2020年05月16日

『ドゥルーズ 流動の哲学』宇野邦一(講談社学術文庫)

 没後20年を過ぎた今も世界中で多くの読者を獲得し続けている哲学者ジル・ドゥルーズ(1925-95)。初の単著『経験論と主体性』(1953)から『ニーチェと哲学』(1962)、『カントの批判哲学』(1963)を経て『ベルクソニスム』(1966)に至る哲学者のモノグラフィーを発表したドゥルーズは、続いて『差異と反復』(1968)と『意味の論理学』(1969)を解き放ち、世界に衝撃を与えた。進化を続ける哲学者は、次に精神分析家フェリックス・ガタリ(1930-92)との協働を始動させ、『アンチ・オイディプス』(1972)と『千のプラトー』(1980)という恐るべき著作を完成させる。その後、記念碑的な映画の哲学『シネマ』全2(1983年、85)、ライプニッツ論『襞』(1988)といった単著の執筆に戻ったドゥルーズは、最後にもう一度、ガタリとの共著『哲学とは何か』(1991)を発表。そして、1995114日、みずから命を絶った。 


本書は1976年から83年――『千のプラトー』から『シネマ』へと至る時期にドゥルーズ本人の薫陶を受け、その指導の下で博士論文を書いた著者が、主要著作の読解を通して師の歩んだ道のりをたどり直し、初めて1冊にまとめたものである。

 2001年に講談社選書メチエとして出された原著は、20世紀最大の哲学者の全容に触れたい人の「最初の一冊」として広く親しまれてきたが、このたび、大幅な加筆・訂正を経た決定版をお送りする。 


ひたすら愚直に、そして誠実に主要著作を読み解いていった約20年前の作業を現在のまなざしで見直した著者は、「いまはドゥルーズについて書くべきことを書き終えなければ、と思う。量ではなく、質の問題、いやまさに強度の問題である」と書いている。こうして生まれ変わった本書は、今後も新たな輝きを放ち続けるだろう。 


『ドゥルーズ 流動の哲学』宇野邦一(講談社学術文庫)目次


この本にいたるまで――学術文庫版に寄せて 

プロローグ――異人としてのドゥルーズ 

第一章 ある哲学の始まり――『差異と反復』以前 

第二章 世紀はドゥルーズ的なものへ――『差異と反復』の誕生 

第三章 欲望の哲学――『アンチ・オイディプス』の世界 

第四章 微粒子の哲学――『千のプラトー』を読み解く 

第五章 映画としての世界――イマージュの記号論 

第六章 哲学の完成 

エピローグ――喜びの哲学 

文献一覧 

あとがき 

学術文庫版あとがき 

ジル・ドゥルーズの生涯と主要著作


https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000337919


宇野邦一  1948年、島根県生まれ。パリ第8大学哲学博士。立教大学名誉教授。専門は、フランス文学・思想。主な著書に、『反歴史論』(講談社学術文庫)のほか、『アルトー』、『ジャン・ジュネ』、『破局と渦の考察』、『吉本隆明』、『土方巽』など。ジル・ドゥルーズの主な訳書に、『フーコー』、『アンチ・オイディプス』、『襞』、『フランシス・ベーコン』など。


《いま世界に蔓延しているのは、生命よりも、権力や諸々の欲望であり、観念であり、それが学や思想さえも侵食している。哲学を外部の生に向けて切開しようとしたドゥルーズたちの懸命な試みに逆行するように、アカデミズムを保持しつつ、哲学のフォーマットを確保するような試みが、一部でモードになっている。

生を否定する権利が今も跋扈する世界では、生の肯定のために、権利の勢力に対して激しい否定、あかり、笑いが向けられるのは自然なことだ。》

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原っぱには、何もなかった。

「原っぱ」 長田 弘


 原っぱには、何もなかった。ブランコも、遊動円木もなかった。ベンチもなかった。一本の木もなかったから、木蔭もなかった。激しい雨が降ると、そこにもここにも、おおきな水溜まりができた。原っぱのへりは、いつもぼうぼうの草むらだった。


 きみがはじめてトカゲをみたのは、原っぱの草むらだ。はじめてカミキリムシをつかまえたのも。きみは原っぱで、自転車に乗ることをおぼえた。野球をおぼえた。はじめて口惜し泣きした。春に、タンポポがいっせいに空飛ぶのをみたのも、夏に、はじめてアンタレスという名の星をおぼえたのも、原っぱだ。冬の風にはじめて大凧を揚げたのも。原っぱは、いまはもうなくなってしまった。


 原っぱには、何もなかったのだ。けれども、誰のものでもなかった何もない原っぱには、ほかのどこにもないものがあった。きみの自由が。


長田弘『深呼吸の必要』より

posted by koinu at 10:00| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする