2020年03月20日

フランス人の間で今読まれている詩

「実は今、フランス人の間でFBTwitterなどを通して読まれている詩があります。世界中が苦しむこの時期にも咲き誇る春、巡る季節について書かれた、読み人知らずの詩。日本語に翻訳してお届けします。」辻仁成


https://www.designstoriesinc.com/panorama/lasaison/


あれは2020年の3月だった。

通りに人はいなかった。商店は閉まり、人々は家から出られなくなった。


だけど、春はそのことを知らなかった。

花は咲きはじめ、太陽が照り、鳥たちは歌い、そろそろツバメたちがやってくる頃で、空は青く、いつもより朝が早くやってくるようになっていた。


あれは2020年の3月だった。

若者はオンラインでの勉強を強いられ、家での過ごし方を工夫し、人々はショッピングも、美容院に行くこともできなかった。もうすぐ、病院に場所がなくなってしまうというのに、人々はどんどん病気にかかっていった。


だけど、春はそのことを知らなかった。

公園を散歩する季節がやってきて、草木は緑色に色づいていた。


あれは2020年の3月だった。

おじいちゃん、おばあちゃん、家族、子どもを守るため、外出は禁止されていた。集会も、食事も、家族パーティーも無くなり、恐怖は現実となって、日々は恐怖に包まれた。


だけど、春はそのことを知らなかった。

りんごやサクラの木は花を咲かせ、葉っぱは力強く育っていた。


人々は本を読み、家族と過ごし、外国語を学んだり、バルコニーで近所の人と音楽を共有しはじめた。それは、連帯やこれまで持っていなかった価値観を生むために学んだ新しい表現の方法だった。

人々は健康や苦しみ、停止してしまった世界、急落した経済の大切さに気づいた。


だけど、春はそのことを知らなかった。

花は散り、果物がなって、鳥たちは巣を作り、ツバメたちがやってきた。


そして、自由になる日が訪れた。人々はテレビでそれを知った。ウイルスは私たちに負け、人々はマスクや手袋を外し、通りに出て、歌って、泣いて、近所の人たちと歓喜し合った。


その時、夏がやってきた。

春は何も知らなかったから、ウイルスや恐怖や死とともに、春はずっとそこにい続けた。春は何も知らなかったけれど、人々に生命力というものを教えた。


全てはうまくいく。家にいよう、自分たちを守ろう、そして、人生を楽しもう。

愛し合おう。


作者不明

訳 designstoriesinc

https://www.designstoriesinc.com/panorama/lasaison/

posted by koinu at 23:00| 東京 ☔| 報道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

『谷川雁詩集』現代詩文庫(思潮社)

「世界をよこせ」谷川雁


まっかな腫れもののまんなかで

馬車のかたちをしたうらみはとまる

桶屋がつくる桶そのままの

おそろしい価値をよこせ 涙をよこせ


なめくじに走るひとしずくの音符も

やさしい畝もたべてしまえ

青空から煉瓦がふるとき

ほしがるものだけが岩石隊長だ


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「東京へゆくな」谷川雁


ふるさとの悪霊どもの歯ぐきから

おれはみつけた 水仙いろした泥の都

波のようにやさしく奇怪な発音で

馬車を売ろう 杉を買おう 革命はこわい


なきはらすきこりの娘は

岩のピアノにむかい

新しい国のうたを立ちのぼらせよ


つまずき こみあげる鉄道のはて

ほしよりもしずかな草刈場で

虚無のからすを追いはらえ


あさはこわれやすいがらすだから

東京へゆくな ふるさとを創れ


おれたちのしりをひやす苔の客間に

船乗り 百姓 旋盤工 坑夫をまねけ

かぞえきれぬ恥辱 ひとつの眼つき

それこそ羊歯でかくされたこの世の首府 


駈けてゆくひずめの内側なのだ

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「たうん・あにま」谷川雁


かれの否定する霊魂のごとき町の

かたつむりに負われた夜

このかがやく種子に埋まくものは何か

若い薔薇の茂る空

かの橋を渡る一つの眼に

ささやく息吹は何か

無名の草 おまえ 一本の絃が

ゆうべの牢獄を鳴らすとき

ああ すべては沙漠

それを逃がれるこころがあろうか

泉があろうか

階段という階段を降りた風は

ゆうひの遺した金を疑い

冷たい素顔を吹く

町びとのかざす桃花心木の燭台に

森のけものの骨はやかれ

地球のへりだけが緑色にかがやく夜

一滴の霊魂のごときこの町で


『谷川雁詩集』現代詩文庫(思潮社)


真夜中に蒼ざめた森の中で、居た堪れれない気分になると、「知られざる者こそ王」と囁いてみる。

詩人たることを拒絶して、朱色の手帖を一枚ずつ破っていくと、飢えた人々たちが現れてくる。

岩角で死が嗤う、海の底で。

posted by koinu at 12:34| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする