2019年06月21日

『ジェイムズ・ジョイスの謎を解く』 柳瀬尚紀 (岩波新書)

20世紀最大の文学者の一人であるジョイスの代表作『ユリシーズ』。このとてつもなく巨大で重層的な作品に作者は無数の謎をしかけた。なかでもダブリンの安酒場で滔々と語る《俺》とは誰か,この作品中最大の謎に緻密な論証により世界で初めて決定的な解答を与え,さらに次々に現れるあらたな謎を快刀乱麻に読み解いて,文学的スリルと興奮の世界へ誘う。

5AE9BAD8-3151-43DE-85AD-E900F66B6131.jpeg

『ユリシーズ』の第12章はホメロスの『オデュッセイア』の出てくる一つ目の巨人キュクロプスが章題。名前のわからない「俺」が主筋を語り、正体不明の語り手がパロディを挿入する。従来は(未だに)「俺」は「取り立て屋」なる人物だといわれてた。しかし「俺」一人称キャラクターは「犬」だった。世紀の「大発犬」を検証していく。全18挿話のうちの1章について新書1冊で面白く解く。柳瀬さんの翻訳は訳本と原典を突き合わせて、解読する最大の興趣がある。
B2889754-CB70-44D6-8B6E-856843488704.jpeg

1995年11月3日に読売新聞紙上ではじめて筆者が「<俺>=犬」説を披露して、国内外からさまざまな反応があって、外国からのもっとも早い反応はジョイスの縁者かららしい。


「ジェイムズ・ジョイスは、自分が実に貧しい創造的想像力しか持ち合わせていないと語ったことがあります。金の扱いがまるでできないことを除けば、私の受け継いでいるのもせいぜいそれしかありませんので」と、同氏はアイリッシュユーモア(?)を付け加え、「私の想像力では<俺>を犬として第12挿話を読むことはできそうにありません」と書いてきた。


0ABACF65-5BBE-4AAD-B5D1-02F578181379.jpeg

語り手が故ミセス・リオーダン夫人の元飼い犬のテリア犬だとすると、謎だった箇所が明らかに筋が通る。

語り手の使う間投詞「Gob!」が「God!」の意味で使われて、「b」を裏返して、反対から読むと「dog」になるアナグラムはジョイスらしい。「俺」がぶらりとパブから出て、下痢便を出すのも人間としての「俺」が小用を足すという解釈よりも尤もらしい。わんわんと臭う解釈に脱帽です。



02577B12-688B-4C2A-B8BC-4FF94E0D8B5A.jpeg
posted by koinu at 13:00| 東京 ☔| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする