2020年07月27日

「アデスタを吹く冷たい風」トマス・フラナガン(早川書房)

 風が吹き荒さぶ中、闇を裂いてトラックがやってきた。運転する商人は葡萄酒を運んでいると主張する。だが職業軍人にして警察官のテナント少佐は、商人が銃の密輸人だと直感した。強制的に荷台を調べるが、銃は見つからずトラックは通過してゆく。

 次は必ず見つけて、武器の密輸入者は射殺する……謹厳実直の士、テナントがくだした結論は?

「復刊希望アンケート」で二度No1に輝いた7篇収録の名短篇集、ついに初文庫化。


【収録作品】

 アデスタを吹く冷たい風 The Cold Winds of Adesta

 獅子のたてがみ The Lion's Mane

 良心の問題 The Point of Honor

 国のしきたり The Customs of the Country

 もし君が陪審員なら Suppose You Were on the Jury

 うまくいったようだわね This will Do Nicely

 玉を懐いて罪あり The Fine Italian Hand


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1961年に日本で独自に編纂されたトマス・フラナガンの短編集。

<ハヤカワ・ミステリ>叢書のうち復刊希望アンケートで1998年と2003年の二度も最多得票。


トマス・フラナガン

1923年、アメリカのコネチカット州に生まれる。「玉を懐いて罪あり」で「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」の年次コンテスト最優秀新人賞を受賞してデビュー。その後もテナント少佐を主人公にした「アデスタを吹く冷たい風」で同コンテストの第1位を獲得。1961年、日本で独自に編纂されて「ハヤカワ・ミステリ」から刊行され、同叢書の復刊希望アンケートで、1998年と2003年に二度、最多得票を得た 


◆「アデスタを吹く冷たい風」

テナント少佐は国境を越えてアデスタ側へやってくるトラックが銃器の密輸をしてると睨んでで捜査を始める。だが運転手ゴマールが主張するには運んでいるのは葡萄酒だけ。樽には葡萄酒しか入っていない。果たして武器の輸入など存在しないことをどの様に突破するか?

 

◆「獅子のたてがみ」

テナント少佐はモレル大佐からある暗殺を命じられる。殺害対象はアメリカからの医師ロジャーズで、スパイ容疑がかかっている。少佐は部下のラマール中尉に射手を務めさせ、殺害後に少佐と中尉は審問官から尋問を受けるのだが。


◆「良心の問題」

戦時中にドイツの収容所に入れられていた男ブレーマンが射殺された。現場で取り押さえられたドイツ人のフォン・ヘルツィヒ大佐の尋問をテナント少佐が担当した。被害者の主治医であったアメリカ人医師コートンはフォン・ヘルツィヒを戦犯として合衆国政府に引き渡すべきと主張する。しかし将軍は国際問題化することを避けてフォン・ヘルツィヒ大佐を他国に逃亡させようとした。将軍の命を受けたテナント少佐は、フォン・ヘルツィヒ大佐を乗せた飛行機が離陸するまでの時間、コート医師に向けてある御伽噺を語って聞かせる。


◆「国のしきたり」

国境を超える列車の関税ジムを担当するバドラン大尉は特務機関から「ある種の物質」が密輸される恐れを知らされる。その情報を個別のルートで入手したチョーマン旅団長とテナント少佐が訪れ、バドラン大尉が次々と些細な密輸犯をとらえていく様子を観察してくのだが。


◆「もし君が陪審員なら」

3人目の妻を殺害した容疑で起訴されたカルヴィン・ラッドを弁護士アメリイは見事無罪にする。だがラッドの養父と3人の妻全員が不審死を遂げて、アメリイ自身が嫌疑をぬぐえない。財産目当ての殺人でもなさそうである。妻3人のうち2人は資産家でもなんでもないのだから。


◆「うまくいったようだわね」

ヘレン・グレンデルは自宅アパートで夫のアレックを射殺したあと、顧問弁護士のティモシイ・チャンセルを呼んだ。自分が裁判にかけられずに済む方法はないかと尋ねる彼女に、彼は精神錯乱や偶発的事故だったなどのシナリオを考えるが、どれもうまくいきそうにない。そこで強盗が侵入してきたという筋立てを考えるのだった。


◆「玉を懐いて罪あり」

15世紀、都市国家が群雄割拠するイタリア半島で、チェザーレ・ボルジアはフランス王ルイ12世に緑玉を献上する企図した。イタリア北方のモンターニョ伯が仲介役を引き受けるが、フランス側に渡る前に緑玉が伯の城内で盗難に遭ってしまう。ボルジア家によって派遣された使臣とフランス王の大使ヴィールフランシュ侯とが伯の城に集って見守る中、事件の中心人物に対して尋問が始まる。


<本格ミステリのファン、ハードボイルドのファン、江戸川乱歩が言うところの「奇妙な味」のファン、そして歴史ミステリのファンを、同時に満足させ得る短篇集は果たして存在するのだろうか。存在する、と私は考える。トマス・フラナガンの『アデスタを吹く冷たい風』(一九六一年七月、ハヤカワ・ミステリ刊)という実例があるからだ。(解説より)


テナント少佐の魅力は「面従腹背」ままの振る舞い。ブラウン神父を思わせる推理力と解決力、意外な犯人。旧仮名字が多いので、今の若い人たちが読みにくい翻訳となっている。


《本書タイトル「アデスタを吹く冷たい風」のプロローグ》


「ヘッドライトが見えました」

 若い少尉がいった。「いよいよやってきます」

 少尉は毛皮の襟をつけた大外套で、塵埃の条(すじ)がついているガラス窓から、山道のほうを見つめていた。

「ここまで、何分かかる?」

 テナント少佐がきいた。

「国境線から五分。その間、監視の眼を逃がれることはできません。ライトは隠せませんから」

 テナント少佐は、ポケットから葉巻を出して火をつけた。細巻の葉巻だ。風が哨舎を揺すって、たったひとつの窓を鳴らしている。

 少佐は椅子にかけたまま、天井を見上げていた。石油ランプの黄いろい灯が、こころぼそげにまたたいている。その光に浮かび上った少佐の顔は、少尉の眼にも、ひどく老けたものに映った。こけた頬、うすいわし鼻、左の眼は、影にかくれている。

「いつもこんなに荒れるのか?」かれはたずねた。

「ちょうど荒れる季節ですが、今夜はまた特別に荒れるようです」少尉は答えた。「山あいを吹き下ろしてくるせいですか――アデスタおろしといわれるくらいでして」


宇野利泰 〔訳者〕

1909年生、1932年東京大学独文科卒、1997年没、英米文学翻訳家

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ママは何でも知っている (ハヤカワ・ミステリ文庫)

毎週金曜の夜、刑事のデイビッドは妻を連れ、ブロンクスの実家へママを訪れる。ディナーの席でいつもママが聞きたがるのは捜査中の殺人事件の話。ママは簡単な質問"をいくつかするだけで、何週間も警察を悩ませている事件をいともたやすく解決してしまう。用いるのは世間一般の常識、人間心理を見抜く目、豊富な人生経験のみ。安楽椅子探偵ものの最高峰と称される〈ブロンクスのママ〉シリーズ、傑作短篇8篇を収録。解説/法月綸太郎。


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【収録作品】
ママは何でも知っている
ママは賭ける
ママの春
ママが泣いた
ママは祈る
ママ、マリアを唄う
ママと呪いのミンクコート
ママは憶えている


ジェイムズ・ヤッフェ

1927年、アメリカ合衆国シカゴ生まれ。15歳にして「エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン」に短篇「不可能犯罪課」が掲載され作家デビュー。イエール大学を卒業後、海軍を経て一年をパリで過ごし、1952年からはブロンクスのママを主人公にした短篇シリーズを発表。普通小説、テレビ・舞台の脚本なども手掛ける。現在はコロラド・カレッジの名誉教授 


小尾芙佐 

1955年津田塾大学英文科卒、英米文学翻訳家

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ピーター・グリーンさん死去、73歳 英バンド「フリートウッド・マック」創設

(CNN) 英国の人気ロックバンド「フリートウッド・マック」の創設メンバーの1人でギタリストのピーター・グリーンさんが死去したことがわかった。遺族の法定代理人が25日明らかにした。73歳だった。

法定代理人は、安らかに息を引き取ったと述べた。数日内に新たな声明が発表されるともした。

グリーンさんはロンドン東部の出身で、1965年にエリック・クラプトンさんの後任のギタリストとしてバンド「ジョン・メイオール&ザ・ブルースブレイカーズ」に加入。同バンドではミック・フリートウッドさんがドラマーを担当していた。

グリーンさんとフリートウッドさんはこの2年後にフリートウッド・マックを結成。その後、ベーシストのジョン・マクビーさんも合流していた。

ブルースロックのギタリストとして他のミュージシャンに影響も与えたグリーンさんは、フリートウッド・マックのヒット曲の一部を作曲。この中には「アルバトロス」「ブラック・マジック・ウーマン」「マン・オブ・ザ・ワールド」が含まれる。

同バンドがアルバム3枚を発表した後の1970年にバンドを離れていた。フリートウッド・マックはこの後、メンバーを増やすなど再編成の道を歩んでいた。

グリーンさんは1998年、フリートウッド・マックの他のメンバーと共にロックの殿堂入りを果たしていた。

CNN


Black Magic Woman

もうなんにも見えない

俺いら悪魔になりかけてる

魔法の杖を目覚めさせてしまった

そうさ魔法をかけられて

俺の心は石になったのさ

https://youtu.be/hRu7Pt42x6Y


Abbey Lord」にも多大な影響を与えたグリーンの緩やかな名曲。

https://youtu.be/KQ_wA_EvOoo

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