それが原初的な愛だからといって、素直に了解するわけにはゆかず、それが否定し得ぬ美徳に彩られた万代までの語り草だからといって、いちいち感嘆の声を発するわけにはゆかず、それが危急存亡の時の前座にすぎぬ些細な悲劇だからといって、笑い飛ばすわけにはゆかず、それが相手の出方を過たずに見るとびきりの冷静さだからといって、微塵も疑わぬまま尊敬するわけにはゆかなかった。(「われは何処に其丿七」より)
あなたのすぐ隣にあるかもしれない8つの生を描いた掌編小説集「われは何処に」と、〈風人間〉を自称する泥棒の独立不羈、かつ数奇な人生を連作形式で描く掌編小説集「風を見たかい? 」を収録。
【目次】
我々は何処に
其之一
其之二
其之三
其之四
其之五
其之六
其之七
其之八
風を見たかい
軟風を追って
夜嵐をついて
海風に乗って
吹雪をよぎって
緑風に魅せられて
高嶺風に倒されて
熱風をかき分けて
夕風に説き伏せられて
川風に流されて
白南風に溶けて
めくるめく語彙、彫琢した文章によってわずかな紙幅に凝縮された、さまざまな人間の営み!
丸山健二
1943年、長野県飯山市に生れる。国立仙台電波高等学校(現在の国立仙台電波工業高等専門学校の前身)卒業後、東京の商社に勤務。66年『夏の流れ』で第23回文學界新人賞を受賞。同年、同作で芥川賞を受賞し作家活動に入る。68年に郷里の長野県に移住後、文壇とは一線を画した独自の創作活動を続ける。また、趣味で始めた作庭を自らの手による写真と文で構成した独自の表現世界も展開している。近年の作品に長編小説『我ら亡きあとに津波よ来たれ』(上・下)。『夢の夜から口笛の朝まで』『おはぐろとんぼ夜話』(全3巻)、エッセイ『人生なんてくそくらえ』、『生きることは闘うことだ』などがある。2017年より『完本 丸山健二全集』刊行開始。