2020年08月02日

『稲垣足穂詩文集』講談社文芸文庫

《さあこれから管を吹きます、何が出るか消えぬうちにご覧下さい 理屈っぽく夢想的な人々のための小品》



「さあこれから管を吹きます、何が出るか消えぬうちに御覧下さい」

(「シャボン玉物語」より)


ある寒い一月のばん、公園の片すみにある酒場で、紳士連が新年宴会をひらいていました。宴のさいちゅうに、一人の紳士が、となりの紳士の耳元でささやきました。


「こんばんの集まりの中には、じつは人間に化けた星がまじっているよ」


(「タルホ拾遺――クリスマス前菜として 第一話 冬の夜のできごと」より)


街かどのバーへ土星が飲みにくるというので しらべてみたらただの人間であった その人間がどうして土星になったかというと 話に輪をかける癖があるからだと そんなことに輪をかけて 土星がくるなんて云った男のほうが土星だと云ったら そんなつまらない話に輪をかけて しゃれたつもりの君こそ土星だと云われた

(「土星が三つ出来た話」より)


94ED89EA-44D6-4AA1-8B2C-3B358A206AEB.jpeg

『稲垣足穂詩文集』講談社文芸文庫

収録作品

シャボン玉物語(馬をひろつた話/どうしてその煙草を吸ふか?/ピエロー登場/カイロから帰つてきた人の話/Aの気転/追つかけられた話/無用意な誘拐/朱唇の力/レモン水の秘密/客と主人/停らない理由/本が怒つた話/ジエキル博士とハイド氏)/香炉の煙(笑/夕焼とバクダートの曾長/李白と七星/東坡と春/黄帝と珠/ビバヤシヤと芥子粒/盗跖と月/王と宝石商人/老子と花瓣/10 荘子が壺を見失つた話/11 アリババと甕/12 墨子と鳶/13 アリストフアネスと帆/14 ふる里)/瓦斯燈物語/忘れられた手帖から/バンダライの酒場/星が二銭銅貨になつた話/タルホと虚空理屈つぽく夢想的な人々のための小品/坂でひろつたもの−A CURIOUS EPISODE/芭蕉の葉−A MOONSHINE AFFAIR/秋五話魚眠洞主人によせる(詩をつくる李白/僧と木の実/薬山と月/杜甫が夜中に忍び足をきいた話/竹林)/散歩しながら/僕はこんなことが好き赤い服とムービイを愛するあなたに/戦争エピソード/滑走機/僕の五分間劇場/宇宙に就て/生命に就て/物質に就て/人間に就て/薔薇(ダンセニイ)/詩人対地球(ダンセニー)/へんてこな三つの晩(パツパツと消えてしまつた話/すぢを引いて走つた話/アセチリンがうまく点らなかつた話/もう一つ)/ハイエナ追撃/カールと白い電灯/空中世界/月に就て/晩二つ/戦争/質屋のシヨーウインドー/タダ/一筆啓上/物質の将来仮面の人々へ/羽根なしの歌へる/青い壺−Ein Marchen/東洋更紗(私と木の竜/老子と藁の犬/黄帝と谷/ロバチエウスキイの箱)/犬の館(犬の館/月夜の不思議)/空の寺院/仙境夏至のお祝ひに/ピエトフ/青い独楽/時計奇談/兎の巣/円錐帽氏と空罎君の銷夏法/善海(ぜかい)/星は北にたんだく夜の記/タルホ拾遺クリスマスの前菜として(第一話 冬の夜のできごと/第二話 再び妙な空気になった話/第三話 月の出前の事件/第四話 へんな処を突き抜けた話/第五話 夜店を出そうとした話/第六話 ホテルの一夜/第七話 かぶと虫にやられた話/第八話 泣き上戸)/白いニグロからの手紙/ある旧友からの音信/わたしのLSD(土星と酒場/ロビーにて/加速剤)/キャプテン・カポロを送る丸山薫追悼/空と美と芸術に就いて/雲雀の世界僕のアブストラクト/ギリシアと音楽「詩の倫理1」/まことの愛「詩の倫理2」/花と存在「詩の倫理3」/反時代的な詩観「詩の倫理4」/無限なるわが文学の道/私の耽美主義/タルホ入門/機械学者としてのポオ及現世紀に於ける文学の可能性に就て/貴婦人はアランポエポエとす ☆解説:中野嘉一(『稲垣足穂全詩集』宝文館出版版より)


『稲垣足穂全詩集』中野嘉一編(1983年宝文館出版)を増補した思潮社の現代詩文庫版『稲垣足穂詩集』を再刊した。現代詩文庫版に収録されていた、西脇順三郎「悪魔学の魅力」、中野嘉一「稲垣足穂論反自然の思想と少年愛」、鈴木貞美「タルホをめぐる星座」、高橋陸郎「誘惑者私の稲垣足穂入門」は削除され、足穂の4篇のエッセイを追加している。20203月刊行。


「だから私の処女作「一千一秒物語」の中では、お月さんとビールを飲み、星の会合に列席し、また星にハーモニカを盗まれたり、ホウキ星とつかみ合いを演じたりするのである。この物語を書いたのが十九歳の時で、以来五十年、私が折にふれてつづってきたのは、すべてこの「一千一秒物語」の解説にほかならない。」

(「無限なるわが文学の道」より)

posted by koinu at 14:00| 東京 ☀| 観測 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『太陽』特集:稲垣足穂の世界(平凡社)

1991年12月号 A4判 P200

全200ページのうち特集66ページ。


ある夕方 お月様がポケットの中へ自分を入れて歩いていた 坂道で靴のひもがとけた 結ぼうとしてうつ向くと、ポケットからお月様がころがり出て 俄雨にぬれたアスファルトの上をころころころころどこまでもころがって行った お月様は追っかけたが お月様は加速度でころんでゆくので お月様とお月様との間隔が次第に遠くなった こうしてお月様はズーと下方の青い靄の中へ自分を見失ってしまった

(『一千一秒物語』稲垣足穂より)


目次:

【特集 稲垣足穂の世界 タルホスコープ33】

地上から天上へ(高橋睦郎)

稲垣足穂の世界 TARUHOSCOPE33(写真:細江英公、今道子)

 {少年(川本三郎)/数学(森毅)/天体(楠田枝里子)/月(竹宮恵子)/ヒコーキ(堀切直人)/星(野中ユリ)/色鉛筆(矢川澄子)/A(比留間久夫)/かものはし(荒俣宏)/チョコレット(白石かずこ)/三角形(高橋宏輔)/シガレット(浅川マキ)/シネマトグラフ(巖谷國士)/サドル(渡辺一考)/壜(谷川渥)/弥勒(松山俊太郎)/未来派(田之倉稔)/キネオラマ(久世光彦)/軍艦(池内紀)/ゼンマイ(大辻清司)/菫色(松岡正剛)/パル・シティ(中村宏)/禁欲(大須賀勇)/箱(種村季弘)/放浪(龍膽寺雄)/におい(村田喜代子)/電飾(椿實)/光(佐伯順子)/ヴァリアント(高橋康雄)/逆流(鎌田東二)}

コメット・ライブラリー(高橋康雄)


【連載】

エクリチュールの風景5 マンハッタンの眺め(海野弘 銅版画:牛尾篤)

酒あるいは人5 ウゾー ギリシャのロケ地にて(池部良 イラスト:杉田比呂美)

モードのフィールド・ワーク

 {アートの変容(川田紀雄)/美術遊覧(松山巖、梅田一穂)/映画の遠近法(荻野アンナ、長谷川集平)/空間探訪(松葉一清、坂井直樹)/新しい本(浅井香織、伴田良輔、今福龍太)/スポーツの真髄(安部譲二、久間十義)/写真を読む(塚原史、大島洋)/音楽の愉悦(柴田南雄)/地中海式ダイエット}

蕎麦読本6 角正の巻(宮下裕史)

エスニックを手ほどき6 水で薄めても、大勢で食べたいフェジョアーダ(吉永みち子 写真:瀬戸山玄)

小石川御家人物語6 大きな江戸の小さな屋敷(氏家幹人 絵:蓮田やすひろ)

ひつじ飼いの偏愛的道具論6 ますます頼りの帽子(藤門弘 イラスト:佐々木梧郎)

池内紀のニッポン観光18 金毘羅船々 追風に帆かけて 讃岐路は万年筆奉納の旅(池内紀)

私が愛した映画6 迷うけれどもロッセリーニを選ぶ(マヌエル・プイグ 訳:堤康徳)

写真/論5 世界と身体のはざまで(構成・文:飯沢耕太郎 写真:里博文、後藤元洋)

古物で候6 ひあそび(菊地信義)

Hotel's Bar6 オリエンタルホテル セラーバー ラ・ランド(矢作俊彦 写真:伊奈英次)

光り輝く街々 没後100年、ランボーとともに幻影の都市をゆく(鈴村和成)

ゴアのクリスマス (Charlotte Anderson & Gorazd Vihar)

COLUMN ISLANDS

{あどけない夜空の話(春日了)/台風、台風、そして… 芦名の自然雑記帳から6(三木卓)/花と洞天の曲(宇佐美英治)/高速道路(渡辺隆次)/『プーシキン館』というテクスト ソ連文化通信3(井桁貞義)/90年代詩(正津勉)}

ワインのある暮らし(羽仁進、西尾忠久、川本恵子、宮下裕史、味見好三、田崎真也、有坂芙美子 写真:後勝彦)

posted by koinu at 09:51| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする