2019年09月05日

『白髪小僧』夢野久作

『白髪小僧』(しらがこぞう)

小説家・夢野久作が、1922年に杉山 萌圓(すぎやま ほうえん)名義で発表した童話。誠文堂から自費出版で刊行された。


[概要]

『あやかしの鼓』でデビューするよりも前の、九州日報社の記者時代の作品である。ストーリーが非現実的であることから「童話」という形式をとって書かれているが、その実は、大人たちに読まれることを念頭に置いて書かれた作品である。

ストーリーは、大のお話好きである美留女姫が、自分自身の運命について書かれた本を見つけるところから始まる。本を読んでいくうちに次第次第と、物語と現実の境界があやふやになっていき、本を見つけたという当初の事実さえ怪しくなってくる。

この作品をしてすでに、夢野らしさの片鱗をうかがい知ることが出来る。他にも、夢の主題や、多義的に重ね合わせられた人格、男女性の希薄さ[1]など、夢野らしいテーマが多分に包含されている。

なお、肝心の白髪小僧は中盤から全然登場せず、およそ主人公とは思えない空気さ加減であるが、キット気のせいである。そう信じたい。

後半は大変錯雑としたストーリーである上に、「鸚鵡・鏡・蛇以外の4つの悪魔って何?」「青目先生が番する役目を負わされている物は何?」などの、種種の伏線を回収しないままに、尻切れトンボ的に終了してしまう。これに関しては作者本人が後に、『最初の組み立ては随分大部な長いものであったのを途中から切って結末をつけて出版した為に話の筋で残った処が出来た』と述べているほどである。夢野のコアなファンにとっては興味深い一作かもしれないが、それ以外の一般の読者にとっては、あまり目立った価値はないといっても過言ではないだろう。

夢野は幼時から絵が上手く、この本に収録されているイラストもすべて夢野自身が描いている。

残念なことに、売れた部数よりも寄贈した部数のほうが多かったという。なお、発表名義の「杉山 萌圓」は、作者の謡曲教授としての名前である。


[講評]

評論家の多田茂治は、魔物たちが、藍丸王の視覚・嗅覚・味覚・聴覚を奪いさり、自分たちが偽の王様となって君臨し好き放題を働こうとする筋書きをとりあげて、「欲望を刃止めなくふくらませすぎた近代社会批判であり、有り得べき国家論・天皇論を開陳したもの」と解説している。ただし「あまりにも複雑な仕掛けをしてしまったため、主題を読み取ることが難しくなってしまった失敗作」ともしている。


【脚注】

1)たとえば美留藻と紅矢は姿形がそっくりで、一方が一方に化けても、まるでバレないほどである。10代後半ともなれば、男女性の違いは一目瞭然で、このようなことは普通不可能であろう。「御伽噺ゆえ」といわれればそれまでだが、男女性の混交(アンドロギュヌス)は『犬神博士』『二重心臓』などにも見受けられることから、夢野にとって一つの重要なテーマになっていると考えられる。

2)多田茂治『夢野久作読本』 ISBN 4-902116-13-8 119ページ。


《ウィキペディア》より


【青空文庫】『白髪小僧』夢野久作

https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card936.html

posted by koinu at 23:00| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

夢野久作著作集〈3〉白髪小僧

長篇童話『白髪小僧』の完全版(「祖玄道人」による「序」と評言、著者による「巻頭語」および著者自筆の扉絵と挿絵全点を収録)と、第二部として三一書房版全集に未収録の95篇の童話作品(「九州日報」掲載)が「豚吉とヒヨロ子」の総題の元に収められた。
本文新字・正かな。
320E3E19-0885-4B52-BB80-34B7852B16E6.jpeg

ED0EFA1F-8E82-4171-93A1-FD67D0ED4AD3.jpeg

目次:

白髪小僧

豚吉とヒヨロ子
 正夢
 天狗退治
 石の地蔵様
 謎の王宮
 運の川
 金銀の衣裳
 猿小僧
 不幸の神像
 龍宮の蓮の花
 吠多と峨摩の泥棒
 章魚のお化
 若いヘクレスの人形
 金剛石
 罪深い人
 狼と弓
 美しい子供
 当つた予言
 蜥蜴
 稲取村の話
 悪い牝猫
 遺産争ひ
 頭と尻尾
 人間の怖い訳
 蟹の仇討
 角笛の響き
 金の卵
 威張り鼠
 盃中の蛇影
 不信の亀
 女
 梁上の君子
 鳥のお家
 赤い花
 赤い林檎
 誰れの手
 哀れな兄弟
 犬尾石
 葡萄パン
 底なし樽
 金の烏
 世界一週の犬
 沼の魔物
 お寺の釣鐘
 魔術の幸吉
 頬白の子
 泣虫四郎坊
 口の禍
 お化の正体
 まぬけ次郎
 いもの遠足
 鉄砲の名人
 泥棒の番
 大変な指環
 ねづみ
 王様
 泥棒
 馬鹿遠慮
 歩きかた
 やまびこ
 伝書鳩
 親のまね
 やまばん
 オオサワキ
 桃太郎のお母さん
 銀のうた銀の踊り
 一銭
 馬と鼠
 蜜柑とバナナ
 弱虫太郎
 凍えた蛇
 オモチヤの探偵 三人兵士
 筆入
 紅梅の蕾
 水飲み巡礼
 馬鹿な百姓
 トンボ玉
 茶目九郎
 凧と雀
 お池の水
 松と桜
 鵞鳥の群
 虫と霜
 猿
 雛つ子
 驢馬の紛失
 おもちや二つ
 何だらう何だらう
 健ちやんの希望
 ドングリコツコ
 ピヨン太郎
 三人姉妹
 寸平一代記
 人が喰べ度い
 豚吉とヒヨロ子
 ルルとミミ

〔解題〕夢野久作の童話体験(西原和海)

9458FDE7-A354-4576-8983-0664C4798DCF.jpegA8B3CB14-DE86-4BF4-BC64-4496D774079F.jpeg
夢野久作著作集〈3〉白髪小僧 
1980年刊行 
作家としてデビューする以前から、書き綴る童話作品の数々。挿絵も著作自身が描いて、美術才能も開花させていた。

posted by koinu at 21:00| 東京 ☁| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

【愛】と冷酷な現実と落差

【愛】という漢字は後ろを振り返って、たたずむ人の形に心を加えてできているそうだ(白川静さんの『常用字解』)。立ち去ろうとしても残した人のことが気になって立ち去りがたい。そんな気持ちの形がもともとの【愛】だという
▼当時五歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃん。当時十歳の栗原心愛(みあ)さん。二人の名を覚えている人も多いだろう。少し前の虐待事件の犠牲者である。二人の名にある【愛】と冷酷な現実とのあまりの落差が悲しい▼もう一人、その漢字の入った名前を加えなければならないのがつらい。大塚璃愛来(りあら)ちゃん。鹿児島県出水(いずみ)市での虐待事件で亡くなった四歳の女の子である。母親の交際相手だった男が暴行容疑で逮捕されている。愛(いと)しいと頬ずりされるべき幼い命がまた失われた▼母親が夜、仕事で出かけた後、璃愛来ちゃん一人で外出し保護されることが四度あったという。気になって立ち去りがたい気持ち。あの漢字の成り立ちでいえば、残した子どもを気にしなかったのは母親だけではないかもしれない▼出水市は璃愛来ちゃんにあざがあるという情報を県警に伝えていなかった。児相は県警から保護の必要があると指摘されながら、動かなかった
▼どんな事情があったかは分からない。が、かかわった大人たちはその子の日々をどこまで気にし、大丈夫だろうかと本気で後ろを振り返っていたか。【愛】を疑う。
《東京新聞》洗筆より
posted by koinu at 09:00| 東京 ☁| 報道 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする