


新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大が観光産業に打撃を与えている。中国などからの旅行者が減り、「2020年に訪日客4000万人」という政府目標の達成も危ぶまれ始めた。しかし実は観光業界の中からは、新型肺炎問題が浮上する前から、政府目標達成の難しさや観光政策のかじ取りを疑問視する声があがっていた。新型肺炎の終息後、何もなかったかのようにこれまでの観光戦略を続けるのか。再考が求められる。
「京都の町がガラガラだ」「奈良公園の鹿がせんべいを食べようと、数少ない観光客に群がっている」――。ネットやメディアには観光地の様子を伝える様々な情報が飛び交う。
団体ツアーのキャンセルに旅館業界が悲鳴をあげ、野村総合研究所は重症急性呼吸器症候群(SARS)の最悪期並の影響が仮に1年間続いた場合、訪日観光客は前年比34%減となり、国内総生産(GDP)を0.45%押し下げるとの試算をまとめた。自民党は6日、観光業者への金融面の援助を含む新型肺炎対策を提言。これに沿い政府も支援に乗り出す構えだ。
新型肺炎の観光への影響を一時的なものととらえ、支援で急場を乗り切り、影響が去れば従来通りの観光客誘致を再開すればいいか。決してそうではない。
政府の政策目標では20年の訪日客が4000万人、インバウンド消費額が8兆円。1人当たり消費は20万円となる計算だ。しかし19年の訪日客の実績は3188万人。前年比2.2%増の微増でひところの勢いはない。消費額はわずか4.8兆円で、1人あたりだと15万円台にとどまる。
消費不振の原因の1つが近隣地域への依存度の高さだ。中国、韓国、台湾、香港の4地域からの訪日客の比率は19年で70.1%。近隣からの旅行者は滞在も短期間で消費額も低い傾向が強い。昨年は日韓関係の悪化で韓国からの旅行者が減り、一段と中国への依存度は高まった。この市場を新型肺炎が直撃した。
20年夏には東京五輪・パラリンピックがある。しかしロンドン五輪などの結果をみると交通の混雑や宿泊費の高騰を見越し、外国からの旅行者はむしろこの時期を避ける傾向がある。田川博己・日本旅行業協会会長(JTB会長)は今年1月9日の記者会見で「政府目標の達成は人数、消費とも難しいだろう」との見通しを披露した。新型肺炎が問題化したのはその後だ。今年のインバウンド消費が不振に終わるとしたら、新型肺炎の影響ではなく、長年のひずみが顕在化したものと考えるべきだ。
中国からの観光客減少は欧州、東南アジアなど世界各地に影響を与えている。各国は当然、中国依存からの脱却や感染症など不測の事態への対策に力を入れる。日本も後れを取るべきではない。
【日経新聞】2月13日
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