2021年02月03日

句集「此処」池田澄子(朔出版)

◆『此処』12句抄 

初蝶来今年も音をたてずに来 

私生きてる春キャベツ嵩張る 

桜さくら指輪は指に飽きたでしょ 

大雑把に言えば猛暑や敗戦日 

ごーやーちゃんぷるーときどき人が泣く 

玄関を出てあきかぜと呟きぬ 

散る萩にかまけてふっと髪白し 

粕汁の雲のごときを二人して 

偲んだり食べたり厚着に肩凝ったり 

この道に人影を見ぬ淑気かな 

生き了るときに春ならこの口紅 

柚子の皮刻み此の世よ有り難う 

〈第72回読売文学賞作品より〉


口語を駆使した俳句で人気の池田澄子が、80代を迎えて直面したのは 親しい句友、そして伴侶の死。 

亡き師へ、友へ、夫へ――語りかけるように、優しく切なく真っ直ぐ言葉で、 この世の「此処」から放つ380句。 前作『思ってます』以後、待望の第七句集。


◆「あとがき」より 俳句を詠むその時の思いは、この地球に何故か生まれたマンモスの、狼の、 金魚の菫の人間の、偶然に生まれ合わせたもの同士の偶然の出会いと別れの、 その数知れぬことの一つとして書こうとした。 

少なくともペンを持っているときの私の大小の悦びや嘆きは、 此の世に在る万物の思いの一つであった。 


◆池田澄子(いけだすみこ) 

1936年、鎌倉に生まれ、新潟で育つ。 30歳代の終り近く俳句に出会う。1975年、「群島」入会のち同人。 1983年より三橋敏雄に私淑、のち師事。 「俳句評論」を経て、1988年「未定」「船団」入会。 1995年「豈」入会。 2020年3月、「トイ」創刊に参加。 

2020年6月、「船団の会」散在。 

句集に、『空の庭』『いつしか人に生まれて』『ゆく船』『たましいの話』『拝復』『思ってます』『現代俳句文庫29・池田澄子句集』。 散文集に、『休むに似たり』『あさがや草紙』『シリーズ自句自解1・ベスト100』。 対談集 に『兜太百句を読む・金子兜太×池田澄子』。 現在「トイ」「豈」所属。第72回読売文学賞。


◆自選十五句より 
人たちよ駅に寒しと相知らず 
籠に蜜柑テレビのテロップに「爆破」 
年越し蕎麦の蕎麦湯暗渠に合流す 
此処あったかいよとコンビニエンスストアの灯 
心配をしながらリラを嗅いでいた 
夜目遠目染井吉野は花ばかり 
アマリリスあしたあたしは雨でも行く 
河骨や大人になり老人になり 
夕凪や寄港のたびに船古び 
わが晩年などと気取りてあぁ暑し


『池田澄子句集』抄

瞬いてもうどの蝶かわからない

閉経までに散る萩の花何匁

青い薔薇あげましょ絶望はご自由に

じゃんけんで負けて蛍に生まれたの

まいまいに生まれずまいまいを愛す

これ以上待つと昼顔になってしまう

生きるの大好き冬のはじめが春に似て

クリスマス熟睡の猫抱いてあげる

セーターにもぐり出られぬかもしれぬ

ピーマン切って中を明るくしてあげた

私より彼女が綺麗糸みみず

あめんぼがあめんぼを見る目の高さ

着ると暑く脱ぐと寒くてつくしんぼ

山彦や知らなくてもよいけもの道

鯣マラルメ年の始めが暇である

いつしか人に生まれていたわ アナタも?

小一時間噴水を見たり見なかったり

蝉殻を見つけオーイと男親

魚図鑑にデンキウナギがいつも一匹

枝垂桜わたくしの居る方が正面

想像のつく夜桜を見に来たわ

行く先はどこだったよくさくらさくら

舟虫のあつまりづかれしておる

さむいさむいと夜が好き雪が好き

おーいおーいと永久にあなたを呼ぶ山彦

藤壺の生死のほどがわからない

一旦緩急ありし山河よ蚊柱よ


「池田澄子句集」(現代俳句文庫)より

posted by koinu at 10:03| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする