2019年06月12日

『金沢・酒宴 』吉田 健一( 講談社文芸文庫)

『金沢・酒宴 』吉田 健一( 講談社文芸文庫)

金沢の町の路次にさりげなく家を構えて心赴くままに滞在する、内山という中年の男。名酒に酔い、九谷焼を見、程よい会話の興趣に、精神自由自在となる"至福の時間"の体験を深まりゆく独特の文体で描出した名篇『金沢』。

灘の利き酒の名人に誘われて出た酒宴の人々の姿が、四十石、七十石入り大酒タンクに変わる自由奔放なる想像力溢れる傑作『酒宴』を併録

「菊正という酒はどこか開き直った、さよう、然らば風のところがあって寝転んでなどは飲めないが、こっちもその積りで正坐して付き合っていれば、味は柾目が通っていて、酔い心地もかえって頭を冴えさせるのに近いものだから、まずは見事な酒である。これに比べると、酒田の初孫という酒はもっと軟かに出来ていて、味も淡々として君子の交りに似たものがあり、それでいて飲んでいるうちに何だかお風呂に入っているような気持ちになって来る。自分の廻りにあるものはお膳でも、火鉢でも、手を突き出せば向うまで通りそうに思われて、その自分までが空気と同じく四方に拡る感じになり、それが酔い潰れたのではなしに、春風が吹いて来るのと一つになった酔い心地なのである。」(「酒宴」)


posted by koinu at 11:01| 東京 ☀| 本棚 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする