「実は今、フランス人の間でFBやTwitterなどを通して読まれている詩があります。世界中が苦しむこの時期にも咲き誇る春、巡る季節について書かれた、読み人知らずの詩。日本語に翻訳してお届けします。」辻仁成
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あれは2020年の3月だった。
通りに人はいなかった。商店は閉まり、人々は家から出られなくなった。
だけど、春はそのことを知らなかった。
花は咲きはじめ、太陽が照り、鳥たちは歌い、そろそろツバメたちがやってくる頃で、空は青く、いつもより朝が早くやってくるようになっていた。
あれは2020年の3月だった。
若者はオンラインでの勉強を強いられ、家での過ごし方を工夫し、人々はショッピングも、美容院に行くこともできなかった。もうすぐ、病院に場所がなくなってしまうというのに、人々はどんどん病気にかかっていった。
だけど、春はそのことを知らなかった。
公園を散歩する季節がやってきて、草木は緑色に色づいていた。
あれは2020年の3月だった。
おじいちゃん、おばあちゃん、家族、子どもを守るため、外出は禁止されていた。集会も、食事も、家族パーティーも無くなり、恐怖は現実となって、日々は恐怖に包まれた。
だけど、春はそのことを知らなかった。
りんごやサクラの木は花を咲かせ、葉っぱは力強く育っていた。
人々は本を読み、家族と過ごし、外国語を学んだり、バルコニーで近所の人と音楽を共有しはじめた。それは、”連帯”やこれまで持っていなかった”価値観”を生むために学んだ新しい表現の方法だった。
人々は健康や苦しみ、停止してしまった世界、急落した経済の大切さに気づいた。
だけど、春はそのことを知らなかった。
花は散り、果物がなって、鳥たちは巣を作り、ツバメたちがやってきた。
そして、自由になる日が訪れた。人々はテレビでそれを知った。ウイルスは私たちに負け、人々はマスクや手袋を外し、通りに出て、歌って、泣いて、近所の人たちと歓喜し合った。
その時、夏がやってきた。
春は何も知らなかったから、ウイルスや恐怖や死とともに、春はずっとそこにい続けた。春は何も知らなかったけれど、人々に生命力というものを教えた。
全てはうまくいく。家にいよう、自分たちを守ろう、そして、人生を楽しもう。
愛し合おう。
作者不明
訳 designstoriesinc