2020年06月13日

『マリオと魔術師』トーマス・マン(河出文庫)

 北イタリアの避暑地を訪れるドイツ人作家の一家。ある夜に町の劇場で魔術師が公演するのを一家で見に行く。観客を幻惑して、掌中におさめていく魔術師。わざと開始時間を遅らせて、観客の注意を集める。

 フロックコートにシルクハットに片眼鏡に口髭の衣装で人目を惹きつけて、高圧的な口調と慰める優しい口調を使い分ける。民族意識を高揚させて、魔術は目新しくないが、彼の動作に観客との巧妙な会話によって、舞台へと集中していく。得意技は催眠術で、数名の男女を躍らせる。そんな技は掛からないと頑強に抵抗する若者にも術を成功させた。観客は完全に魔術師の手中である。

街のレストランで給仕をする若い男マリオを舞台に上げて、魔術師はマリオの秘密を暴いてみせると、若い女の口調で彼を口説きだすのだったが。


 時はムッソリーニ率いるファシスト党が政権、不況とインフレ、社会不安のある中、人々は解決をする指導者を求めてしまう。そのとき理性的な判断が働かず、熱狂のうちに指導者を求めてしまうのだ。ナチスから追われることになるトーマス・マンは、早くから全体主義に対する危機感を持っていた。

 ファシスト的な陶酔から、マリオという狂言回しで、享楽舞台のカラクリを解体させる。

(トーマス・マン 1930

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『ポンペイ夜話』ゴーチエ

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紀元79年8月24日ヴェスヴィオ山の噴火で、ポンペイは一瞬で死の都となった。

ナポリ近郊へ遺構見学に、フランス人の学生たちが旅行にやってくる。その3人のうちオクタヴィヤンは博物館なものに強く興味を引かれた。溶岩に包まれて、乳房の輪郭などが艶めかしく浮き出た女性の押し型。この女性はどんな人だろうと想像すると胸が高鳴る。

その日の夜に、突然不思議な感覚に襲われて、壊滅する以前のポンペイへ跳ぶのだった。あの押し型の女性はアッリア・マルチェッラという。時の皇帝ティトゥス帝から解放された、奴隷ディオメデスの娘だった。理解できないまま不思議に身を委ねるオクタヴィヤンと彼女は、一夜をともにしようとする。時を超えた愛撫と交接。

「信仰は神をつくり、愛は女をつくり、誰からも愛されなくなったとき、はじめて人はほんとうに死ぬのです」

力強い祈りは、千年以上の距離をなくす。

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ピエール・ジュール・テオフィル・ ゴーチエ(Pierre Jules Théophile Gautier,1811830 - 18721023日)フランスの詩人・小説家・劇作家。文芸批評、絵画評論、旅行記も残した。

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