、出掛け迄黙っていたらしいことは確かだ。

 疑ってみれば、疑える節々が思い当らないでもなかったのです。直ぐ会社へ電話で問い合せてみようかとも考えたのですが、夫の勤め先が休みか否か解らないでいるなんて、そんな恥しい、可哀相な女房になるのは、自尊心が許さなかったので止すことにしました。

 エミ子はしょんぼりと、茶の間に坐って考え込んでいましたが、やがて帯の間に挾んだ手を抜いて、思いついたように夫の置いて行った折鞄を開けて、中味を仔細に点検してみました。昨日の夕刊が二枚と、『探偵小説全集』が一冊と、『南京鼠の合理的長命法』と云うパンフレットと、古い帝国ホテル舞踏会の案内状が一枚出て来たばかりでした。

 エミ子は、それから、文太郎君が昨日迄着ていた冬外套を持ち出して、ポケットをすっかり裏返して見ました。

 ところが、胸のポケットから、ハンカチと一緒に小さな紙片のまるめたのが飛び出して来たので、その皺をのばして見ると、それは会社の便箋紙で、何と次のような片仮名が、電報みたいに並んでいるのでした。

 エノシマヘフタリッキリデデカケルノイヤ? フジサンヤウミガミエルアイビキ!

『江の島へ二人っきりで出かけるの厭? 富士山や海が見える媾曳――だって。まあ! あきれた。何て図う/\しい……』エミ子は蒼くなって、泪をポロポロ滾して口惜しがりました。まことに無理もない次第です。何も浮気をするにことを欠いて、江の島へ行かなくとも!エミ子は、どんな男刈ガルソンスにした奥さんにだって負をとらない位、近代夫婦生活の新様式を理解しているつもりだったのですが、それだから尚更のこと堪え難い侮辱でした。

 と云うのは、実は一昨日の日曜に彼女は文太郎君に向って、

『春の海辺を歩き度いわ。靴も沓下ストッキングもぬいで、裸足で砂を踏んで歩くの。楽しかあない?』

『うん。』

『江の島へ連れてってよ。いや?』

『ああ。でも、今日は調べ物があるんでね。その中に、伊豆あたりへ遠出するように心がけようじゃないか。第一江の島なんて、弁天さまに対してだって、今更気恥しくって歩けやしない。フロリダとでも云うんならいいがね。』

『日曜のダンスホールなんてご免よ。あたし、海の風に吹かれ度いの。』

『誰がダンスホールの話をしたい? 江の島へ行き度ければ一人で行っておいで!』

『よくってよ。行かないわ。』『怒ったのかい?』

『エンミイ、いい子よ。そんなことで、怒ったりなんぞしないわ。その代り今度もっと暖かになったら、本当に遠くへ連れてって下さらなけりゃ厭あよ。』そんなわけで、エミ子は折角の春日楽しい日曜を、家にいて『収入一割貯金法』を読んだり、近所の子供に表情遊戯アンダースタンディングを教えたりして温順しく過ごしたのです。そして、文太郎君の調べ物と云うのは、例によって、南京鼠の運動神経組織改良と云うようなものでした。

 それだのに、その言下に軽蔑し去った江の島へ、密女と共に遊びに出かけると云うのなら、いくら春のバンジョーのように朗らかな気立てのエンミイ夫人でも、腹に据えかねるのが当然です。

  わが唇は生まれのままに朱し

  人妻なりきとて何の咎めそ

  …………

 巴里の時花歌を、泪の塩の辛い口笛で吹きながら、エミ子は姿見に向って、お化粧をはじめました。シュタイン会社製舞台化粧用の三番ピンク色のパフを、はたいてもはたいても、細い泪が溝をつけてしまいます。眼の縁に、思い切って空色の顔絵具を入れました。

 化粧が終ると、エミ子は、親類中で爪弾きをされている従兄の、また従兄位に当る音楽学校を退学されて、今は銀座の蓄音器屋の嘱託しているピアニストの雄吉君のところへ電話をかけました。この男は、自分が年齢の半分も子供に見られ度がる嗜好から、自ら『お雄坊』と名告っていると云う程の品質たちで、エミ子さんが結婚する前には、幾度か付け文をしたことのある男です。

『――モシモシ、お雄坊? 今日、いいお天気ね。暇? え、暇だけど、暇なんかには飽きてるって?……そう、あのね、これから江の島へ連れてって上げようか? 嘘なもんか、本当さ。行きたけりゃ、余計なことを云わずに、直ぐ仕度をしておいで。だけど、あんまり気障な姿なりして来ちゃいけなくってよ。』

 エミ子はそれから、黒地のフロックの首や手首に金箔の条を巻きつけた洋服を着て、真赤なお椀帽子をかぶって、待っていました。ペンギン鳥の恰好をした手提げのお腹には、勿論ありったけのお紙幣さつと銀貨とを押しこみました。

 やがて、雄吉君が桃色みたいな派手なゴルフ服を着て、鼻眼鏡をかけてやって来ました。

『やあ、金ピカだなあ! 金ピカのグレタ・ガルボオですか。迚も素晴しいや。』と、雄吉君はエミ子の姿を眺めて、大袈裟に驚いてみせました。彼は、エミ子さんが、何だって自分をこんな風に優しい方法で思い出して誘ってくれたのか、全く嬉しさに燥ぎきっている様子でした。

『お雄坊を世間の知らない人が見て、あたしの旦那様だと思ってもそう不似合いじゃない位、立派にしていてくれなくちゃ駄目よ。』

 エミ子さんは、鳥渡ばかり青い眼ぶたを伏せるようにして、そう云いました。

『よろしいですビアン。お嬢さんマドモアゼル!』雄吉君は手をこすり合わせながら、お辞儀をしました。

『あたしが、お嬢さんだって……奥さんと云って頂戴。……あたしの靴なんか揃えてくれなくたっていいのよ。男の癖にみっともない……』二人はこうして、江の島へ出かけて行きました。


 いいん いん いん


 わざと小田急には乗らずに、東京駅から鎌倉へ行って、鎌倉から幌を取らせた自動車で稲村ヶ崎を抜けて、海辺づたいに真直ぐに、江の島へ向いました。

 おそらく一二時間先に、文太郎君とその恋人とが江の島に着いているとすれば、まず人目の少い片瀬から七里ヶ浜の砂浜辺りで、肩すり寄せて語らい合っているかも知れないと思われたからです。浜辺にいる人からも必ず、松林の縁の街道を走る自動車の姿は一目で見える筈だし、そうすれば、幌なしの座席に相乗りしたアメリカの活動役者の恋人同士のように颯爽たる男女の様子は、この上なく羨ましい光景として見送られるに相違ないのです。

 けれども、七里ヶ浜の銀色に光る砂にかざす色あだめいたパラソルは幾つとなく点在し、そしてそれらの多数の傍には、それぞれ嬉しい人達がくっついていたにも拘らず、肝心の文太郎君の姿は一向に見当らなかったのです。

 それで、エミ子は、片瀬で自動車を乗り棄てると、先刻から富士の秀麗を讃嘆しようが、春の海の香りが風信子(ヒヤシンス)よりもすぐれていはすまいかと同意を求めようが、更にエミ子が取り合ってくれないので、遉に気を腐らしている雄吉君を従えて、長い長い桟橋を渡って、江の島の音に聞えた険路を急ぎ足で一巡し、岩屋の奥迄尋ね尽したが、その甲斐もなかったのです。まさか宿屋を聞いて廻るわけもならず、エミ子はすっかり気抜けがしてしまいました。――ひょっとして、岩本樓あたりに憩やすんでいるのかも知れない。どうせ昼飯前なのだから、自分達も憩んでもいいと考え、岩本樓の石の門の前に足を止めたのですが、その時雄吉君が俄かに元気づいて、『――岩本院の稚児上がり、平素着なれた振袖から……』と、壊れた鞴のような声を出したので、吃驚して逃げ出しました。

『誰が、そんな声色を聞かしてくれって云って?』エミ子さんは癇癪をピリピリさせて、可哀相なピアニストを叱りつけました。『あんまり見っともない真似をすると、ほんとに追い返すわよ。』

『だって、初めっから、僕が来たいって云い張ったんじゃないんですからね。』雄吉君は鼻をならしました。『僕たちは一体この春の最も楽しい一日に、何しに此処迄出かけて来たのかしら。徒らに……

『お黙んなさい。あんたは唯あたしの御亭主として、恥しくないように控えていればいいのよ。』

『だって、御亭主なら御亭主らしく、女房の腕をかかえるとか何か、もっとこう、幸福感を味わう機会があってもいい筈です。』

『贅沢云うなら、サッサと帰って頂戴。そんな幸福感を味わっちゃったら、あんたはあたしを、恰まるで女房かなんかのような気がするでしょうよ。馬鹿々々しい!』

『エミちゃんは、どうしてそうロマンティストになり切れないのかなあ。』

『背負しょっちゃ駄目よ。――それよりか、ちょいと水族館でも覗いて見ないこと?』エミ子は、ぶすぶす云っている雄吉君を連れて水族館へ入りました。水族館にも、文太郎組の姿は見かけられませんでした。

 亀の子、泳いでいる大章魚だこ、あなご、ごんずい……大して面白い見せ物ではありません。併し、あの物凄い『猫鮫』だけは当館第一の怪物です。雄吉君は、長いことその前に立ち止っていました。『猫鮫』みたいな醜怪なる化物を、この世で初めて、エミ子もお雄坊も見せつけられたのです。

 あれを眺めた者は、誰だって覚えずにはいられない本能的憎悪を、雄吉君は人一倍にしつこく、強く感じたらしかったのです。

『畜生、一つブン殴ってやり度いな。ステッキを持って来なかったのが何より手ぬかりだった。』と、彼はいたく口惜しがりました。

『ほんとに憎らしいこと。家のブン大将が怒った時とそっくり……

『てへッ。何とか仰有られたようですな。』

 雄吉君は、到頭我慢がなり兼ねたと見えて、足もとに転がっていた砂利の一番大きそうなのを拾うと、いきなり猫ザメめがけて投げつけました。けれども怪物はビクともしないで、却って、ニヤリと笑ったとも思えるような工合に白い鋭い歯をのぞかせて、あぶくを二つ三つ噴き出してみせた位です。

『お止しなさい。雄ちゃん、見つかると叱られてよ。』

 エミ子は雄吉君を止めました。

 ところが、それでもきかずに、猶なお幾度か化物の折檻をこころみている中に、雄吉君はつい誤って、小石を硝子枠にぶつっけてガチャン! と、大きな硝子を一枚破ってしまったのです。番人が仰天して、遠くの方から馳けつけて来て、雄吉君を取り抑えました。それでエミ子は、さんざん詫びた末、五円の弁償金を代りに払ってやりました。そうしてほうほうの体で逃げ出さなければなりませんでした。

 再び桟橋を渡って、片瀬から今度は鵠沼の方へ続く寂しい海岸を暫らく見て廻ったのですが、これもやっぱり甲斐ないことでした。エミ子は、何とも云えない遣るせない気持になって、また泣けて来そうでした。お雄坊の前なんかで不覚の泪を流すのは辛かったので、それに陽ざしもそろそろ赤くなって来ていたし、思い諦めて江の島遊園地を引き上げました。

 東京へ帰ると、もう日が暮れていました。高架線の上から銀座の灯を眺めた時、エミ子さんはほんの少し元気になりました。

『お雄坊、お腹が空いたでしょう。あたし、些も気がつかなかった。ご免なさいね。』

『うん、まるで破れた大太鼓みたいに空っぽになった。』

『いいわ。サンタモニカの晩御飯を御馳走して上げてよ。』

 そこで、東京駅から銀座裏へ引っ返して温い西洋料理の食卓につきました。雄吉君は、食後にウイスキイを二三杯ねだって飲まして貰うと、俄かに勇気を出しました。

『実はね、先刻から訊こう/\と思っていたんだけど、此の頃エミちゃんの処で、誰か赤ちゃん生んだ人ない?』

 と、雄吉君は赤い顔をテラテラさせながら、突然そんなことを云い出したものです。

『赤ちゃん? あたしでも生まなけりゃ、真逆、ブン大将が生む訳はないでしょう。莫迦なことを云うもんじゃなくってよ。』

『うん、僕もエミちゃんのお腹を見て、妙だと思ったんだけど――変だなあ、でも、まあいいや。』

『どうしてそんなこときくの?』

……』雄吉君は、飛んでもないことを云い出して、ひどく困ったと云うような顔をしました。

『え? 誰かそんな噂でもしたの?』

『ううん……どうだっていいことなんだよ。』

『いいこたあないわ。はっきり仰有い。……云わないの? じゃあ、もう聞かないわ。』

『困ったなあ。実は一週間ばかり前に、文太郎さんと銀座で会って、一緒に富士屋でお茶を飲んでいたら、恰度其処へ来合せたお友達らしい人へ文太郎さんが、これは未だ内証なんだがね。今度とても素晴しい子供が生まれたよ。四月一日には誕生祝賀会をやるから是非出席してくれたまえって、云っていたんです……それで、「赤ちゃんが生まれたんですか?」って僕が聞くと、黙ってニヤニヤ笑っていたけど……だから。』

『あんた! あたしの子だと思ったの?』

『ええ。だから、エミちゃんから電話をかけられた時には吃驚したんだけど、でも、僕なんかに解らないことがあるかも知れないし、僕は何だか、エミちゃんが可哀相になっちゃって』

『大きなお世話よ。――あたし、もう帰るわ。左様なら。』

 エミ子は、呆気にとられている雄吉君を置いてサッサと食堂を飛び出しました。

 ところが――エミ子が、文太郎君の怪しい所業の数々に身も世もなく心細くなって、誰もいないところで精いっぱい泣き度い程の気持で、家へ帰ってみると、さて文太郎君が凡そ上機嫌で彼女を抱きかかえてくれたのです。

『江の島の春はよかったかい?』

『まあ! 知らないわ……』エミ子は夫の腕の中で身もだえして泪にむせびました。

『エンミイが江の島へ行き度い/\って、せがむからさ。』

『誤魔化そうとしても駄目々々。あたし、あの便の文句を読んだのよ。』

『エノシマヲフタリッキリサンポスルノイヤ? フジサンヤウミノミエルアイビキ!……五字ずつ飛ばして読んでごらん。エから五字目がフ、フから五番目がリ……ルそれからフ、ウ、ル……四月馬鹿さ。はっはっはっ……

『あら!……

『僕が今日何処にいたかってことは、エンミイの大嫌いな南京鼠協会へ問い合せれば直き解かるよ。実は、僕がエンミイに内証で手がけた南京鼠が迚も素晴しい新種の子供を生んで、それが首尾よく仏蘭西へ輸出する見本として通過したので、今日は大祝賀会が開かれ、僕は、その上、巴里のシュバリエ商会から五千円の権利金を貰うことになったんだよ。……これは、正真正銘の本当だ。四月馬鹿じゃないから安心おし。お前の大嫌いな南京鼠のお蔭で、今度の日曜あたりには、伊豆の温泉へでも何処へでも遠出が出来ると云うわけさ。』

『いいん、いんいん、いんいん……』エミ子は文太郎君の胸に顔を埋めて、思いのたけ泣いてしまいました。


「アンドロギュノスの裔」薔薇十字社 

1970(昭和45)年91日初版発行より

posted by koinu at 13:00| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

エイプリルフールの日

【四字熟語】
四月馬鹿

【読み方】
しがつばか

【意味】
エイプリルフールのこと。4月1日に嘘をついても許されるという風習において騙された馬鹿者のこと。

【語源・由来】
由来は複数あり。
@ノアの箱舟の話から、ノアが、彷徨う方舟から陸を探す為にハトを放ったが、何も見つけられずハトが戻ってきてしまった。その日がちょうど4月1日だった。それで、ムダな日ということでウソをついていい日としてエイプリルフールが生まれたという説。
A16世紀の西欧では、3月25日が新年で4月1日まで春の祭りを行っていた。ところがフランスのシャルル9世が、1月1日を新年とする暦を採用すると発表。反発した市民が4月1日をウソの新年として馬鹿騒ぎをするようになったという説。
Bインドでは3月の終わりの1週間仏道の修行をしていたが、それが終わった日に、修行によって得られた覚りの心境を忘れてしまわない為に、皆の前で発表したのが四月馬鹿の起こりという説。

posted by koinu at 10:00| 東京 ☀| 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

デイヴィッド・リンドリー特集NHKFM ウィークエンドサンシャイン

4月1日7時20分から9時放送
ピーターバラカン解説
01. Egyptian Gardens / Kaleidoscope // Side Trips
02. Late For The Sky / Jackson Browne // Late For The Sky
03. Little Sister / Ry Cooder // Bop Till You Drop
04. El Rayo-X / David Lindley // El Rayo-X
05. Mercury Blues / David Lindley // El Rayo-X
06. Brother John / David Lindley & El Rayo-X // Win This Record
07. Do Ya’ Wanna Dance? / David Lindley & El Rayo-X // Very Greasy
08. To Know Him Is To Love Him / Emmylou Harris, Dolly Parton, Linda Ronstadt // Anthology - The Warner/Reprise Years
09. Casey Jones / Warren Zevon w. David Lindley // Deadicated
10. Hana / Tarika Sammy w. Henry Kaiser & David Lindley // A World Out Of Time, Henry Kaiser & David Lindley In Madagascar
11. Jealous Guy / Pahinui Brothers (w. Ry Cooder & David Lindley) // Pahinui Brothers
12. Rocket In My Pocket / The Bottle Rockets and David Lindley // Rock And Roll Doctor - Lowell George Tribute Album
13. Soul Of A Man / David Lindley // Big Twang
14. Greenhouse Gases / Henry Kaiser, David Lindley // Music For Werner Herzog's Encounters at the End of the World
posted by koinu at 09:00| 東京 ☀| 音楽時間 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする