2018年08月30日

『女靴下の話』西東三鬼

『女靴下の話』西東三鬼


 人間五十年以上も生きていると、誰でも私の経験したような、奇々怪不可思議な出来事に一度や二度はあうものであろうか。恥を語らねば筋が通らない。話は私の朝帰りから始まる。


 およそ朝帰りなるもの、こんないやな気持のものはない。良心の苛責といつてしまえばそれまでだが、もつと肉体的な、たとえばズボンのうしろに自分だけが尻尾をぶらさげて歩いているような、みじめな気持である。さてその朝帰りの玄関に出迎えたのが、思いきや、十年以上も会わない東京の悪友で、のつけのセリフが「おかえんなさいまし、エヘヘ」であつた。どさくさまぎれの朝酒が夕酒になる頃、初老の悪童のろけていうには、輓近二十二歳の愛人を得て昼夜兼行、多々ますます弁じているが、艶運はともかく、このホルモンは羨ましかろう等々。


 さてその晩の汽車で帰る彼を大阪駅に送り、別杯さめやらぬままにウトウトしながら郊外電車で帰宅した。そしてその翌朝、外套のポケットの煙草がほしいと家人にいうと、煙草の代りに指先にぶらさげて来たのが、何と二、三度用いたナイロンの女靴下。それが膝までの短いやつで、ごていねいに両足そろつている――。


 私は不覚にも狼狽した。そして電光の速さで前々夜のおぼろの記憶をたどつたが、彼女には膝までの靴下を用いる趣味はないはずだ。しかし、万一ということもあるから、おそるおそる電話でおうかがいを立てると「ご冗談でしょ」と受話器の音ガチャン。まさにやぶ蛇である。家人に何と弁解したか、これを読まれる方々のご参考に供したいが、実のところ、ぜんぜん身におぼえのないことだから知らぬ存ぜぬの一点張りであつた。


 その真相は今もつて判らない。多分エロスの神の使者が女に化けて、すでに女体に触れた靴下をひそかに私のポケットにすべり込ませ、少しばかり老人を燃え立たせたのであろう。



「西東三鬼読本(俳句臨時増刊号)」角川書店 1980(昭和55)年4月

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2018年08月20日

新しい世界の文学 (白水社)1963-1978年

01 『アンデスマ氏の午後・辻公園』マルグリット・デュラス(Marguerite Duras)

02 『アテネに死す』 Homo Faber マックス・フリッシュ(Max Frisch)

03 『逃亡者』ピエール・ガスカール(Pierre Gascar)

04 『ゲルニカの子供たち』 Die Kinder von Gernika ヘルマン・ケステン(Hermann Kesten)

05 『影の法廷・ドロテーア』ハンス・エーリヒ・ノサック(Hans Erich Nossack)

06 『新しい人間たち』 The New Men C・P・スノウ(C. P. Snow)

07 『愛せないのに』エルヴェ・バザン(Herve Bazin)

08 『赤毛の女』アルフレート・アンデルシュ(Alfred Andersch)

09 『美しい夏・女ともだち』チェーザレ・パヴェーゼ(Cesare Pavese)

10 『岬・世捨て人』アンリ・トマ(Henri Thomas)

11 『窓の灯』 Die erleuchteten Fenster H・V・ドーデラー(Heimito von Doderers)

12 『泉』チャールズ・モーガン(Charles Morgan)

13 『死を忘れるな』 Memento Mori ミュリエル・スパーク(Muriel Spark)

14 『ハドリアヌス帝の回想』マルグリット・ユルスナール(Marguerite Yourcenar)

15 『ジョヴァンニの部屋』ジェイムズ・ボールドウィン(James Baldwin)

16 『木のぼり男爵』 Il Barone Rampanta イタロ・カルヴィーノ(Italo Calvino)

17 『黒いいたずら』 Black Mischief イーヴリン・ウォー(Evelyn Waugh)

18 『神のあわれみ』 La pitie de Dieu ジャン・コー(Jean Cau)

19 『走れウサギ』ジョン・アップダイク(John Updike)

20 『ライ麦畑でつかまえて』J・D・サリンジャー(J. D. Salinger)

21 『同期生』 Коллеги ワシーリー・アクショーノフ(Vasilii Aksenov)

22 『蜂の巣』 La Colmena カミロ・ホセ・セラ(Camilo José Cela)

23 『九時半の玉突き』 Billard um halbzehn ハインリヒ・ベル(Heinrich Boll)

24 『オートバイ』A・ピュエール・ド・マンディアルグ(Andre Pieyre de Mandiargues)

25 『サートリス』ウィリアム・フォークナー(William Faulkner)

26 『南』 Le Sud イヴ・ベルジェ(Yves Berger)

27 『ヤーコプについての推測』 Mutmassungen uber Jakob ウーヴェ・ヨーンゾン(Uwe Johnson)

28 『網のなか』アイリス・マードック(Iris Murdoch)

29 『三十歳』 Das dreißigste Jahr インゲボルク・バッハマン(Ingeborg Bachmann)

30 『とびはねて山を行く』 Idzie skaczac po gorach エージュイ・アンジェエフスキ(Jerzy Andrzejewski)

31 『おしゃべり・あるオペラ歌手の華麗な瞬間・鏡の中で』ルイ・ルネ・デ・フォレ(Louis-René des Forêts)

32 『フランドルへの道』クロード・シモン(Claude Simon)

33 『赤いおんどり』 Crveni petao leti preme nebu ミオドラーク・プラトーヴィッチ(Miodrag Bulatovic)

34 『悲しき愛』 L'amour triste ベルナール・パンゴー(Bernard Pingaud)

35 『活火山の下』マルカム・ラウリー(Malcolm Lowry)

36 『闇の中に横たわりて』ウィリアム・スタイロン(William Styron)

37 『マルコムの遍歴』ジェイムズ・パーディ(James Purdy)

38 『おそくとも十一月には』ハンス・エーリヒ・ノサック(Hans Erich Nossack)

39 『月とかがり火』チェーザレ・パヴェーゼ(Cesare Pavese)

40 『コレクター』ジョン・ファウルズ(John Fowles)

41 『犠牲者』ソール・ベロウ(Saul Bellow)

42 『すべての王の臣』ロバート・ペン・ウォレン(Robert Penn Warren)

43 『子供の領分』 L'Opoponax モニック・ウィティツグ(Monique Wittig)

44 『賜物』ウラジーミル・ナボコフ(Vladimir Nabokov)

45 『ロル・V・ステーンの歓喜』マルグリット・デュラス(Marguerite Duras)

46 『異物』 Les Corps etrangers ジャン・ケロール(Jean Cayrol)

47 『魅惑』ピエール・ガスカール(Pierre Gascar)

48 『モリソンにバラを』 Une rose pour Morrison クリスチアヌ・ロシュフォール(Christiane Rochefort)

49 『歴史』クロード・シモン(Claude Simon)

50 『原初の情景』 La scene primitive ベルナール・パンゴー(Bernard Pingaud)

51 『ケンタウロス』ジョン・アップダイク(John Updike)

52 『絶望』ウラジーミル・ナボコフ(Vladimir Nabokov)

53 『ぼくはシュティラーではない』マックス・フリッシュ(Max Frisch)

54 『スターン氏のはかない抵抗』ブルース・ジェイ・フリードマン(Bruce Jay Friedman)

55 『ルイーズの肉体』 Le corps de louise ジャン=ミシェル・ガルデール(Jean-Michel Gardair)

56 『旅路の果て』ジョン・バース(John Barth)

57 『友だち』 A Separate Peace ジョン・ノールズ(John Knowles)

58 『呪い』テネシー・ウイリアムズ(Tennessee Williams)

59 『その声はいまも聞える』 Je l'entends encore ジャン・ケロール(Jean Cayrol)

60 『女ゲリラたち』 Les Guerilleres モニック・ウィティッグ(Monique Wittig)

61 『一つの砂漠の物語』 Histoire d'un desert ジャン・ケロール(Jean Cayrol)

62 『母なる夜』 Mother Night カート・ヴォネガット・ジュニア(Kurt Vonnegut, Jr.)

63 『父たち』 Fathers ハーバート・ゴールド(Herbert Gold)

64 『ブロディーの報告書』 El informe de Brodie ホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)

65 『半島』 La Presqu'ile ジュリアン・グラック(Julien Gracq)

66 『視界』 A Field of Vision ライト・モリス(Wright Morris)

67 『鰯の埋葬・バビロンの邪神』フェルナンド・アラバール(Fernando Arrabal)

68 『遅すぎた夏』 Altherrensommer ルードルフ・ハーゲルシュタンゲ(Rudolf Hagelstange)

69 『盗まれたメロディー』ハンス・エーリヒ・ノサック(Hans Erich Nossack)

70 『エリーズまたは真の人生』 Elise ou la vraie vie クレール・エチェレリ(Claire Etcherelli)

71 『刑事』ブルース・ジェイ・フリードマン(Bruce Jay Friedman)

72 『ヒズ・マスターズ・ボイス』 La voix de son maitre ベルナール・パンゴー(Bernard Pingaud)

73 『物語なき夏』マドレーヌ・シャプサル(Madeleine Chapsal)

74 『ロボット』 L'automa アルベルト・モラヴィア(Alberto Moravia)

75 『コルヴィラーグの誓い』エリー・ヴィーゼル(Eliezer Wiesel)

76 『孤独な男』ウージェーヌ・イヨネスコ(Eugene Ionesco)

77 『決闘・歩いている三人の会話』ペーター・ヴァイス(Peter Weiss)

78 『若きWのあらたな悩み』ウルリヒ・プレンツドルフ(Ulrich Plenzdorf)

79 『インディア・ソング/女の館』マルグリット・デュラス(Marguerite Duras)

80 『シネロマン』 Cine roman ロジェ・グルニエ(Roger Grenier)

81 『物の時代・小さなバイク』ジョルジュ・ペレック(Georges Perec)


別巻『新しい世界の文学別巻』

白水社(HakusuiSha)

新しい世界の文学シリーズ

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2018年08月15日

ロビンソン・ジェファーズの詩篇より

人間を離れた美を知ることは難しくない

海を 嵐を 山を見て見ろ

美はその魂でありその意味だ

人間性は遙かに劣る美

      「この世の不思議」


大地 岩 そして水

獣 男に女 太陽 そして月と星

驚くべきこの物のもつ美を感じとり話すことだ


自然の美をあますところなく知り

表現することこそ詩の唯一の目的だろう

      「物の美」



大地は悠久の時間を持つ

人とは寄せては来ては時とともに退いてゆく潮の流れであり

あらゆる所行とすべては消え去ることを大地は知っているのだ

      「カーメル岬」


『ロビンソン・ジェファーズ詩集』中嶋完訳編(思潮社 )より

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2018年08月12日

アイス🍨シャーベット!

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見た目どおり、美味しい涼しさ!
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2018年08月09日

横顔の肖像

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じっと観察すること
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2018年08月08日

レディー・ガガの名言

自分に対する否定的な心を捨てるのよ。

自分自身ではなく自分を怖気づかせる原因を作った人たちを否定するの。

(レディー・ガガ)

https://matome.naver.jp/odai/2133111686821977701

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2018年08月01日

真夏日が続く空

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空の青さを感じて観測するのだった。
posted by koinu at 15:00| 東京 ☁| 観測 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする